アオイ「輝く命と、透明な命、その重さはどちらも同じ。そして、思ったよりも重かった。
だから、どんな子にも言ってあげたい。おめでとう、良かったね」

9月21日(金)放送のドラマ10透明なゆりかご(NHK)。原作漫画3巻に収録されている「7日間の命」をもとにした最終話だ。

由比(瀬戸康史)は、辻村灯里(鈴木杏)のお腹の赤ちゃんに重い病気があることに気づく。生まれてきても長く生きることが難しいと告げられた灯里と夫の拓郎(金井勇太)は、人工中絶を検討していた。しかし、胎動を感じた灯里は、お腹の中にいる赤ちゃんにとって何が幸せかを考えはじめ、産むことを決意する。
最終回「透明なゆりかご」透明な子とそうでない子の差ってそういうことか(感動)静かな祈りのドラマだった
沖田×華『透明なゆりかご〜産婦人科医院看護師見習い日記〜』3巻(講談社Kissコミックス)

生まれる赤ちゃんの生死を決める責任


拓郎「俺たちまだ若いんだから、こどもはいずれ持てるよ」
灯里「この子はこの子でしょう? 同じものが工場みたいに次々できるわけじゃない。この子に次なんかないの」

お腹にいる赤ちゃんの重い病気が発覚して、一度は諦めることを決めた灯里と拓郎。しかし、妊娠20週を過ぎて胎動を感じるようになってきた灯里は、赤ちゃんの存在を体で感じていた。体の中に自分とは違う命があることを実感し、諦められない気持ちが強くなる。

そんな灯里のお腹を触っても、拓郎はまだ胎動を感じられていなかった。

拓郎「何も感じないままなのかなあ。もしいま諦めたら、何も感じないまま、この子のことを実感としては何も残らないまま、俺はきっと涼しい顔していままでどおりなんだろうな。
あかり、こんなに頑張って母親になろうとしているのにな。もう少し時間があれば、俺もこの子の父親になれるかなあ」

体の変化によって否応なく母親になっていく灯里と、妊娠も中絶もどこか他人事のような感覚があった拓郎。「親になりたい」という思いを確認した二人は、妊娠を継続させることを選んだ。赤ちゃんに「智哉」という名前をつけ、智哉にとって何が幸せなのかを考え始める。

生まれてくる智哉に、延命の治療をするべきか。それとも、苦しめずに看取ってあげるべきか。
由比と向き合って話しているとき、灯里の目は溢れんばかりの涙で濡れ、温厚な拓郎はつい大きな声を出してしまう。大切な我が子のことなのに、「だったら先生、決めてくださいよ!」と決断を転嫁してしまう。誰かに押しつけてしまいそうになるほどに、人の生き死にを決める責任は大きい。

透明な子をなくしたい


灯里「そばに居たい。触っていたい。あなたの手はどれだけ温かいの。髪はさらさら? 肌はふわふわ? 何かに隔てられたまま“さよなら”するのは、もう嫌」

灯里は、幼い頃に亡くした母親のことを思い出していた。
病気で無菌室に入っていた母親。触れたくても、分厚いビニールカーテンに隔てられて、幼い灯里と母親は手の温かさを感じることすらできない。

もし、延命の治療を受けさせることを決めたら、智哉はNICU(新生児集中治療室)に行くことになる。保育器などに入り、最期のときには灯里と拓郎ではなく医師看護師たちに囲まれて過ごすことになるかもしれない。それが、本当に智哉の幸せだろうか。灯里と拓郎は、積極的治療はせず、智哉が生きられる一週間を家族三人で過ごすことに決めた。

普段、中絶手術を受けた胎児を業者に受け渡す仕事を任されているアオイ(清原果耶)は、三人を見てこう思った。

アオイ「ここは、生まれる命と消える命が、絶えず交差する場所。でも、智哉くんは透明な子ではなかった」

「透明な子」は、こどもへの性暴力を扱った9話のサブタイトルになっている言葉だ。最初は、透明な子とそうでない子の違いがはっきりとわからなかった。
9話、そして10話を見たあとに改めて考える。その違いは「気にかけてもらえている」かどうか、もっと言えば「幸福を祈られている」かどうかだった。


