「サブちゃんの馬」という知名度はもちろん、天皇賞の春秋連覇など輝かしい実績を残したキタサンブラック。

馬主は北島三郎 父はディープの兄ブラックタイド
キタサンブラックは、2012年3月10日、北海道のヤナガワ牧場で誕生しました。のちにオーナーとなる北島三郎とは、約半世紀の長い付き合いがある牧場だそうです。ちなみにキタサンブラックの正式な馬主は大野商事(北島三郎の長男である大野竜が登録上の代表)ですが、北島三郎が事実上の代表を務めています。
馬主は北島三郎、購入のきっかけは「僕とよく似ている」
キタサンブラックを見たとき、北島は「顔が二枚目で僕とよく似ている」という印象をもったそうです。「目も顔も男前」と惚れ込んだことで購入を決めたのだとか。やっぱり、大物には大物を見抜く力があるということでしょうか。きっと見た目以外にもこの馬の持つ雰囲気などにも北島三郎は惹かれたのかもしれません。これが、JRA史上最高獲得賞金額を叩き出すキタサンブラックとの出会いです。

ちなみにキタサンブラックはオークション形式のセリではなく、「庭先取引」と呼ばれる直接取引で購入されています。そのため、正式な金額が公表されていません。調べてみるとさまざまな情報が出てきますが、だいたい350万円~1000万円が相場のようです。この金額だけ見ると高いように思いますが、セリでは最高金額6億3000万で取引が行われることもあります。
キタサンブラックの血統は? 父はディープの兄
競走馬の良し悪しを判断する材料の1つとして血統が挙げられますが、キタサンブラックの血統は決して華々しいものではありません。父は無敗の三冠馬として君臨した稀代の名馬ディープインパクト……ではなく、その全兄であるブラックタイド。母であるシュガーハートの産駒も目立った活躍を見せてはいませんでした。キタサンブラックは、いわば突然変異で生まれた名馬と言えるでしょう。

