いつのまにか、中国映画界は独力で『ブラックホーク・ダウン』を撮れるようになっていた……。プロパガンダ映画のフリをしつつ、実際には過剰な暴力とド根性を観客に叩き込む『オペレーション:レッド・シー』は、色々な意味で現在の中国映画の底力を教えてくれる怪作である。

必見中国戦争アクション怪作「オペレーション:レッド・シー」サディスティック激烈戦闘シーンを覚悟せよ

人民解放軍海軍陸戦隊の精鋭、中東某国へ! 人質と核物質を追跡せよ!!


『オペレーション:レッド・シー』は、一応中国のプロパガンダ映画っぽい感じで始まる。なんせ人民解放軍海軍全面協力作品だ。映画が始まってすぐ描かれるのは、ソマリア沖でのコンテナ船奪還作戦。海賊によって拿捕されたコンテナ船に部隊を突入させ、奪還するという任務である。ソマリア領海に逃げ込もうとするコンテナ船を追跡する中国海軍の最新装備! テキパキ動く兵士たち! まあ、ここはかっこよく撮ってあげないとね~と、見てるこっちもまだ余裕である。

作戦にあたるのは海軍陸戦隊のエリート部隊である"蛟竜"部隊だ。中国の海軍陸戦隊はアメリカなどでいう海兵隊にあたる部隊で、その中のエリートということになるとアメリカでいうフォース・リーコンとか、ネイビー・シールズとか、なんかそんな感じのイメージである。無事コンテナ船を奪い返した蛟竜部隊の隊員たちだが、折しも中東某国で反体制派による内戦が勃発。人質に取られた中国領事および在留中国人の救出に向かう蛟竜部隊だったが、領事の妻がテロリストによって連れ去られていたことが判明。さらに現地の中国人ジャーナリストによって、テロリストたちがブラックマーケットに横流しされた核物質を使いダーティボム(放射性物質の拡散による地域一帯の汚染を狙った爆弾)を作ろうとしていることを知る。蛟竜部隊はたった8人で敵地に踏み込み、領事の妻とダーティボムの材料となる核物質を追跡することになる。

「アフリカとか中東みたいなややこしそうなエリアで政変が勃発し、在留中国人を助けるためにエリート軍人が頑張る話」なので、正直ここまでのあらすじを見ていると「それ、しばらく前に『戦狼』でウー・ジンさんがやってましたやん」となる。しかし、『オペレーション:レッド・シー』はスーパーヒーローがかっこよく敵を倒す映画ではない。
あくまで軸足を戦争映画側に置こうという意思を感じる。1人ではなく8人のチームがそれぞれの得意分野を生かして連携して行動し、決してスタンドプレーはしない。特に狙撃手との連携を描こうという意識は強く感じられた。要するに「リアルめにいきましょう」ということである。

しかしこの映画、単にリアルに特殊部隊の活躍を描いただけではない。「そこまでやります!?」というサディスティックな過剰さこそが、『オペレーション:レッド・シー』を異常な映画たらしめているのだ。

追い爆発に追い銃撃、過酷すぎる戦闘シーンに中国エンタメの本気を見た


『オペレーション:レッド・シー』を見ていると、途中でなんだか様子がおかしい映画であることに気付く。なんというか、戦闘シーンが長いのだ。蛟竜部隊がまず中東某国に上陸し、中国領事を市街地まで助けに行くシーンが前半の山場なのだが、これのボリュームがすごい。事前の想像を遥かに超えて人間が死ぬ。

絵作りも決してショボくないというか、むしろ豪華というか、アメリカ製戦争映画と比べても見分けがつかないレベルである。「焼け焦げた車の隙間から『現地の武装勢力』の人たちがAK抱えてたくさん走ってきて、それに対して少数の精鋭部隊が機関銃で応射する」みたいな、アメリカの戦争映画で何万回と見たような場面をサラッとやってみせる。
しかし応射しているのはレインジャーでもデルタでもシールズでもなく、中国人の兵士である。これは……なんだ……おれはなにを見てるんだろう……というよくわからない気持ちが湧いてくる。

