連続テレビ小説「半分、青い。」(NHK 総合 月〜土 朝8時〜、BSプレミアム 月〜土 あさ7時30分〜)
第22週「何とかしたい!」第132回 9月1日(土)放送より。 
脚本:北川悦吏子 演出:橋爪紳一朗
「半分、青い。」132話、鈴愛と律が河原で「5秒だけ許して」
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132話はこんな話


鈴愛(永野芽郁)は東京へ、律(佐藤健)はアメリカ(スタンフォード)へ。それぞれの道を模索するため、また別れ別れになることに。


「ずっと寂しかった」


鈴愛から手渡された和子(原田知世)が保管していた律の母子手帳と成長記録に、律宛の手紙が入っていた。
日付は7月11日(蛇足だがセブンイレブンの日と覚えよう)、和子が亡くなる一週間前のものだった。岐阜犬でおしゃべりした翌日であろうか。朝ごはんに律の買ってきた苺を食べたあと、手紙を書いたのか。

手紙を読む律の瞳は珍しくしっかりしている。
律はしっかりした瞳のまま、大阪に行って、より子(石橋静河)を喫茶店に呼び、スタンフォードに翼(山城琉飛)を連れて来てほしいと誘う。
「もう一回やり直したいんだ」と言う律に、「ずっと寂しかった」とより子も本音を漏らす。

家族でピクニック


昔、家族で廉子さん(風吹ジュン)の墓参りに行った時、糸電話で空に話しかけた場所に久しぶりにやって来た鈴愛。
その前にいなり寿司を晴(松雪泰子)が作っているのは、このためであったか。
メンバーは少し入れ替わって、仙吉(中村雅俊)がいなくなった代わりに、カンちゃん(山崎莉里那)と健人(小関裕太)が参加。べたべたラブラブのはずの麗子(山田真歩)がなぜかいないが、健人は仙吉の五平餅を受け継ぐと力強く宣言した。

「いい風が吹いたね」「つかまえたなるような風だった」と晴はそよぐ風に目を細める。

弥一


弥一(谷原章介)がつくし食堂に食べに来た。今日はひとりだからと。
弥一は自営業だから、これまで外食することは少なかったであろう。
それがふいにひとりになって、ふらっと食堂にやって来た。谷原章介は全身でそんな男の所在のなさを見せる。なかなかの手練である。
9月1日配信のスポニチアネックスで谷原章介のインタビュー記事を書いた。そのとき、彼はこんなことを言っていた。
「死が迫っている和子さんを見ていると、演じていて泣きそうになっちゃって。でも、泣いちゃうと台無しだから必死に堪えました。和子さんが旅立つまで撮影はひたすら涙との闘いでした」
「弥一を演じる上で最も大事にしたことは、和子さんのそばにいかに寄り添えるかでした。萩尾家の中心は和子さんで、律の人生の節目節目に濃密に関わってきたのも彼女。弥一はその様子を常に一歩下がったところから『大丈夫かな?』と気をもみながら見つめ続ける役割だと考えていました」
ご参考までに。

弥一は鈴愛に、律がアメリカに行く決心をしたことを伝え、これまで律を支えてくれたことを感謝し、律が開発しているロボットは耳の機能をサポートするものだと教える。
鈴愛は小学校のとき耳が聞こえなくていじめられていた彼女を助けたり、一緒に耐えたりしてくれたことを思い出す。


弥一「ごめんな鈴愛ちゃん」
鈴愛「律が幸せだと、わたしも幸せや」

なぜ、ごめんか。
やっぱり、梟町の人たちとしては、鈴愛と律がお似合いと思っていたのに、なんの因果か運命の赤い糸はこんがらがって、律は先により子と結婚してしまった。その前に鈴愛が言葉足らずでプロポーズを断ったみたいになってしまったことが痛恨の失敗だが、やっぱり律が我慢できず先に結婚してしまったことが父親としては申し訳ない気持ちなのではないか。

あーもー酒でも飲まずにはいられない感じ。現実にもある。傍から見ていたら完全に最良のカップルなのに、なぜか違う方向に行ってしまうことが。
例えば、ドラマでいうと「最後から二番目の恋」(脚本:岡田惠和)の中井貴一と小泉今日子の演じた男女。たいへん明瞭に「恋人たちの予感」を元に現代日本の恋人たちを描いて人気だった。これは喜劇なので気が楽。
「半分、青い。」の鈴愛と律は喧嘩はそんなにしないけど、あまりに近くにいすぎて、いまさら男女を意識しにくいという障害パターンのひとつに苦しんでいる。
ちなみに障害パターンには、家柄、年の差、病、禁忌、戦争、タイムトラベルなどいろいろある。

河原にて


「またさよならやな」とさよならを言うために鈴愛は律を久々に笛で呼ぶ。

たぶん律はカンちゃんと思ったであろう。だが窓を開けると鈴愛がいた。このためにこの間はカンちゃんが笛吹いていたんだろうなあ。

ふたりは言わずとも自然に川へ向かう。
そしてこの回のハイライト。
律はカンちゃんにもらった笛を吹く。
「鈴愛〜」と呼ぶと鈴愛は律に抱きつく。
「5秒だけ許して」(蛇足だが、ユー子の漫画は「五分待って」)
ここでもカンちゃんがいい仕事をしている。律は笛を吹くことで心の音を出せた。それは「鈴愛〜」。
それに応えて鈴愛は律を抱きしめることができたわけだ。

もともと言葉に出せない律の弱さを鈴愛が察してマグマ大使として存在意義を作っていた。

でも大人になると、律の口に出せないことをマグマ大使だけではカバーしきれなくなっていく。その不足分は、女性として成熟してない鈴愛には無理で、まわりまわって恋や結婚を経験し、さらには漫画家として表現を学んできたからこそ、抱きしめるという行為が可能になった。
ただこの場合、男女の愛情表現ということでもなく、本当に大事だから抱きしめるみたいなことで、そういうことも心身ともに成熟したからこそできるようになるのではないか。未熟だと自意識がいろいろなことを邪魔するので。

とかなんとか書きつつ、このシーン、さすがに中年女性のいろんなものを内包しつつのさばさば感は十代の瑞々しい女の子には難しそうで、朝起きてすぐ見ると、ん〜〜、ちょっと問題(相手は妻帯者)じゃない? とも感じたが、夕方、見返したら、恋に限らず、生きてきて成仏させられないまま抱えているいろんなことへのざわざわした感情ってあるよねえと感じ方が変わった。見る時間で変わりますよ、ドラマは。

より子さんにしてみたらたまったものじゃない。残念ながら彼女に不足していたのは、和子を大事にする心、いや、和子を大事にする律を受け止める心であろう。
律と同じ分量で和子の病気や死を悲しむことができなかった。嫁ってたいていそういうもの。鈴愛の場合は、生まれた時から和子とも慣れ親しんできたから感覚が断然違う。仕方ない。


北川悦吏子がこの回を「天使回」とツイートしていて、天使とはカンちゃんではないか。
彼女がほかの男(涼次)の子どもであるところが少しもやもやする。夫と死別させてないところがこの脚本の面白いところ。未亡人は朝ドラヒロインに多いから、逆張りしたのかもしれない。

気になるのは「バイバイ律」と鈴愛が言うも、律は「バイバイ鈴愛」と言わず「頑張れ鈴愛」だったこと。いままでふたりは何度も別れて来たがその都度「バイバイ」とか「さよなら」とか言い合っていたのに。
いよいよ最終回まであと4週間、24話!
(木俣冬)
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