キタサンブラックは主に中長距離で活躍をしていましたが、シュガーハートの父は短距離走の最高峰であるG1スプリンターズSなどを制したサクラバクシンオーです。中長距離では不向きな血統と考えられていたのも、また面白いところです。
デビューからGI7勝までの軌跡、JRA史上最高の賞金を獲得
数々の重賞で結果を残してきたキタサンブラックですが、デビューは少し遅めでした。ここから快進撃が始まるのですが、さまざまな裏話があるのです。
デビューから3歳秋、サブちゃん悲願のGI菊花賞制覇
キタサンブラックのデビュー戦は3歳になった2015年1月31日でした。デビュー戦はのちに主戦となる武豊騎手ではなく後藤浩輝騎手が騎乗していました。このデビュー戦に勝利し、続く3歳500万下のレースでも勝利を飾ります。さらに3月22日の皐月賞トライアルレースであるG2のスプリングステークスに出走。重賞初挑戦ながら前年度の朝日杯フューチュリティステークス優勝馬のダノンプラチナら有力馬を抑えて優勝をしています。この頃の主戦騎手は北村宏司騎手。
当初、大型馬であるキタサンブラックの本格化(成長のピーク)は遅めになると陣営は考えていました。そのため、クラシック登録をしていませんでした。しかし、スプリングステークスを制して皐月賞の優先出走権を獲得したことから、北島三郎は追加料金である200万円を支払いクラシック戦線に参加することを決断しました。もしこのときに北島三郎が追加登録していなければキタサンブラックの未来は変わっていたかもしれません。
その後の三冠第1戦である皐月賞では一時先頭に立ちながらも最後はドゥラメンテ、リアルスティールにかわされ3着、東京優駿(日本ダービー)では直線で失速し、14着の惨敗に終わりました。夏場の休養を挟んだ秋初戦は菊花賞のトライアルレースであるセントライト記念。こちらを見事勝利で飾ると三冠最後の決戦、菊花賞に向かいます。キタサンブラックは、2冠馬ドゥラメンテの故障により本命不在の混戦の状況を逃げ切り5番人気からG1初優勝。キタサンブラックはもちろん、北島三郎にとっても初のG1の栄冠となりました。3歳最終戦の有馬記念は3着に終わったものの、翌年に期待を膨らせる形で1年を締めくくりました。
4歳から5歳まで JRA史上最高の賞金を獲得
2016年、4歳になったキタサンブラックはさらなる飛躍を遂げます。初戦の大阪杯(当時はG2)から主戦騎手が武豊に交代。
春の締めくくりとなる宝塚記念ではハイペースでの逃げ切りを狙うも最後の直線でマリアライトとドゥラメンテにかわされて3着。敗れはしましたが、日本ダービー以降は出走レースすべて3着以内に入るなど安定した成績を残しました。
秋はG2の京都大賞典からスタート。初めて1番人気に支持されるとクビ差で振り切り勝利しました。その後、天皇賞(秋)を回避して、秋の大舞台、ジャパンカップに出走。ここでも1番人気となりました。最内枠から好スタートで先頭に立つと、武豊の絶妙な騎乗もありスローペースでレースを展開。後方から追い込んできたサウンズオブアースに2馬身半差をつけて理想的な展開で勝利をあげます。年内最終戦は昨年に続き有馬記念に出走。
翌2017年、5歳になると前年と同じ大阪杯(この年からG1に昇格)からスタート。有馬記念と同じマルターズアポジーが逃げる展開で2番手から3番手を追走。最終コーナーでマルターズアポジーをかわし、G1に昇格した大阪杯の初代王者として名を刻みます。続くレースは昨年制した天皇賞(春)。連覇のかかる一戦で1番人気に支持されると大逃げの策に出たヤマカツライデンのペースに惑わされずに3コーナーからスパートをかけて見事先頭に立ち3分12秒5のレコードタイムで連覇を達成しました。
この結果を受け、陣営は世界最高峰のレースである凱旋門賞を視野に入れます。しかし、海外進出に向けて弾みをつけたい、2017年の宝塚記念にて転機が訪れます。もはや当然のように人気投票でも1位を獲得。出頭数も11頭と少頭数になったことも相まって、単勝の最終オッズも1.4倍と完全に一強ムードが漂いました。
現役生活、残り3戦。キタサンブラックは秋初戦となる天皇賞(秋)を迎えます。しかしここでも想定外の事態が。ゲートが開く前に柵に突進をしてしまい、出遅れてしまうアクシデントが起こってしまったのです。誰もが「キタサンブラックは終わった」と頭によぎりました。しかし、キタサンブラックはここで底力を見せます。台風の影響から他馬が避けていた極度に荒れたインコースの馬場をスイスイと通り、直線手前で先頭に立つとサトノクラウンの追走を抑えて見事優勝したのです。これにより、10年ぶり5頭目の同一年、天皇賞春・秋連覇を果たしただけでなく、総獲得賞金を14億9796万1000円まで伸ばし、ディープインパクトの14億5455万1000円を抜いて歴代2位に躍り出ました。
続いてはこちらも連覇のかかるジャパンカップに出走。
そして、ラストランとなる有馬記念を迎えます。有馬記念は、2年連続で惜敗していただけに、なんとしても勝利で終えたい一戦です。最終オッズでは1.9倍の圧倒的な人気を集め、堂々の1番人気となりました。現役最後のひのき舞台で、キタサンブラックは見事なスタートダッシュ。武豊の絶妙な騎乗で先頭に立つと最後まで先頭の座を離すことなく有終の美を飾りました。
この勝利でキタサンブラックは、JRA史上最多タイ記録である中央競馬G17勝を記録。さらに総獲得賞金18億7684万3000円を稼ぎ出し、テイエムオペラオーを上回り歴代1位となりました。最後のレースで多数の記録更新を行うあたり、やはり観客を魅了する「もっている」馬であることが証明されたといえます。
引退式では「まつり」の熱唱でサプライズも
2018年1月7日、キタサンブラックの引退式が京都競馬場で行われました。京都競馬場での戦績はG13勝を含む4戦4勝。相性抜群の思い出の地です。当初の予定では式典のみで終わる予定でしたが、北島三郎が周囲の関係者にマイクを要求すると「まつり」を熱唱するサプライズ演出が行われました。歌唱パフォーマンスについて「この寒い中いっぱいの人が集まってくれて、生で歌声を出さないと許さなかった。感謝の気持ちでした」と語った北島三郎。真冬の競馬場に駆けつけた1万8000人のファンは大喜びでした。

キタサンブラックの現在 種牡馬入り後の実績は?
これからは種牡馬として自分のこどもたちに自分の叶わなかった凱旋門賞制覇の夢を託すことになります。現在キタサンブラックはどのように過ごしているのでしょうか?
現在は社台SSで種牡馬に、2018年種付け料は500万円
社台スタリオンステーションで種牡馬として余生を過ごしているキタサンブラックの種付け料は500万円。種牡馬初年度の平均が50万円~200万円であることを考えるとかなり高額です。
早ければ2019年1月にこどもが誕生 2021年夏に産駒がデビュー予定
早くキタサンブラックの子供がターフを走る姿を見たいものですが、相手になる牝馬も気になるところです。注目は牝馬3冠やジャパンカップ連覇など輝かしい成績を残したジェンティルドンナの母ドナブリーニ、フランスで買い付けたイタリアGIII勝ち馬ディステインなどへの種付けが決定しており、早くも期待が高まるばかりです。
まとめ
たくさんの名勝負から感動を与えてくれたキタサンブラック。これからは種牡馬として活躍してほしいものです。かつてG1の舞台を制して北島三郎の「まつり」で会場が湧いたように、第二のキタサンブラックが競馬界を盛り上げてくれることを期待します。