先日、衝撃的なニュースが日本を駆け巡りました。
 ついにAIが東大入試を、それも日本最高峰レベルである医学部直通コース「理科Ⅲ類」の首席合格点をたたき出したというのです。


 本当の首席を50点近くも引き離す圧倒的勝利。逆に、人間から見れば「歴史的大敗」になるでしょうか。

 なんにせよ、ここ数年続いた「能力自体の価値」の大暴落は、止まるどころか一層激しくなりそうです。

 もはやAIに勝てない人間が、わざわざ東大に入るために勉強するなんて時代遅れのようにも見えるかもしれません。

 一方で、4月21日にも教育界を激震させる発表がありました。受験を通した人間的成長を描いた人間ドラマ作品『ドラゴン桜』の名前を冠する一般財団法人ドラゴン桜財団の設立記者会見です。

 同財団は、「全ての挑戦者にエールを。」をスローガンとして、主に中高生(既卒生や高認資格取得者なども含む)を対象とした学力不問・返済義務なしの給付型奨学金の支給を通じた教育支援を目的としています。

 代表理事には自身も偏差値35から二年間の浪人の末に大逆転合格を果たした経験を持つ西岡壱誠氏が就任し、理事として『ドラゴン桜』原作者の三田紀房氏、株式会社コルク代表の佐渡島庸平氏が名を連ねます。

 30~60万円の奨学金を、学力不問・用途不問で給付する異様さが目立つ中、一点だけ加えられた「基本的には東大を目指す」条件が特に目を引きます。

 いったいなぜ、この時代に敢えて東大を名指しする奨学金を立ち上げたのでしょうか? 代表理事である西岡氏にインタビューを行いました。

「東大を目指す若者限定」財団奨学金を立ち上げた男に直撃取材。...の画像はこちら >>

「用途不問」の奨学金を立ち上げた理由

ーー人気漫画の名前を冠した財団名ですが、なぜ「ドラゴン桜」の名をつけたのでしょうか?

西岡:「ドラゴン桜」という名前は、ただのタイトル以上の意味を持っています。この名前には、挑戦や成長を象徴する力強さがあります。

 ドラゴン桜のストーリーは、どんなに困難な状況でも諦めずに成し遂げる姿を描いており、その精神が私たちの活動にも重なると感じています。


 だからこそ、あえてこの名前を使うことで、より多くの人に勇気を与え、進むべき道を切り開いてほしいという願いを込めているんです。

ーー「困難を切り拓くため」には、確かにお金が必要です。ですが、普通の奨学金ならば勉強用途に限るところを、この財団奨学金は「用途不問」を公言しています。極論を言うなら旅行や遊びにも使えてしまうわけですが、なぜ用途を問わないのでしょうか?

西岡:勉強に集中できる環境を作ることは、実は非常に重要だと考えています。

 例えば、良い机や椅子、照明、ノート、パソコンなど、学びやすい環境を整えるために投資することは、勉強そのものを効率的に進めるために必要不可欠です。これらにお金を使うことで、集中力や学びの質が向上するので、結果的に「勉強のため」のお金使いになります。

 また、勉強以外でも、自分の視野を広げたり、リフレッシュできる経験に投資することは、精神的な成長に繋がります。バランスよくお金を使うことが、学びや人生を豊かにする手助けになると信じています。

東大に行くことは“いいこと”なのか

ーーバランスのお話が出ましたが、現代日本では東京一極集中と地方の過疎化が問題になっています。先日私が出した「アンダーマッチング」の記事でも、「東大に行かせずとも地元国立大に行かせた方が、地域を活性化させるはずだ」と多くの方が指摘されていました。実際、地方から東大に来た私の同級生たちの多くは、やはり東京で就職する道を選んでいるようです。やはり、優秀な人材が東京に吸われる懸念は無視できないのではないでしょうか?

西岡:東大への進学が必ずしも地方を寂れさせるわけではないと思っています。

 むしろ、地方からの人材が東京に進学し、そこで得た知識や経験を地域社会に還元することが非常に大切です。


 地方には地方の良さがありますし、都市部と地方のバランスを取ることが、これからの社会には必要だと感じています。東大に進学することで、地方に帰って新しい価値を生み出す人が増えることを私は望んでいます。

ーー徹頭徹尾「東大」を掲げていらっしゃいますが、AIが東大入試を突破したニュースや海外大進学の熱が高まっていることを鑑みると「東大は時代遅れのオワコン」という意見も無視できないような気がしてしまいますが……。

西岡:東大が「時代遅れ」かどうかは、個人の価値観や時代背景による部分もありますが、東大という学び舎は今もなお、日本社会の中で非常に重要な役割を果たしています。

 ただ、確かに社会は多様化しており、他にも素晴らしい教育機関はたくさんあります。

 大切なのは、東大に行くことが目的ではなく、どんな環境でも自分自身を高めていけることです。東大を目指すことが一つの選択肢であることには変わりありませんが、それが唯一の道ではありません。

日本で一番東大不合格者を出す高校は

 自分の人生を生きるためには、金と同じくらいに「背中を押してくれる大人からのエール」が要ります。

 私は、東大入試を突破するに十分な能力を持ち合わせており、だからこそ東大に進学できたわけですが、高校3年生になるまでは「東大は雲の上」だとどことなく思い続けてきました。

 私の場合は、「自分なら雲上にも手が届く」と自惚れていたことが功を奏したわけですが、逆に言えば、「自惚れ」がなければ私は東大に入れる能力があるにも関わらず、東大を受験していなかったはず。

 実際に様々な地方出身学生に取材する中で、明らかに都会の進学校生のトップより優秀な能力を持っているのに、「自分には無理」と考えていた過去を持つ方には何度も出会いました。

 その心を氷解させたのは、先生や親など身近な大人による「キミなら東大に行ける」という承認であり、能力の優越では決してありません。


 ところで、日本一東大生を輩出する開成高校ですが、実は同校こそ日本一東大不合格者を出す高校でもあるとご存じでしたか?

 毎年150~200名の東大生を輩出するのですから、単純に考えれば校内順位150位までの人が東大を狙うのが合理的なはず。

 しかし、彼らはみな一様に東大を目指して、100人以上の不合格者が毎年生まれるのです。

 つまり、開成は「負けそうでも受ける空気」があります。一方で、地方の進学校には「勝てそうでも受けない空気」がある。これを壊すには、個人単位の努力ではなく、社会全体に影響を及ぼすドラスティックな動きが必要です。

 東大にこだわるのは、時代遅れに思えるかもしれません。ただ、実は「東大=オワコン」と感じられること自体が、あなたが恵まれた環境にいる証左に他ならない。

「東大を目指す」ことが一般的になれば、ベールは剥がれ、箔が落ち、やがて地方部でも「東大はオワコン。地元国立がコスパ最強」といわれる日が来るかもしれません。

 そのためにも、まずは目指す人を増やすため、「東大一直線型の奨学金」が必要になるのでしょう。

<取材・文/布施川天馬>

【布施川天馬】
著述家、教育ライター。 一般財団法人「ドラゴン桜財団」評議員。
1997年生まれ。世帯年収300万円台の家庭に生まれながらも、効率的な勉強法を編み出し、一浪の末東大合格を果たす。著書に最小コストで結果を出すノウハウを体系化した『東大式節約勉強法』、膨大な範囲と量の受験勉強をする中で気がついた「コスパを極限まで高める時間の使い方」を解説した『東大式時間術』など。株式会社カルペ・ディエムにて、お金と時間をかけない「省エネスタイルの勉強法」などを伝える。MENSA会員。(Xアカウント:@Temma_Fusegawa)
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