──あの「のど自慢」がバーチャル化!? 「明るく!楽しく!元気よく!」をテーマに毎週日曜お昼に全国各地から生放送でお届けしている「NHKのど自慢」。今回お邪魔するのはバーチャル空間。
──

そんな紹介文とともに突然発表された「NHKバーチャルのど自慢」(2019年1月2日、夜11時35分から深夜0時20分 総合テレビ)。
バーチャル(仮想的)な体を持ち、動画投稿や生配信を中心に活動してきたバーチャルYouTuber(VTuber)たちの活動範囲は人気とともに拡大してきたが、ついにNHKのお正月特番にも進出することとなったのだ。
「NHKバーチャルのど自慢」プロデューサーに聞く。バーチャルYouTuberのガチ「NHKのど自慢」
アイドルに憧れ、武道館ライブを目標としている電脳少女シロ(左)と、歌ってみた動画も人気で「ECHO」と「ロキ」の再生数がミリオンを突破したミライアカリなど人気VTuberが自慢ののどを披露

出演者は、電脳少女シロミライアカリ富士葵ときのそら月ノ美兎YuNi道明寺ここあ、他、13組の人気VTuber。ゲストとして、バーチャルグランドマザー小林幸子と、キズナアイも参加する。

放送開始から70年以上の歴史を誇る「NHKのど自慢」と、最新技術により誕生したVTuberの組み合わせは、なぜ実現することになったのか?
エキレビ!では、番組の制作を担当するNHKエンタープライズの土橋圭介エグゼクティブ・プロデューサーと、ドワンゴの専務取締役CCOでもある横澤大輔プロデューサーへの取材を実施。企画の立ち上げから、まだ明かされていない番組の内容までを、前後編のインタビューで聞いてみた。
「NHKバーチャルのど自慢」プロデューサーに聞く。バーチャルYouTuberのガチ「NHKのど自慢」
10年以上もアニメ番組に携わってきたNHKエンタープライズの土橋圭介エグゼクティブプロデューサー(右)と、ドワンゴ主催の大規模イベント「ニコニコ超会議」や「闘会議」も指揮する横澤大輔統括プロデューサー

VTuberのカラオケ大会が一つの事件に


──一番気になっていることから聞いてしまいますが、「NHKバーチャルのど自慢」という番組は、どういった経緯で生まれたのですか?

土橋 私ごとで恐縮ですが、この夏、NHKからNHKエンタープライズ(NEP)に出向して、「番組開発」というセクションに配属になりまして。異動直後に挨拶がてら、新しく「開発」する番組のご相談を方々に営業しておりました。その流れで『山賊の娘ローニャ』や『龍の歯医者』というアニメを一緒にプロデュースした、川上量生さん(ドワンゴ取締役CTO)にもご挨拶に行ったところ、「今、VTuberがきてますよ! バーチャルで番組作りましょう!(笑) 今までにない新しい映像を作り出すこともできるんです」とニコニコしながらお話いただいたんです。キズナアイさんの名前は知ってましたが、正直バーチャルで番組と言われてもあまりピンと来なくて(笑)。その場の話題なのかな……と思っていたら、後日、川上さんから正式に番組の企画書を作ったので見て欲しいと連絡が来て、本気だったのかと驚きました。でも、最初の企画書は「のど自慢」ではなかったんですよ。もう少しお芝居っぽいというか……。


