菅田将暉主演のドラマ「3年A組─今から皆さんは、人質です─」がスタートした。菅田将暉演じる高校教師が、生徒29人を人質に取って「最後の授業」を行うという物語。
全10話で卒業までの10日間の出来事を描く。
菅田将暉「3年A組―今から皆さんは、人質です―」は地獄の金八先生「お前ら揃いも揃ってクズだな!」
イラスト/Morimori no moRi

原作はなく、『仮面ライダービルド』や映画『テルマエ・ロマエ』などを手がけた脚本家・武藤将吾のオリジナルドラマとなる。第1話の視聴率は10.2%と上々の滑り出し。これはもちろん同枠の『今日から俺は!』のヒット(最終回の視聴率12.6%!)の影響が大きいはずだ。

ケレン味たっぷりのツカミ


ドラマの冒頭は3月10日。「この瞬間をもって、俺の授業は完結する」とカメラ目線で言う主人公の美術教師・柊一颯(ひいらぎ・いぶき/菅田将暉)。柊はそのまま学校の屋上からダイブするが、テープが巻き戻ると荘厳に鳴り響くベートーベンの第9に乗せて、過去の出来事が凄まじい勢いでコラージュされていく。

コラージュが終わると日付は3月1日に戻り、職員室で柊ら教師一同が謎のダンス風体操を踊りはじめるという、仕掛け満載、ケレン味200%のオープニングだ。これで一気に掴まれた視聴者も少なくないだろう。

柊が運んでいる大きな荷物に女子生徒・魚住(『SUNNY 強い気持ち・強い愛』の富田望生)が体当たりする1シーンで、彼の学校でのポジションを見せる演出も上手い。「ホームルーム遅刻すんなよ!」と笑う彼女たちの表情には確実に嘲りが色濃く現れていた。柊は生徒たちにとって“雑魚キャラ”なのだ。

「今からみなさんには人質になってもらいます」

3年A組29名の前での宣言から、暴力的な生徒の甲斐(『PRINCE OF LEGEND』の片寄涼太)らを一瞬で蹴散らす反転も見事。
「こう見えても昔はアクション俳優を目指してたんだ」という一言も決まった。校舎の一部を爆弾で爆破して生徒たちを物理的に教室に閉じ込めるという荒唐無稽な設定も、演出のスピード感でなんとなく飲み込んでしまう。

「最後の授業」の目的は、数ヶ月前に自殺した景山澪奈(『義母と娘のブルース』の上白石萌歌)の死の真相に迫ることだった。澪奈の自殺にA組の誰かが深く関わっている――柊はそう考えていた。柊はA組全員で話し合って澪奈の死の原因を導き出すことを求める。正解すれば全員解放。しかし、不正解なら生徒の1人が死ぬ……!

「お前ら、揃いも揃ってクズだな!」


オリンピック代表候補になっていた澪奈と、澪奈に崇拝に近い感情を抱いていたさくら(永野芽郁)。ふたりは友情を育んでいた。そのことを知っていた柊は、回答役にさくらを指名する。

しかし、3年A組の生徒たちはタイムリミット直前になっても澪奈の死に向かい合おうとせず、澪奈がドーピングをしていたというネットの噂をもとに、重圧に負けて自殺したという安易なストーリーを作り出していた。

澪奈はクラスでいじめに遭っていた。机の「ドーピング野郎」という落書きは甲斐が書いたものだ(彼のロッカーの文字と筆跡が同じ)。クラスの大半はいじめに同調し、女王的存在の唯月(『カランコエの花』の今田美桜)も煽り立てる。
いじめを主導していたのはダンス部の香帆(川栄李奈)。澪奈と一緒に帰ろうとして断られただけで逆恨みしていたのだ。香帆に警告を受けたさくらも、クラス全員と同じように澪奈を無視するようになる。

タイムリミット直前、柊の前で心無いことを言い立てるクラスメイトに怒りを爆発させたさくらは「一番許せないのは私だ」と涙を流す。彼女は無視されるのが怖かった。だから、友達を裏切った。澪奈が書いた「友達になれない」という手紙は涙でにじんでいた。友達のままでいたかったからだ。

「私は澪奈のSOSを踏みにじった。澪奈が自殺したのは、私のせい」

いじめ自殺の原因は、親友が勇気を出せなくて見放してしまったから。いい音楽が流れ、好き勝手なことを言っていたクラスメイトたちも少しだけ反省しているように見える。これまでのいじめドラマなら、こんな着地点もあったかもしれない。
だが、『3年A組』はまだ始まったばかりだ。

「残念ながら今の答えは不正解だ」

なぜ澪奈が死ななければいけなかったのか、柊は知っている。そして、それを生徒たちに卒業までの10日間で考えさせようとしていた。しかし、クラスにはペナルティが課せられる。誰かが殺されるのだ。乱暴者で卑劣な石倉(『怒り』の佐久本宝)は「茅野(さくら)が死ねばいい」と訴えるが、それに反論せずに口を閉ざすクラス全員はさらに卑劣だ。

「お前ら、揃いも揃ってクズだな!」

突入した警察への警告も兼ねて、中尾(三船海斗)がバタフライナイフの一突きで殺される。そして柊は警察を通してSNS「MIND VOICE」の登録ユーザー5000万人に1人100円の送金を命じる。つまり、誰も他人事ではないということだ。ドロッドロの人間関係を抱えているのに、やけに爽やかな卒業アルバム風のエンディング映像も皮肉が効いている。

菅田将暉は現代に蘇った金八?


キレキレの菅田将暉、そして昨今のドラマ、映画を支える若手俳優たちが結集したA組の生徒たちの掛け合いが見どころなのは言うまでもない。なかでも第1話の注目は川栄李奈だろうか。
23歳の彼女が女子高生を演じるのは「?」だったが、コミュ力に長けていて、陰湿で、恫喝もできる手に負えない系女子を目ん玉ひん剥きながらイキイキと演じていた。

『バトル・ロワイヤル』、『ソロモンの偽証』、『悪の教典』、『告白』など、先行作品の要素をたっぷり受け取りつつ、熱量とテンションが異様に高い本作。狙っているのは日本版『13の理由』だろうか。いや、違う。終盤の菅田将暉の涙ながらの熱弁は『3年B組金八先生』の坂本金八(武田鉄矢)とダブる。タイトルの『3年A組』は『3年B組』と掛けてあるのだろう。教師が子どもを叱れなくなった現代、金八をアップデートしようとすると、爆破や監禁や殺人が必要なのかもしれない。第2話は今夜10時30分から。

……最後にどうでもいいことを書くが、WWEで中邑真輔がヒール転向のキンシャサを食らわせた相手はジェフ・ハーディーではなくAJスタイルズである。
(大山くまお)

「3年A組―今から皆さんは、人質です―」
Huluにて配信中
日曜22:30~23:24 日本テレビ系
キャスト:菅田将暉、永野芽郁、上白石萌歌、大友康平、田辺誠一、椎名桔平
脚本:武藤将吾
音楽:松本晃彦
演出:小室直子、鈴木勇馬
主題歌:ザ・クロマニヨンズ「生きる」
プロデューサー:福井雄太、松本明子(AXON)
制作著作:日本テレビ
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