2015年以降、最大のバラつき
こんなにピリピリした空気が漂うM-1グランプリは久しぶりだったように思う。7人体制の審査員や笑神籤(えみくじ)など、基本的な演出は昨年と同じ。それなのに序盤から空気が重く、点数が思ったより伸びない。停滞ムードを察したのか客席も再び冷え始め、中盤はさらに重い空気に。ミキが声を張り上げ、トム・ブラウンが会場をざわつかせ、ようやく暖まったころに霜降り明星と和牛が爆発した。
全ての採点を表にまとめてみよう。赤字が審査員の最高点、青字が最低点。審査員ごと、ファイナリストごとに平均点と標準偏差(点数のバラつき)も併せて算出している。
目を引くのは、立川志らくがジャルジャルにつけた「99点」。2015年のM-1グランプリ復活以降、最高点となる点数であり、これ以降ほかの審査員も点数の振れ幅が大きくなっていく。
審査員ごとの標準偏差は7人中4人が4点台であり、これは2015年以降で最も点数のバラつきが大きい数字だ。立川志らくの「99点」以降、上沼恵美子も自身の最高点「98点」を連発。
ファイナリストごとの標準偏差も3点台のコンビが多く、審査員のあいだで評価が分かれているのがわかる。それぞれの審査員に採点のアップダウンがあり、その波が揃わないと評価が割れる(=標準偏差が高くなる)のだ。ジャルジャルやトム・ブラウンを評価する立川志らくと、ミキや和牛を評価する上沼恵美子を比べるとわかりやすいだろう。そして、波のピークがピタリと揃ったとき、霜降り明星が「662点」という高得点をたたき出した。
今回初めてM-1の審査員となった立川志らくは、ジャルジャルの1本目を「ひとつも笑えなかった。だけど、頭の中はめちゃめちゃ面白かった」と評した。師匠である立川談志の言葉を借りれば、「イリュージョン」をジャルジャルに見たのかもしれない。そりゃぁトム・ブラウンが2本目にやろうとしていた「土の中から出てくる加藤一二三」も見たがるだろうと思う。
20代が賞レースを制する2018年
最終決戦に残ったのは、霜降り明星、和牛、ジャルジャルの3組。
ガッツポーズの粗品、ピンマイクを弾き飛ばして喜ぶせいやの後ろで、ジャルジャル福徳が笑顔で和牛水田の肩を抱いていた。和牛川西がスーパーマラドーナ武智に指を3本出して苦笑していたのは「準優勝3回目やで」ということだろう。
和牛が本命と評され、スーパーマラドーナ、ジャルジャル、ギャロップがラストイヤーだった今年。「悲願」の冠で紹介されていた彼らを抜き去っていったのは結成5年目の20代だった。昨年とろサーモンがラストイヤーで劇的に優勝したのとは真逆の展開である。
振り返れば、2018年の賞レースを制したのはR-1グランプリの濱田祐太郎(29歳)、キングオブコントのハナコ(菊田31歳、秋山27歳、岡部29歳)、そして霜降り明星(粗品25歳、せいや26歳)と軒並み若い。昨年末、THE Wで優勝したゆりやんレトリィバァも28歳だ。2018年は世代交代の年になるかもしれない。
そういえば、せいやの優勝コメントは「大学の奨学金をまとめて返します」だった。これも若さがなせるコメント……! 霜降り明星、優勝おめでとう!
(井上マサキ)