横澤 そうでしたね。

土橋 いくつか寸劇のようなアイディアが書かれていたのですが、それが果たして番組になるのか半信半疑のままで……。打ち合わせもそこそこに、実際にVRゴーグルとかを付けてバーチャル空間の体験をさせてもらったんです。女の子の姿になって(笑)。(東京から)北海道にいる方とお互いアバターになってコミュニケーションしました。最初は自分のアバターの操作や基礎を教えてもらっていたのですが、慣れてくるとバーチャル空間に仕込まれているカメラでの撮影や、複数カメラのスイッチングなど、リアルな機材を一切使わず、バーチャル上の装置だけを使って簡易な番組作りみたいなことをやってみました。簡易とはいえ、番組が作れることにかなり感心したのですが、指導を受けながらバーチャル体験している僕の様子も実は第三者視点で収録できたんです。その映像を後から再生してみると、見た目はアニメっぽいけれど、やりとりが自然でライブっぽい。川上さんが言っていたのは、こういうことか〜と妙に納得しまして、新しいものになるのかも……という予感がしました。「じゃ、僕の方でももっとVTuberを勉強して考えてみます!」なんて挨拶をして、その日は終わったのですが、しばらくして2回目の打ち合わせをしたら、なぜか(企画が)「バーチャルのど自慢」になっていました(笑)。

──では、アイデア的にはドワンゴ発の企画なのですね。

横澤 そうです。
僕は2001年にドワンゴに入社してからずっと、制作の現場で新規事業を手がけてきたのですが、特に、デジタルコンテンツとリアルコンテンツをどんなプラットフォーム上で組み合わせて、どのようなハイブリッドコンテンツを作るのかということを17年間ずっと考えてきました。VTuberについてもその流れでいろいろな企画を考えてきたのですが、この夏にVTuberのカラオケ大会の特番をニコ生で配信しました。実はそれが我々の中では一つの事件となったんです。

真似するのではなく、本家とがっつり組んでやった方が良い


──8月26日に配信された「バーチャルカラオケ〜2018・夏〜」が、どのような事件となったのですか?

横澤 人気VTuberの方々がバーチャル空間のカラオケボックスに集まってカラオケをする企画だったのですが、その配信を我々の想像以上のユーザーの方がご覧になって下さったんです。ニコ生では、よくアニメの一挙放送を行っていて人気のある企画なのですが、それを超えるくらいの視聴者数で。VTuberの皆さんがカラオケボックスに集まるだけで、こんなにも楽しんでもらえるのかと驚きました(笑)。
「NHKバーチャルのど自慢」プロデューサーに聞く。バーチャルYouTuberのガチ「NHKのど自慢」
バーチャルカラオケでは、所属グループなどの枠を超えたデュエットも披露した富士葵&ときのそらと、月ノ美兎&道明寺ここあ(画像は左上から時計回り)。4人とも「NHKバーチャルのど自慢」にも出演

──普段は個別に活動している人気VTuberたちが一緒にカラオケを楽しんでいる様子は、観ている側も楽しくなりました。

横澤 「NHKのど自慢」企画は、「カラオケでこんなに喜んでもらえるのなら、もっとすごいことをやれば、もっと喜んでもらえるのでは?」という安易な発想からスタートしたものではあるんです。最初は、音楽バラエティ的な番組も考えていたのですが、VTuberが歌を歌うという企画なので、自然と「NHKのど自慢」的なフォーマットになっていき。土橋さんに「本家の『NHKのど自慢』とVTuberを組み合わせたら、面白いと思うんです」と提案させて頂きました。

土橋 「NHKのど自慢」は、数あるNHKの番組の中でも特に長寿な番組の一つですし、「NHKの顔」と言っても過言ではありません。まさかバーチャルで「のど自慢」という企画が来るとは思っていませんでしたね(笑)。でも、単に演出フォーマットを真似するのではなく、やるなら「本家」とがっつり組んでやった方が良い、というお話をさせて頂きました。
とはいえ、僕が「NHKのど自慢」の担当をしているわけではありませんから、作っている人にOKもらわないといけません。そこで、番組の責任者であるエンターテイメント番組部のチーフ・プロデューサー、代田一貴に企画の相談に行きました。「悪ノリ企画だ!」なんて怒られることも覚悟しながら恐る恐る会いに行ったら、「やるなら一緒につくりましょう!」と前向きにとらえてくれたんですよ。懐が深いというのか、シャレを分かってくれるというのか、「さすがエンターテイメント番組部!」と同じ職員ながら感心してしまいました。

──企画がスタートしたのはいつ頃だったのですか?

