ABCテレビの実況アナウンサーはそう叫んでいた。
夏の甲子園100回大会、8日目第3試合、星稜(石川)vs.済美(愛媛)の一戦は、延長13回裏、大会史上2度目のタイブレークの末、100回の歴史で史上初という逆転サヨナラ満塁ホームランでミラクル済美が勝利。まさに100年語り継ぎたい伝説の試合になった。
大会前から、石川大会で見せた圧倒的な強さ、先輩・松井秀喜の始球式がある開幕戦を当てた引きの強さもあって、星稜が遂に悲願の初優勝をするのではないか、と注目していた。
それだけに、「やはり星稜の負けっぷりはすさまじい」「“グッドルーザー星稜”はもはや伝統だな」と再認識した次第。私だけでなく、今回の敗戦で、星稜の過去の敗戦の歴史を思い出した人は多いはずだ。

甲子園の歴史とは、敗者たちの物語
この夏、『ざっくり甲子園100年100ネタ』(廣済堂出版)と題した本を上梓した。
過去100年以上の歴史を有する高校野球の歴史から、これは外せない、というエピソードを【選手】【監督】【学校】【勝負】【球場】【大会】【逸話】【人物】の8ジャンルから計100個選出。それぞれのエピソードを1000文字ずつでできるだけ簡潔に、それでいて、甲子園の歴史の流れが掴めるように、と意識してまとめた一冊だ。もし、今大会が終わったあとの執筆になったとしたら、今回の星稜vs.済美の試合も収めたに違いない。
この本、何に苦労したかといえば、100ネタどれを選ぶか、というネタ選定の部分。甲子園のドラマなんて1大会だけで何十個と生まれてしまうもの。掲載したいのに年代のバランスで泣く泣く選べなかった試合、選手、エピソードも数多い。
どれを選ぶかで悩んだとき、ひとつの基準にしたのが「グッドルーザーがいるかどうか」だった。甲子園の歴史とは、敗者たちの物語でもあるからだ。
古くは1933年の第19大会準決勝、明石中vs.中京商の延長25回の死闘。負けた明石中には“投げられなかった伝説の投手”楠本保がいた。
1969年の第51回大会決勝、史上初の決勝引き分け再試合、松山商vs.三沢の激闘は、「日本中昼寝もさせぬ十八回」「半分にちぎれぬものか優勝旗」といった時事川柳が新聞の投書欄を賑わせたほど。準優勝に終わった三沢のエース・太田幸司は、むしろ敗れたからこそ伝説の球児となったのかもしれない。
最近であれば、2009年の第91回大会決勝、日本文理vs.中京大中京。「つないだつないだ! 日本文理の夏はまだ終わらな~い!」という実況アナウンサーの言葉と、「奇跡の19分」と呼ばれながらも優勝旗に届かなかった日本文理の戦いぶりはやはり忘れられない。
5打席連続敬遠、神様が創った試合……グッドルーザー星稜
そんな「敗れざる夏」「甲子園のグッドルーザー」の代名詞として語り継ぎたいのが星稜高校なのだ。
開幕ゲームの始球式を務めた松井秀喜といえば、1992年の第74回大会、星稜vs.明徳義塾。敗れながらも「松井秀喜5打席連続敬遠」として伝説になった一戦は、甲子園という枠を超え、社会的な事件にもなった。
1979年の第61回大会3回戦、星稜vs.箕島の一戦は、延長18回裏、引き分け再試合直前で箕島がサヨナラ勝ち。
全国区の知名度と実力を誇りながら、どうしても優勝旗に手が届かない星稜。それでいて、語り継ぎたい試合が多い星稜。まさに、偉大なるグッドルーザーだ。悲願は101回目以降へとお預けになったが、今回の敗戦でその“見果てぬ夢”により一層期待したくなった野球ファンは多いのではないだろうか。
今年はどうなる? 東北の悲願
負け続けてきた歴史、という意味でもうひとつ外せないのが、東北勢の球児たちだ。
振り返れば1915年、記念すべき第1回大会において準優勝となったのが秋田中。彼らはもともと部員数たったの11人。大会には親からの反対で10人しか参加できず、大会中にひとり負傷。それでも決勝戦まで勝ち進み、優勝候補の京都二中と延長13回の激闘の末、1対2で敗れる接戦を演じた。
そしてこれが、東北勢の悲願の始まりに。以降、春夏合わせて、東北勢の決勝戦戦績は実に11戦全敗。優勝旗の「白河の関越え」は、東北勢100年の悲願となった。その惜敗の歴史について、拙書から戦績部分を引いてみたい。
・1915年夏 京都二中(京都) 2対1 秋田中(秋田)
・1969年夏 松山商(愛媛) 0対0、4対2 三沢(青森)
・1971年夏 桐蔭学園(神奈川) 1対0 磐城(福島)
・1989年夏 帝京(東東京) 2対0 仙台育英(宮城)
・2001年春 常総学院(茨城) 7対6 仙台育英(宮城)
・2003年夏 常総学院(茨城) 4対2 東北(宮城)
・2009年春 清峰(長崎) 1対0 花巻東(岩手)
・2011年夏 日大三(西東京) 11対0 光星学院(青森)
・2012年春 大阪桐蔭(大阪) 7対3 光星学院(青森)
・2012年夏 大阪桐蔭(大阪) 3対0 光星学院(青森)
・2015年夏 東海大相模(神奈川) 10対6 仙台育英(宮城)
この惜敗の歴史に、次に名を連ねる東北勢はどこになるのか。それとも、優勝旗に手をかけてくれる学校がついに現れるのか。
今大会、ここまですべての学校が出揃って、東北勢で残っているのはわずか2校。でも、何が起きるかわからないのもまた甲子園。グットルーザーたちの物語から、まだまだ目が離せない。
(オグマナオト)