自民党の杉田水脈衆議院議員が、月刊誌「新潮45」2018年8月号に「LGBTは『生産性』がない」という主張の寄稿をして、大きな非難を浴びています。
杉田氏はこの手の発言は決して初めてではなく、国会議員の落選中だった2013年に出演したインターネットTV『日いづる国より』でも、「生産性の無い同性愛の人たちに皆さんの税金を使って支援する、どこにその大義名分があるのですか?」と述べており、改めて自分の主張を述べた形です。
ようやくマスコミで問題視され始めた杉田発言
既に多くの論者が指摘しているように、国会議員という立場になった者の発言として、当然許されないものでしょう。生身の人間に対して「どれだけ利益を生むか」という“生産性”でジャッジすること等、全てにおいて問題点しかありません。
杉田氏の酷い発言はLGBT差別だけに留まりません。たとえば、BBCが日本の性暴力の現状を報道した『Japan Secret Shame』のインタビューでも、彼女はジャーナリストの山口敬之氏から受けた性被害を告発している伊藤詩織氏を、「女として落ち度があった」とVictim Blaming(被害者叩き)をしたことで、世界の視聴者から非難を受けていました。
それでも一部の界隈だけで問題になるばかりで、これまでマスコミの動きはとても鈍かったと感じていますが、ようやくここに来て、取り上げるメディアも増えて来た印象です。権力ある国会議員による度重なる差別発言は当然社会への悪影響は大きく、議員辞職に相当するレベルであると言えるでしょう。
自民党の二階幹事長は「人それぞれ政治的立場、色んな人生観もある」として問題視しない方針のようですが、以前から同様の発言を繰り返していたことが自明の彼女を比例当選圏内にリスト入りさせた自民党の責任も大いにあります。
ただし、先月6月26日「子どもを産まないほうが幸せじゃないかと勝手なことを考えて(いる人がいる)」と発言し、杉田氏と類似の考えを持っていることを表明した人が今なお幹事長を務めているわけですから、杉田氏が自民党の考えに反するとして問題視されるどころか、むしろ「よく言った」と思われていそうです。
杉田氏相手でも自己責任論で責めてはいけない
一方、この発言を機に、杉田氏の元にはメールで殺害予告が届いたとのことです。これは絶対にやってはいけないことです。たとえ、どのような人物が相手であろうと、生命に加害を加えられても良い理由は一切ありません。早く加害者が特定され、杉田氏の身が守られることを願います。
ただし、この殺害予告に対して、インターネットでは「殺害予告を受けたのは、差別発言をした杉田氏にも責任があるのではないか」という趣旨の自己責任論的批判が少なくありませんでした。
これに関しては明確に反対しておきたいです。
「本人に責任がある」と自己責任論で責め立てるのは、伊藤詩織さんに対して杉田氏がやったことと同じです。もちろん過失が一切ない伊藤詩織さんのケースとは同列に並べることはできないですが、杉田氏と同じようなやり方は用いてはいけないのです。
名誉男性はホモソ社会の捨て駒
そして、ここで一つ考えてほしいことがあります。なぜ、杉田水脈という過激な差別思想の持主で、論客としての能力も明らかに欠けている人間が、あろうことか国会議員という地位を得ることが出来たのでしょうか?
その背景が如実に分かるのが、先述のインターネット番組『日いづる国より』のプロデューサーを務める作曲家・すぎやまこういち氏が、番組内で放った以下の発言でしょう。
「男性からは言いにくいことをガンガン言っていただくのはありがたいですね。そういう意味で、女性の発言というのは日本国にとってとても大事な事で、(中略)我々男性が言いにくいことを言ってくれて助かりますわ」
「こういったことを書いて杉田水脈さんのブログが何回も炎上するように書いてください」
彼女のような存在は「名誉男性」と指摘されることもありますし、著述家の古谷経衡氏は「オタサーの姫(※男性ばかりのオタクサークルでチヤホヤされている少数の女性のこと)」だと指摘していますが、結局彼女たちの存在は、「ホモソーシャル(女性嫌悪および同性愛嫌悪)社会の主張を代弁するために担ぎ出された使い捨ての駒」に過ぎないのです。
女性活躍が「杉田水脈ルート」という現状
もちろん1ミクロンも杉田氏個人を容赦するつもりはありません。ただし、それとは別に、この根本的な「杉田水脈なるもの」を欲するホモソーシャル社会の“源泉”をどうにかしない限り、仮に杉田氏が議員辞職をしたとしても、第二の杉田水脈や第三の杉田水脈が延々と担ぎ出されるだけです。
当たり前のことですが、女性が仕事で活躍をして社会で地位を獲得しようと思った時、そこには分厚いガラスの天井が存在します。そのために、優秀な女性が真っ当なルートでのし上がることがほとんどできません。そのガラスをすり抜ける数少ない裏口が、この「杉田水脈ルート」なのです。
そして、女性が活躍するためにはホモソーシャル社会に迎合し、「杉田水脈ルート」を歩まなければならないという状況は、国会議員にだけに限ったことではないでしょう。芸能界等はもちろんのこと、一般社会の中でも理不尽に黙り、地位ある男性による差別的思想をヨイショしなければならないシチュエーションが無限に転がっています。
現状の「女性活躍」にもそのような側面が多々あるのではないでしょうか? 安倍政権が女性活躍を掲げてから様々な取り組みが始まったものの、ジェンダーギャップ指数が年を追うごとに下がる現状を見れば、「女性の“人としての”活躍」は全然手付かずのままであることが分かるはずです。
とにかく、第二の杉田水脈や第三の杉田水脈の登場を防ぐためには、ヨーロッパのジェンダー平等先進国が行ったアファーマティブアクション等を導入する等、よりドラスティックな政策推進が必要です。杉田議員個人の問題に加えて、そのような社会全体というシステムの問題にも目を向けて欲しいと思います。
(勝部元気)