アラフィフのおじさん、おばさんたちの中にほんのりと芽生えはじめていた恋心が、日々のつらい生活の反動でブーストしていく。

日々のストレスから恋愛に逃避
出世コースに乗っていたはずの銀行から関連会社へ出向することになった瀧沢完治(佐々木蔵之介)は、出向の件を家族には言い出せないでいた。
しかし、妻・真璃子(中山美穂)が忘れ物を銀行まで届けに行ったため、すべてバレてしまう。
出向という一大事を知らせてくれなかったということで、仕事を理由に約束を破った、子育てに協力的じゃなかった……などこれまでの不満まで乗っけて真璃子はブチ切れる。
一方、スイスで完治とトレンディに出会い、日本でトレンディに再会した目黒栞(黒木瞳)は、私生活では娘のことすら分からなくなっている母親の介護で、しょぼくれた日々を送っていた。
瀧沢夫妻と栞。三者それぞれが日常生活に対するストレスを抱えており、つらい現実からの逃避として恋愛に突っ走ってしまう。
「人生折り返し、恋をした」というサブタイトルからは「この年になって、真実の愛を知ったわ!」的な素敵ニュアンスを感じるが、「恋をした」きっかけが日常生活のストレスというのが世知辛い。
佐々木蔵之介のぶっ壊れ顔がヤバイ
ストレスのせいで若干、頭がバカになっちゃっている感のある三人だが、中でも一番ぶっ壊れているのが完治だ。
派閥の長によるスキャンダルの巻き添えという、自分の責任ではない理由で出向。その出向先では露骨に煙たがられ、仕事も与えられず。妻&娘からは出向の件でなじられ……。
ロクなことがない日々の中、トレンディに出会った栞との交流だけが救い……という気持ちは分からなくもない。
栞からメールが届いただけで「てれれれ〜てれれれ〜」音楽が流れ出し、デートの約束を取り付けたら嬉しくて飛び跳ねてしまうという、ベタな演出には笑ってしまったが。
しかし完治にチャンスが訪れる。
ゴルフ・コンペ当日は靴をなめんばかりの勢いでごまをすり、ゴルフ場を駆けずり回る完治だったが、
「何をやってるんだオレは、ここまでして古巣にしがみつきたいか」
「ごますり虫の群れだな」
と、ぶっ壊れ、ゴルフ場を後にして、栞を呼び出す。
「やっぱ仕事よりも恋愛だよね!」というエピソードは、バブル期のトレンディ・ドラマでもよくあった定番の話ではあるのだが、その頃のドラマと比べて格段に痛々しく見えてしまうのは、「そんなことしてたら、ガチで路頭に迷いかねないぞ!」という時代性もあるだろう。
疲労困憊となった佐々木蔵之介の完全にイッちゃった目でネクタイを外す演技も相まって悲壮感がハンパないのだ。
中山美穂の病み方がヒドイ
一方、そんな完治の行動がストレスとなり、ぶっ壊れてしまっているのが妻の真璃子だ。
出張と偽ってスイス旅行に行ったり、出向の件を黙っていたり、完治の態度は確かにヒドイが、それに対する真璃子の行動も過剰!
完治が銀行時代の部下からもらったプレゼントを見つけ「何でいつまでもコレがここにあるのよ!」と捨てようとしたり、「離婚」についてネットで検索したり。
そんな真璃子の心のスキマにスッと入り込んできたのが、娘・美咲(石川恋)の婚約者・日野春輝(藤井流星)だ。
いっくら美咲から「鍵が開いているから」と言われたにしても、両親も住んでいる家に無言で上がり、リビングまでずけずけと入ってくるなんて、サイコパスとしか言いようのない行動だ。
そこで真璃子が「離婚」に関するサイトを読んでいるのを目撃してしまう(真璃子も、娘がいる家のリビングでそんなサイト見るなよ……)。
笑ったのは、そのサイトのタイトルのデカさ。一辺2cmはあろうかという巨大な文字で「専業主婦が知っておきたい損しない離婚の方法」って。……そんなサイトあるか!?
それだけ文字がデカイからこそ、春輝が内容をのぞき見できちゃったわけだが。
とにかくこの件をきっかけに、ふたりの間は急接近する。
母親が娘の婚約者と二人で会う約束をして、旦那の不満や離婚について相談するという段階でだいぶどうかしているが、その場で泣き出してしまった真璃子に春輝がハンカチを差し出し、ふたりは見つめ合って……って、もうホラーでしかないよ。
とことんトレンディを引きずる黒木瞳
瀧沢夫妻の病みっぷりと比べると、母の介護というストレスはあるものの、栞の精神状態はマシに見える。
ただ、「恋愛」に対して思いっきりトレンディを引きずっているのは栞だ。
デートが終わっての別れ際、振り返って完治の姿を見てしまい、たまらず駆けよって抱きつく。
「あ、ごめんなさい。今日、とても嬉しかったです。楽しいことっていつも続かないから、またダメかなって諦めてたんです。……でもそうじゃなかった」
そんでキス&無言で去って行く。
『東京ラブストーリー』だったら完全にチュクチューン!(「ラブストーリーは突然に」のイントロ)状態だ。
日常がつらい完治が栞に入れ込んでしまうのも納得のトレンディ力!
原作の『黄昏流星群』では、人生の酸いも甘いも知り尽くしてきた中高年による恋愛ということで、多くのエピソードでサクッとセックスに至っており、それ故、逆に性欲云々を超えたところでの恋愛模様を見せてくれている。
それに比べて、ドラマ版の童貞、処女くささは何なのか……。
メールひとつで大騒ぎし、手に触れたの触れないのでときめいているアラフィフのおじさん、おばさんたち。
一周回ったピュアな恋愛と言えなくもないけど、相変わらずトレンディを引きずったおじさん、おばさんたちの恋愛を見せつけられているようで痛々しい……。
そんな痛いおじさん、おばさんたちによる色恋沙汰の被害者となっているのが瀧沢家の娘・美咲なわけだが、次回は美咲の秘密も暴かれ、痛い恋愛ゾーンに突入してくる模様。
中途半端な中年トレンディ・ドラマを見せられるくらいなら、娘も巻き込んで昼ドラのようなドロドロ展開を見たいところだけど、今後、どっちに転んでいくのか!?
(イラストと文/北村ヂン)
【配信サイト】
・FOD
・TVer
『黄昏流星群〜人生折り返し、恋をした〜』(フジテレビ)
原作:弘兼憲史『黄昏流星群』(小学館刊)
脚本:浅野妙子
演出:平野眞、林徹、森脇智延
主題歌:平井堅「half on me」(アリオラジャパン)
音楽:得田真裕
チーフプロデューサー:高田雄貴 (フジテレビ)
製作著作:フジテレビ