8月29日に放送された『高嶺の花』(日本テレビ系)の第8話。(関連)
「高嶺の花」「もう一人の自分」の謎を解き明かした峯田和伸。石原さとみは高嶺の花でいる必要はない8話
ドラマ「高嶺の花」 オリジナル・サウンドトラック/バップ

月島もも(石原さとみ)が華道家として大きくなるために必要なのは、「もう一人の自分」。
繰り返されてきたロジックだが、よくわからなかった。今回、その構造がようやく明らかにされている。決して、難しい話ではなかった。

才能より血を選んだ小日向文世


ももとなな(芳根京子)の技量を見極める「俎上」の日がやってきた。選ばれた6人の師範と父であり家元の市松(小日向文世)は二人の作品を見て投票、どちらが次の月島流家元にふさわしいかを決定する。

俎上に参加する師範は、市松の妻・ルリ子(戸田菜穂)の息がかかった者ばかり。ここまでは、ルリ子の策略通りだった。しかし市松は、ももとななが花を生ける様子を非公開にし、どちらが生けたのかわからない状態で作品だけを見て投票をすると宣言。この方法では確実にななを勝たせることができないと、ルリ子は慌てた。

花を生けながら、ななは宇都宮龍一(千葉雄大)への思いを噛みしめ、ももは風間直人(峯田和伸)との日々を思い出した。二人が生けた花は、対照的な出来上がりだった。一方の花は絢爛豪華で鮮やか、もう一方は限りなく淡い色合い。

師範たちの投票は、3対3の同数になる。
最後に市松がどちらに票を投じるかで次期家元が決定する流れだ。神宮流の家元候補・兵馬(大貫勇輔)は、こうなることを予想していた。
「師範たちでは、姉妹どちらの作品かは判別しかねるんじゃない? 交互に一つずつ、菊の花(投票の印)を置く。『どちらの作品かは神のみぞ知る』、市松さんはそうおっしゃいましたね。神とは家元です。つまり、自分なら必ずどちらの作品かわかる。わかった上で、ご自分で跡継ぎを決めるんです。結局、師範たちは全員責任逃れ」

両者を見ると、一目瞭然だった。カラフルに彩られ、ポップな仕上がりとなった片方の花。作風は、完全に龍一のそれだ。つまり、こちらがななの作品。淡い色合いの花がももの作品だ。

市松が票を投じたのは、カラフルな花のほう。月島の流儀を全く受け継いでいない実の娘を市松は選択した。才能ではなく、血を選んだのだ。2つの花を見て、兵馬はつぶやいた。
「月島は終わるな」

石原さとみを救い出した峯田和伸


俎上で敗北し、ももは壊れた。そして、実母の墓前で泣きじゃくった。
「ママは……自分の命に代えても、私を月島の家元にって」
「私、何をしたらいいの。ねえ、私、私、これからどうすればいいの!? ママ、ママ、ごめんなさい、ママ! 全然ダメな子でごめん。何のために……」

兵馬は直人の存在が華道家としての大成に邪魔だとももに説いた。
兵馬 覚悟がいる。あなたが誰もいない場所で一人ぼっちで咲く覚悟です。欲望から離れ、断崖絶壁にただ一輪だけ咲く。

もも 高嶺の花。
兵馬 なのに、地上に降りて恋をしようとした。

“最強の華道家”でいるには、恋をせず高嶺の花でいなければならない。前話で、ももは「もう一人の自分」を取り戻す方法を兵馬に助言されている。
「まだ恋愛感情のない相手と結ばれればいい」
そうすれば、ももの心に直人が撒いた種を燃やすことができる。つまり、自分に抱かれてみないか? と兵馬は誘っているのだ。「もう一人の自分」を取り戻したいももは兵馬に抱かれることを決意、自ら兵馬の自宅へ向かった。

一方の直人は、生花に関する本をむさぼるように読み漁っていた。
「彼女が苦しんでいるんだとしたら、何とかヒントくらい見つけてあげられないかなと……」

風間らが集うスナック喫茶へ、ななが助けを求めにやって来た。
「パニックなんです、姉は今。だから、藁にでもすがりたくて兵馬さんのところへ……」

兵馬宅へ到着した直人。行為前にももは気を失っていた。

「でも、次の機会もある。それが、彼女の望みだからだ」(兵馬)

初回から描かれているが、直人は聡明な男だ。生花の本を読み漁ることで、彼は答えに達していた。
「『もう一人の自分』、子どもじゃないですか? 子どもの頃の自分。だとしたら、一度消えたら二度とは現れないんじゃないですか。人として健全な成長なんだから。子どもの頃、人形に名前をつけるようなもの。一人ぼっちの子が人形を実在する友だちとして。大人になってきたら、一人ぼっちじゃなくなったら、いなくなって当たり前」

要するに、「もう一人の自分」とはイマジナリーフレンド(現実には存在しない想像上の友だちのこと)のこと。本人を補う「助け手」や「理解者」になり得る存在である。前話に登場した「ゲインロス」に続き、心理学の領域だ。イマジナリーフレンドが出現するのは幼少期が多く、成長とともに消滅することがほとんどだと言われる。

兵馬の部屋を見渡すと、画面隅に子ども用の木馬を発見できる。直人が到着した際、兵馬はルービックキューブで遊んでいた。前話で兵馬がももとのデート場所に選んだのはゲームセンターだった。兵馬は子どものままなのだ。彼は「もう一人の自分」を失っていない。

一人ぼっちじゃなくなったら失われる「もう一人の自分」。つまり、人を愛すといなくなる。ならば、種を焼き尽くすべき。そんなロジックで自分と結ばれることをももに勧めた兵馬。でも、成長したももにはもう現れないはず。うろたえる兵馬を見れば、直人の説が図星なのは明らかだ。
「彼女をだますのはやめてください。
次の機会はねえよ」(直人)
「他の男に抱かれたらもう一人の自分が見える」と近付いた兵馬を「子どもが大人に成長しただけ」と直人が論破し、ももを助け出した。成熟した大人の男が芸術家を子ども扱いした。

ももは、行為前に気を失っている。気絶するほど本意ではなかった。「一人ぼっちで咲け」と説く兵馬だったが、人を愛することをももは拒めなかったということ。


自転車日本一周を目指す引きこもり中学生・堀江宗太(舘秀々輝)は、ドラマの展開を暗喩している。
風景画を描く途中にミスをした彼は、ヤケになって絵をクレヨンでぐしゃぐしゃにしようとした。その時、通りがかったおじいちゃんが「うまいねえ、がんばってね」と宗太に声を掛けた。思いとどまった宗太は、最終的に絵画を見事に完成させた。
(寺西ジャジューカ)

『高嶺の花』
脚本:野島伸司
音楽:エルヴィス・プレスリー「ラブ・ミー・テンダー」
チーフ・プロデューサー:西憲彦
プロデューサー:松原浩、鈴木亜希乃、渡邉浩仁
演出:大塚恭司、狩山俊輔、岩崎マリエ
※各話、放送後にHuluにて配信中
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