アオイ「輝く命と、透明な命、その重さはどちらも同じ。そして、思ったよりも重かった。だから、どんな子にも言ってあげたい。おめでとう、良かったね」

アオイは、透明な子をなくしたいと思っている。そのためにできることは、生まれる命も消える命も同じように気にかけ、幸福を祈ってあげることだ。
誰か一人でも気にかけてあげる人がいれば、それだけで透明な子はいなくなる。何か行動を起こすわけではなく、ただ小さな命を気にかけ幸福を祈る。アオイでなくても、誰でもできることだ。それだけのこともせず、これまで自分がどれだけの命を透明にして見過ごしてきたのだろう、と気付く。

『透明なゆりかご』は祈りのようなドラマ


最終回「透明なゆりかご」透明な子とそうでない子の差ってそういうことか(感動)静かな祈りのドラマだった
主題歌「せつないもの」が収録されているCharaのアルバム『Junior Sweet』

アオイは高校の准看護学科を卒業し、由比産婦人科の看護師となった。戴帽式を終え、ナースキャップをつけたアオイの顔が一気に大人びていた。
須崎岳プロデューサーへのインタビューによると、アオイ役に清原果耶を選んだのは「ドキュメンタリーのようなドラマにしたい」と考えたからだそうだ。
清原の瑞々しい感性と17歳のアオイが重なり合い、産婦人科で起こるすべてのことに新鮮に驚き、喜び、悲しむ。命というよくわからないものに、まっすぐに向き合っていった。

看護師となったアオイが、スッと背筋が伸びた大人の女性に見えたのは、そこに成長があったからだ。アオイは、「すべての命を透明にしない」という自分のやるべきことを見つけられた。

アオイ「相手の気持ちがわからないって、苦しいですよね。でも、絶対わかんないんです、自分じゃない人の気持ちは。だったら、一生懸命考えるしかなくて、それで自分が出した答えを信じるしかない」

智哉を看取り、「智哉は、どう思ってたんだろう」と迷う灯里に、アオイは言った。「一生懸命考え、自分の答えを信じること」。それが、命というよくわからないものへの、最も真っ直ぐな向き合い方だった。

『透明なゆりかご』というタイトルのことを思う。ゆりかごは、赤ちゃんがいる場所、産婦人科のことではないか。
アオイ役の清原は、公式サイトに寄せたメッセージの中で産婦人科について「今まで深く考える機会が無かった」とコメントしている。
産婦人科について深く考えていないのは、清原が若いからというだけではない。社会の中で、産婦人科では何が起こっているのかよく知られておらず、気にかけられていない場所になってしまっている。妊婦や赤ちゃんへの風当たりが強い社会では、幸福を祈られることも少ない。産婦人科は、世の中で透明な場所になってしまっている。

アオイが赤ちゃんたちを気にかけ透明な子にしないように、本作は透明にされてきた産婦人科と赤ちゃんたち、そこに訪れる人々を気にかけ光を当てた。このドラマが存在すること自体が、「あなた方を気にかけているよ」「幸福を祈っているよ」というメッセージになっている。

本作がこの世の中で作られ存在しているということが、世の光になる。静かな励ましのような、祈りのような、支えのようなドラマ。何年先にも思い出され、語られ、多くの人に寄り添っていく作品となるはずだ。
(むらたえりか)

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▼作品情報▼
ドラマ10透明なゆりかご(NHK)
毎週金曜よる10時〜
出演:清野果耶、瀬戸康史、酒井若菜、マイコ、葉山奨之、水川あさみ、原田美枝子
原作:沖田×華『透明なゆりかご〜産婦人科医院看護師見習い日記〜』1巻(講談社Kissコミックス)
脚本:安達奈緒子
音楽:清水靖晃
主題歌:Chara「せつないもの
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