土橋 始めたのが9月中頃ですが、放送枠は年末年始かもと言われて。横澤さんたちに「年末年始ならやれそうですけど、どうしますか?」と尋ねました。それまでに横澤さんたちから制作のワークフローも伺っていて、お正月まで、つまり3ヶ月で仕上げて放送するのはキツいかなと思っていたんです。でも、すごく力強く「大丈夫です!」と言って頂けたので、ビックリするのと同時に、横澤さんたちの本気度合いを実感しました。

本当にそのまま「NHKのど自慢」なんです


──横澤さんは、企画を提案した時点では、「この番組は絶対にやりたい!」という気持ちでしたか? それとも「もし実現したら、すごいな」くらいの感覚でしたか?

横澤 正直、どちらの気持ちもありました。8年くらい前からMMD文化(3Dモデルを簡単に動かせるソフト「MikuMikuDance」を発端とする創作活動)が続いていまして。我々も、初音ミクなどのキャラクターでライブを行うための技術的なノウハウが8年分蓄積されているんですね。我々はこの技術をVTuberや、Unityというゲームエンジンと組み合わせることによって、アニメーション的な番組ができると考えていたんです。
さらに、アニメ業界的にも、『けものフレンズ』のような3Dルック的なキャラクターの作品が人気を集めたりもして。我々のやってきたMMD文化的なキャラクターがさらに多くの方に受け入れてもらえる土壌もできてきたと感じています。そういう条件なども重なったことで、新しいものを作り出せるはずという確信や、挑戦したいという気持ちが入り混じっていまして。土橋さんに熱い思いを語らせて頂きました。NHKさんには我々の熱をそのまま受けとめて頂いて大変感謝しています。

土橋 現場の制作スタッフや出演者の皆さんの新しいことを作り上げようとする熱量は半端じゃありませんね。

──発表されたリリースを見て、どんな番組なのか気になっているVTuberファンは多いと思います。現時点で、話せる範囲で教えて下さい。

横澤 話せる範囲というか……本当にそのまま「NHKのど自慢」なんですよ(笑)。

土橋 「NHKのど自慢」です(笑)。今回の放送の尺がなぜ45分なのかというと、本家の「NHKのど自慢」が45分だからです。小田切千アナウンサーがバーチャル空間にお邪魔して、そこから中継スタイルで放送しています。

「NHKバーチャルのど自慢」プロデューサーに聞く。バーチャルYouTuberのガチ「NHKのど自慢」
2013年4月から「NHKのど自慢」の司会を務めているNHKの小田切千アナウンサー。この写真はVTuber化する前のもの

──「今度はバーチャル空間にお邪魔します」というリリースの言葉通りの内容なのですね。

土橋 そうですね。ただ、出場組数は20組ではありませんし、生放送ではなく収録だったり、本家と異なる部分もあります。でも、ガチで「NHKのど自慢」をやることが基本コンセプトです。
(丸本大輔)

後編につづく
≪番組情報≫

【放送予定】
アニメ「NHKバーチャルのど自慢」
総合テレビ 1月2日(水)夜11時35分〜深夜0時20分

【出演】
アメリカザリガニ、オシャレになりたい!ピーナッツくん、剣持刀也、甲賀流忍者ぽんぽこ、静凛、鈴木ヒナ、田中ヒメ、月ノ美兎、電脳少女シロ、ときのそら、道明寺ここあ、ばあちゃる、バーチャルゴリラ、樋口楓、富士葵、ミライアカリ、YuNi  
(50音順)

【ゲスト】
バーチャルグランドマザー小林幸子、キズナアイ

【司会】
バーチャル小田切千アナウンサー

制作:NHKエンタープライズ
制作・著作:NHK・ドワンゴ
編集部おすすめ