ロサンゼルスの万引き家族といった趣の一作、『マイ・サンシャイン』。しかし彼らが住んでいるのは1992年のサウスセントラルであり、そうである以上『万引き家族』には存在しなかった"暴動"という要素が絡んでくる。

「マイ・サンシャイン」サウスセントラルの「万引き家族」はロス暴動にどう巻き込まれたのか

『007』シリーズ出演コンビ、暴動に揺れるロサンゼルスで必死に暮らす


『マイ・サンシャイン』の冒頭は、あるコンビニの店頭から始まる。飲み物が並んでいる棚から黒人の少女が商品を手に取り、カバンに放り込んで会計しようとする。しかし韓国系の女性店主は商品を万引きされたと思い込み、「今からお金を払おうとしてたのに」と釈明しようとする少女をその場で撃ち殺してしまう。1991年にロサンゼルスで発生した、ラターシャ・ハーリンズ射殺事件だ。

事件の判決は保護観察処分と500ドルの罰金のみで収監なし。少女が殺されたにも関わらず非常に軽い判決に、ロサンゼルスでも指折りに治安が悪いサウスセントラルの黒人たちは不満を募らせる。同じ地区に住むミリーとその家族にも、影響は出始めていた。ミリーは年齢もバラバラな身寄りのない子供たちを集め、豊かではないものの愛情ある暮らしを営んでいる。隣に住む白人のオビーは毎日やかましいミリーたちに文句は言うものの、根の部分では彼らを気にかけている。

ある日、ミリーは母親が逮捕され、帰る家がない少年ウィリアムを保護する。ミリーの家でも最年長で真面目なジェシーは粗暴なウィリアムの言動を警戒するものの、子供たちとともに徐々に打ち解けていく。さらにジェシーの学校の同級生であるニコールも家を失い、住む者がいないウィリアムの家に転がり込むようになる。しかしロサンゼルスでは黒人男性のロドニー・キングが白人の警官たちに暴行を受ける事件が発生。
ラターシャの事件で溜まっていた鬱屈がこの事件をきっかけに爆発し、街は暴動に飲み込まれていく。

ミリー役にハル・ベリー、オビー役にダニエル・クレイグと、どっちも『007』に出たことがある役者を揃えた本作。ほぼノーメイクで出演しているというハル・ベリーは、とても現在52歳とは思えない体型とピチピチ感。もともと年齢がわかりにくい見た目の人ではあるけれど、最近はもっと分かりにくくなっている気がする。子供達と一緒に庭で水遊びをするシーンなどを見ると、「この人はさぞかしものすごい努力をしているのだろうな……」というリスペクトの気持ちが湧いてくる。

一方、この映画の最萌え枠だったのがダニエル・クレイグ。ボンド役で認知されつつ、『ローガン・ラッキー』でのプロの銀行強盗役などでははっちゃけた演技を見せるが、今回は「子供だらけの隣家を鬱陶しがりつつそれなりに気にしている、根は悪くない近所のおっさん」という「それ絶対おいしいやつじゃん」という役所。お仕置きで家を追い出された子供たちと一緒に音楽を聴きながら踊ったり、とんでもない方法の脱出劇を見せたりと、顔はおっかないけどチャーミングなおっさんとしてきっちり仕事をしている。

『マイ・サンシャイン』の特徴が、人間関係の説明をかなり意図的に排除している点だ。なので最初はオビーはなんだか粗暴で怖いおっさんにしか見えないし、ミリーとの関係もなんだかよくわからない。というか、全編見ても結局はっきりわからないところは残る。それは他の登場人物に関しても同じで、「この人とこの人ってどういう関係なの……?と疑問が発生する部分もある。


でも普通、日常生活でいちいち人間関係に関して説明的なことを言うかといったら、そんなことはないだろう。つまりこの映画は「この人たちの間にはそれまでに積み上げた関係がありますが、普通に生きている人間なのでいちいちそれを説明することはありません」という、割とハードな実録路線の作品だということになる。

やっぱりこの映画、『万引き家族』に似てるんですよ!


『マイ・サンシャイン』を見ていて思い出したのが、今年の話題作のひとつである『万引き家族』である。この2作品には共通点が多い。実際には血が繋がっていない人々(子どもを含む)がひとつの家で暮らし、生計を立てる手段として犯罪が身近である。『マイ・サンシャイン』でも実際に子供達がスーパーで万引き(というより組織的な窃盗である)をするし、盗んできた食べ物を屈託なく食べるシーンもある。それだけではなく、ふわっとした光源の感じを捉えた映像のトーンや、警察や行政側との緊張感のある関係も似ている。

それだけなら「ロサンゼルスの万引き家族」になっていたところだが、『マイ・サンシャイン』は1992年のロス暴動を主題にした映画だ。当然のことながら劇中では黒人差別が原因で大暴動が発生する。この暴動も、ミリーの子供達にとっては「タダで食べ物や服をもらい放題のビッグイベント」でしかない。なので大人をほっといて勝手に暴動の現場に飛び込んでいってしまう。

一方、ティーンエイジャーの黒人たちにとっては、暴動は自らのタフさを示すいい機会である。
よりデカくて危険なことをやって仲間たちに認められるため、彼らは警察署を襲ったり、車を盗んだりする。ミリーの子供達の中でも年長であるジェシーは、そんな自己顕示のための暴動に半ば嫌々巻き込まれていく。

さらにミリーとオビーにとってみれば、暴動は単純に自分たちの平穏な生活を乱す害悪でしかない。無鉄砲に暴動に巻き込まれていく子どもたちを助けるため、彼らは自分たちなりに頑張るものの、今度は警官たちに行動を阻まれる。

というわけで、『マイ・サンシャイン』の後半は「『万引き家族』×暴動」といった趣になっていく。それぞれの立場で暴動の一夜に巻き込まれていく彼らの姿を、特に突き放すでもなく、さりとてベタベタしたトーンでもなく、けっこう淡々と描く。前述のように『マイ・サンシャイン』は細かい説明を省くタイプの映画なので、泣かせるようなエモーショナルな盛り上げはない。代わりに「こういう風にしかならなかったんだよな……」という、ある種の諦めのような感じがある。なんというか、全然問題が解決しないのだ。

だから、すっきり泣いて帰れると思った人(日本版ポスターの作りや邦題もなんかそんな雰囲気である)は肩透かしを食ったような気分になるかもしれない。しかし実際のところ、ロス暴動の原因となった人種問題は特にすっきりと解決しないまま26年も経っている。そうである以上、『マイ・サンシャイン』は誠実な映画であると言えるのではないか。
結論を出せない話に対して「結論は出せません」と言って終わる、嘘のない作品である。
(しげる)

【作品データ】
「マイ・サンシャイン」公式サイト
監督 デニズ・ガムゼ・エルギュヴェン
出演 ハル・ベリー ダニエル・クレイグ ラマー・ジョンソン カーラン・ウォーカー レイチェル・ヒルソン ほか
12月15日より全国ロードショー

STORY
1991年、ミリーは身寄りのない子供たちを引き取り、ロサンゼルスで賑やかに暮らしていた。そんな彼らの様子を隣人オビーも気にかけている。しかし街で韓国系の商店主によって黒人の少女が射殺される事件が発生。彼らの生活にも影響を与えていく
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