死亡事故後も続く子供の熱中症搬送。なぜ学校は学習しないのか?

愛知県豊田市の梅坪小学校で、一年生の子供が熱中症で死亡するといういたたまれない事故が起こりました。記録的な猛暑が続き、学校側も「高温注意情報」を把握していたにもかかわらず、日陰もない公園での野外学習を決行し、約1kmの道中に一度も水分補給をしなかった判断に過失があることは確実で、学校側の認識の甘さが露呈した形です。


しかも、他の生徒も続々と不調を訴えており、中には嘔吐をする生徒も出ていたとのこと。さながら現代版「バターン死の行進」(※第二次世界大戦中の1942年、日本軍が炎天下に捕虜を延々と行進させて、たくさんの死者を出した惨事)や「インパール作戦」(※同じく第二次世界大戦中の1944年、補給を軽視した杜撰な作戦計画により、多数の犠牲を出した日本軍の攻略作戦)としか思えません。今回の報道を見て、子供を学校に預けるのが怖くなった親も多いのではないでしょうか?

ですが、はっきり言って、この事故は完全に起こるべくして起こった事故だと思います。Twitterを開けば、「水筒禁止やスポーツドリンク禁止を解除してほしいと学校に要請をしても却下された」等の親の報告を、事故の前から毎日のように見かけました。「熱中症で搬送されたというヒヤリハットが続いているのに、こんな認識ではいつかどこかの学校で大事故が起こるのでは…」と思っていましたが、残念ながら危惧した通りのことが起こってしまったわけです。

「学習」という概念を知らない学校


これを機にエアコン導入の早期化や学校行事の中止・延期等が叫ばれていますが、児童虐待にしろ、イジメにしろ、長時間労働にしろ、ストーカーにしろ、「センセーショナルな死亡事例が発生しない限り、対策が進まない」という日本社会の体質は、本当に最低極まりないと思います。

ただし、中にはこんなに死亡事故が大々的に報じられているにもかかわらず、あろうことか子供の命を危険に晒し続ける学校がたくさんあるようです。死亡事故が起こった翌日の2018年7月18日にも、以下のように学校行事や体育の授業で子供たちが搬送されるケースが相次ぎました。

猛暑日にリレー、中学生9人熱中症か…3人重症

熱中症の疑いで児童38人搬送、人文字の撮影で 宮城

小学生5人、熱中症の疑いで搬送 サッカーの授業後


さらに、それでも懲りず、翌日の7月19日にも日本の至る所で同様の事故を学校がやらかしているのです。

エアコンない体育館で防犯教室、25人熱中症か

熱中症か、部活中の高校生4人を搬送 命に別条なし

山口)9人が熱中症訴える 下関の県立豊浦高校 (スポーツ大会)

これらのケースで死亡者が出なかったのが不幸中の幸いですが、死亡事故からすらも何も学習できない学校がこれほどたくさん存在することに、驚きを隠さずにはいられませんでした。

先日の西日本豪雨でも、「ため池の決壊が心配されているからもしもの時のために携帯電話を持たせたい」と伝えた親に対して、学校側は「校則でダメだからダメ」と原理原則を貫いた話がTwitterで出回っていましたが、前例主義という病は決して梅坪小学校だけの問題ではなく、日本の学校の至る所に染み渡っているのでしょう。

クールビズしていないTVが熱中症の報道?


でも何故、彼等は前例ばかりを重んじて、子供の命を第一に考えられないのでしょうか? それにはやはり前例が大事だというメッセージを発信し続けている人たちが、この社会にたくさんいるからだと思います。

たとえば、熱中症の報道を見ようとテレビをつけると、コメンテーターたちの半分以上がしっかりとジャケットを着こんでいました。現東京都知事である小池百合子氏が環境大臣だった時に奨励した「クールビズ」は既に13年が経っているのにもかかわらず、平気で昭和の前例に倣い、厚着をしているわけです。


もちろんスタジオはエアコンで涼しいのかもしれません。ですが、そのせいで周りには寒いと感じている人もいることでしょう。そして何より、影響力のある彼等が「夏でも正しい服装はジャケットを着ることです!」という“悪しき見本”を公共の電波で発信していることが、「暑い中でもジャケットを羽織らないと先方に失礼だ」という価値観を人々が捨てきれないことに繋がっている側面もあるのではないでしょうか?

テレビのコメンテーターたちはあれこれ偉そうに事故を追求しますが、一番の元凶は「前例主義」です。自分たちもその同じ穴の狢ということを是非分かって欲しいと思います。


責任論では子供の命は救えない


今回の死亡事故に関しても、学校教育に影響力のある全ての人の問題なのであって、担任の先生や校長先生だけを責めても何ら解決しないと思います。事故後も相次ぐ熱中症搬送の事例を見れば一目瞭然なように、「子供の命より前例が大事」というのはもはや日本の公教育全体に蔓延る病であって、全国どこの学校でも死亡事故が起こる可能性は十分ありました。

また、末端の教師たちは前例を守るよう、日々上司や教育委員会やモンスターピアレントから様々な圧力がかけられているわけですから、一人の力で臨機応変に対応することはかなり困難を伴うはずでしょう。

実際、Twitterでは、終業式の水筒持ち込みを提案したところ、教頭先生に「そんなもん倒れる奴が悪い」と却下されたという若手教員の投稿があったほどです。社会や組織のシステムそのものに欠陥がある時、責任論では「次の重大事故」を防ぐことは出来ません。

本当に、健康第一で行動出来ていますか?


前例や慣習を重んじているせいで、適切な予防行動を取れていないのは、学校やクールビズを着用しないコメンテーターたちだけではありません。

たとえば、私は去年から日傘を愛用しています。日本でも指折りの猛暑地域熊谷市を抱える埼玉県は「日傘男子」を積極的に奨励しています。ところが、依然として「男たるもの日傘をさすのは恥ずかしいこと!」という謎の固定観念が日本社会の多数を占めているため、内心は日傘をさしたいと思っていても「自粛」をしている男性が少なくありません。


本来守るべきは男としての振る舞いなどではなく、自身の健康なのに、優先順位がおかしくなっている典型例と言えるでしょう。人間というのは、平気で自分の命や健康よりも前例や慣習や組織秩序(しかも破ったからといってさほど秩序が乱れるわけではないことばかり)を重んじるケースが非常に多く、とりわけその傾向が日本人は強い。

でも、そのせいで健康を害して取り返しのつかない事態にまで進展する人が多々いるわけですから、いい加減私たちはしっかりと己の判断基準の愚かさを自覚し、改めなければなりません。

そして学校の先生に限らず、健康に関する知識やリテラシーが低い人が本当に多過ぎると思います。「健康第一」というのはありきたりなフレーズですが、今一度それを実生活落とし込むことが、私たちすべての国民に求められているのではないでしょうか?

死亡事故後も続く子供の熱中症搬送。なぜ学校は学習しないのか?
※登山時の私の服装。皮膚の老化は、加齢よりも紫外線が主原因(約8割)と言われているので、徹底ガード。やや熱中症に弱い傾向にあるので、先日の炎天下の日帰り富士山では水分4.5L補給しました。


(勝部元気)
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