15歳以下の子どものいる世帯主、もしくは65歳以上の一部など特定の条件に該当する者に、1人あたり2万円分を政府が地域振興券という形で配布したことがあった。景気低迷が続いた1990年代最後の年、子育て支援や高齢者の経済的負担を軽減させることで消費拡大を狙った政府主導の経済対策の一環だった。


使用期限・制限があった2万円


1000円分×20枚の地域振興券は、「地域」と名に付いている通り、どこでも使えるものではない。基本的に発行元の市区町村でしか使えず、加えて釣り銭を出すことが禁じられていたため、限りなくピタリ賞に近い使い方をしなければならなかった。加えて、有効期限が交付開始日から6ヶ月間となっていたため、使うタイミングも見計らわないといけない代物だった。

鳥取県大栄町では、名探偵コナンがデザインされた地域振興券が交付され当時大変な話題となった。これを欲しがるファンが続出し、禁じられているにも関わらず高値で取引されるといった問題が起きたのだ。そのため、同町では希望者にレプリカを配布するという対応が採られることとなった。ちなみに、同町で使用された地域振興券は全国平均より1割近く下回っていたことから、レプリカを配布してもなおかなりの枚数がコレクターの手に渡ったと思われる。


地域振興券がもらえた生徒、もらえなかった生徒問題


地域振興券は子どものいる家庭すべてがもらえるわけではなかった。交付の条件に合致しない子どもがいる家庭は、当然ながらもらうことができなかったのだ。1999年1月1日を基準日としたことから、15歳と16歳が混在する昭和57年生まれの当時高校1年生は、1983年1月1日以前に誕生したか、2日以降に誕生したかで命運が分かれた悲劇の年代なのである。

もらえた者は歓喜し、もらえなかった者は持つ者に許されたその使い道を、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべながら聞く日々が続いた。


持つ者、生みし者によって剥奪される


地域振興券は15歳以下であればもらえる。しかし、与えられた者のすべてが優雅に消費活動を行えたわけではなかった。母なる存在にそのすべてを奪われる者も多数存在した。
筆者(1983年生まれ)もそのうちの一人だ。

筆者の家庭は3人がその対象、つまり6万円分の地域振興券が与えられたわけだが、それらはすべて偉大なる母の一声ですべてがその懐へと吸い上げられていった。なにやら地域振興券というものがもらえるらしい。手に入ったらゲームを買おう、マンガを買おう、自転車を買おう。そう算段し、希望に胸膨らませていたがそれも取らぬ狸の皮算用でしかなかった。

地元商店街において嬉々として母が消費活動を行う傍らで、奪われし者はその様子に冷ややかな視線を浴びせることしかできなかった。
ただただ無表情で見つめる、それがささやかな抵抗であったのだ。そんな苦い記憶を持つ人も多いのではないだろうか。

(空閑叉京/HEW)