この前半の山場で観客の度肝を抜くのが、自動車爆弾に関する描写の腹の据わり方だ。テロリストが子供を人質に取り、父親の首に爆弾を括り付けた上で爆弾を満載した車に乗せ、政府軍の陣地に突っ込ませるのである。非道だし、エグい。普通に良識があるというか、できる限り客に嫌な思いをさせないでおこうという映画製作者なら、蛟竜部隊の活躍で父親が助かった……的な話でサッと落ち着けてしまうと思う。

が、『オペレーション:レッド・シー』はそれをしない。なんと1台目の自動車爆弾に乗せられた父親は悲鳴をあげながらズタズタに撃たれた上で大爆発、蛟竜部隊が助けるのは2台目からなのである(しかも特に子供と再開できたような描写はない!)。1台目のお父さんがメッタ撃ちに撃たれる描写、それ必要でした? 蛟竜部隊が自動車爆弾をうまく解除してめでたしめでたしでよかったのでは? 監督のダンテ・ラムは鬼か? 事ここに至って観客は「この映画はプロパガンダ映画の皮を被っているが、実際は別のとんでもない何かである」ということに気付くのである。今更気付いてももう遅い。

「とにかく戦争アクションとして見応えのあるものをつくろう!」という意欲が充満している映画なので、その後も変装しての敵地への侵入に大ボリュームの銃撃戦に取っ組み合いにスナイパー同士のバトル、さらには艦砲射撃に砂漠のど真ん中での戦車戦と、戦闘シーンのバリエーションはさながら満漢全席である。そしてその隙間に「人がパンパンに乗っているバスに迫撃砲の弾が直撃したらどうなるのか」「人間は片手が取れちゃっても戦えるのか」「顔に被弾したらどういう感じになるのか」というような、人体実験みたいな描写が挟まる。
ほぼ地獄巡りである。

さらに言えば、個々の戦闘シーンの駄目押しがすごい。爆発は一回だけでは絶対に収まらず「もう爆発しないでしょ」と思ったところから常に三発ほど後追いで爆発が起きるし、「こんだけズタボロなんだから、もうこいつ死ぬでしょ」と思った奴が想像の四倍くらい粘る。追い爆発、追い銃撃によって蛟竜部隊はおろか観客まで追い込まれまくり、気づけば体力全部持っていかれてヘロヘロに。映画の登場人物に対してこんなに「早くあいつを殺して楽にしてやってくれ!」と思うことも珍しい。『プライベート・ライアン』の最初の方に出てきた、「内臓が出ちゃった状態で『ママー!』って絶叫してた兵士」を1時間くらいずっと見せられたような疲労感である。

こういう映画なので、プロパガンダ的な要素は途中からけっこうどうでもよくなる。というか、戦闘シーンが壮絶すぎて「プロパガンダ要素は人民解放軍の協力を得るための建前で、本当はこのめちゃくちゃな戦闘シーンが撮りたかっただけでは……?」と勘ぐりたくなる。「ド派手な戦争アクションが見たい!」「現在の中国のエンターテイメントの勢いが知りたい!」という気持ちがあるのならまず絶対に満足できる、必見の作品だろう。特に現在の中国の娯楽産業の本気度はヒリヒリと伝わってくる。

ただし、面白いかどうかとは別に、本当に見た後クタクタに疲れる映画であることは重ねて言っておきたい。見る予定がある人は前日にしっかり睡眠をとり、見た後はちゃんと滋養のあるものを食べることをおすすめしておく。

(しげる)

【作品データ】
「オペレーション:レッド・シー」公式サイト
監督 ダンテ・ラム
出演 チャン・イー ホアン・ジンギュ ハイ・チン ドゥー・ジアン ほか
9月22日よりロードショー

STORY
中東某国で発生した政変に対し、中国は自国民保護のため海軍陸戦隊の精鋭である蛟竜部隊を送り込む。領事の救出に成功した蛟竜部隊だったが、
現地のジャーナリストによってテロリストが核物質とダーティボムの製造方法を狙っていることを知る
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