いま、カメラはすっかりデジタルになった。
それはともかく、デジタル化されたことでカメラはずいぶんと身近なものになった。趣味で写真撮影に取り組む人もいるけれど、そうではなく、カメラを趣味にしていない人でも、手にしたスマホの中には初めからカメラが搭載されている。誰もがカメラを持ち歩く時代になったのだ。
だから、いまさらフィルムカメラを欲しがる人なんていない。かつて隆盛を誇ったコンパクトカメラなんて、もはや風前の灯火だ。実際、ネットオークションでそれらのカメラを検索してみると、どれもこれも駄菓子のような値段で叩き売りされている。
ところが! そこに目を付けた人たちがいる。駄菓子のような値段のカメラで、いまあらためて写真を撮ったら楽しいのではないか? そんな気持ちの仲間が集まってできたのが「駄カメラ写真協会」だ。会長は、お笑いコンビ「アリtoキリギリス」でデビュー後、現在は俳優などで活躍する石井正則氏。
その石井氏がこのほど出版したのが『駄カメラ大百科』である。

当時愛用のカメラで過去が一瞬にして蘇る
タイトルに「大百科」とあることからもわかるように、本書の判型はケイブンシャの大百科と同じようなブ厚い文庫サイズ。全320ページというボリュームの中に、駄カメラ──約30年ほど前に発売されていたコンパクトカメラが25台も紹介されている。これらはすべて石井氏が集めたもの。
とはいえ、モノは駄カメラである。これをただ真面目に紹介したっておもしろくはない。そこで、案内役として3人のキャラクターが登場する。
イシイ少年(学年不明の小学生。駄カメラを買い始めた初心者)
駄カメラ屋のおばちゃん(老け込んだ容姿をしているが、夜は妖艶な熟女)
カメラ大好き小池さん(カメラマニアの無職。ストロングゼロが大好き)
ひとつひとつのカメラについて石井氏が語ったことに、この3人が本文の下段でちょいちょいツッコミを入れてくる。
真面目なカメラの本だったら「余計なこと書かなくていいから!」と読者に怒られてしまうところだが、この本はこれでいいのだ。駄カメラの本だから。このガヤガヤした感じが実にいい。
しかも、出てくる話題が『燃えろ!! プロ野球』とか『恋の呪文はスキトキメキトキス』とか『ポケベルが鳴らなくて』とか、いちいち古い。でも、この懐かしさが、そのカメラの発売された時代を思い起こさせてもくれるのだ。
本書の2番目に登場するキヤノンの「オートボーイ TELE6」は、ぼくも一時期愛用していたっけ。北海道、佐渡ヶ島、信楽、伊賀、四国一周と、どこに行くときも携行して、バカな看板とか食べたラーメンとかを撮りまくったあの頃を、懐かしく思い出した。
この本に即影響されて自分も駄カメラを買いに走るかといえば、いまはスマホのカメラ機能で満足してしまっているから、それはない。でも、とてもいい読後感の本だ。
最後まで読み追えて、パタンと本を閉じたときにハッと気がついた。この大百科のサイズ感と、手に持ったときの重さ。この本自体があの頃のポケットカメラの手応えなのだと。
(とみさわ昭仁)