アニメ『BANANA FISH』(→公式サイト)。
「第八話 陳腐なストーリー」が今日8月23日(木)25:05より、フジテレビ”ノイタミナ”ほかで放送。
Amazon Prime Videoで毎話フジテレビ放送開始1時間後より配信予定。

アッシュにとっての大ボスとも言える、ディノ・F・ゴルツィネ役の石塚運昇が8月13日に亡くなった。
はまり役だっただけに、非常に残念。ご冥福をお祈りします。
さすがに完結までディノの声は全部録ってはいないだろう。今後はスタッフが最善の方向に進めてくれるのを祈るばかり。
「バナナフィッシュ」あたしが男のあそこで稼いで何が悪いってのよ!7話 
吉田秋生「BANANA FISH」7巻表紙。七話はロサンゼルス編。マックスの家族の話、そして中国人の民族の問題が浮上する

ロサンゼルスと女の目


「バナナフィッシュ」は、女性の登場人物が極端に少ない。以前ケープコッド編で出たジェニファも、すぐ死んでしまった。
ロサンゼルス編で、重要な役割を果たす女性が登場する。マックスの元妻ジェシカだ。

息子マイケルの親権裁判を続けており、負けそうだから誘拐に来たんじゃないかとマックスに銃をぶっ放すジェシカ。
「強いママ・ジェシカ」「へっぽこパパ・マックス」がうまく強調された、コミカルなシーンになっている。

ジェシカのセリフが、豪快で気持ちがいい。

「あんたカメラマンのときに散々女のあそこで稼いだんでしょ!あたしが男のあそこで稼いで何が悪いってのよ!」
マックスは男性向けの女性ポルノを、ジャーナリストになる前に撮っていたらしい。
それに対してジェシカは現在、女性向けの男性ポルノを撮って稼いでいる、という話。

この作品に欠かせない、男性は性的な目で見られているというのをさらっと明示したシーンだ。
アニメではぼかしているが、原作では「新しい女性のためのニュー・マガジン」となっている。
連載時の80年代の風潮をよく反映している。当時は、個人の自由と解放を得るためのウーマンリブ運動が活発化した時期だ。男性ストリップが増えたのも80年代。

性に対する後ろめたさは皆無の彼女。
エイジとアッシュをしれっとモデルに誘うたくましさは、アッシュに向けられたねっとりした男たちの性的視線と真逆で、カラッとしている。

父親としてのマックス


元妻ジェシカと息子マイケルが出たことで、マックスはこの作品の父性担当になっていく。
アッシュは父親のジムとの関係がすっかりこじれてしまったことで、直接的な父の愛情を知らないまま育ってしまった(ケープコッド編でそれがようやく感じられるのだが…)。
アッシュは「少年」であることが強調されているキャラクターだ。
大人をとことん嫌悪している。
今回もジェシカを「おばさん」と呼んで、女性の成人をも嫌っているのを見せた。

一方、どんなに嫌われても、しがみついて彼を守ろうとするのがマックスだ。
アッシュは、彼が兄グリフの絡みでついてきている、という認識のようだ。実際は生命を賭してまで、マックスはアッシュを守ろうと、愛情を注いでいる。
刑務所編から見ると、アッシュはマックスに対して本音でわがままを言えるようにまでなった。大進歩だ。

マックスがアッシュの父親役になるには、まだまだ道は長い。
ただアッシュが、大人なのにマックスを「協力させて」いるくらいにはなったのが現状。今回部屋で「バナナフィッシュ」を一緒に調べるシーンに、二人の距離感がよく出ている。

ここから先、マックスの「アッシュを守りたい」という父性は強まっていく。
滑稽なところや、ジェシカとの関係も含めて、マックスはこの作品における「理解し向き合ってくれる、嘘をつかない大人」の象徴になっていく。

天才とPC


時代が現代に変化したことで、ハッキング戦がまるまるカットされたのは、いい改変だった。

80年代そもそもPCを使っていた人が多くなかった時期に、パスワード破りをしたことがすごい、というシーン。ここをクラッキングであっさり解決。
アッシュの天才性を引き立てつつ、尺をきれいにまとめることに成功している。

かわりに強調されたのが、アッシュのエイジへの信頼感だった。
アッシュは人が後ろに立つのを極端に嫌う。ゴルゴ13みたいだ。
月龍がお茶を運んできたときは、敵が来たかのように構えた。
しかしエイジがこっそりやってきた時、彼は心を許して一切振り向かない。
顔を近づけてきた時微笑み、解読成功した時は子供のように喜んでハイタッチしている。

これを月龍が見ていたのが伏線の1つとなって、エイジを誘拐し、アッシュの牙を抜く作戦につながってしまった。
アッシュがエイジに「足手まとい」と、思ってもいないことを言って堪えているシーン。
彼は凶暴山猫ではなく、すっかり人間らしくなっている。


(たまごまご)
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