「対話するときにノーで受けるとテンポがあがり、イエスで受けるとテンポが落ち着く」という作劇法がある。
ドラマ『みかづき』(公式)はこの使い分けが見事で、緩急の気持ち良い作品だった。

「みかづき」仕掛ける高橋一生に暴投永作博美「本当に長い歳月を一緒に重ねてきたような」いいドラマでした
ドラマの中では大島吾郎が書いた本として登場する原作『みかづき』。著者は森絵都

高橋一生の“仕掛け”た部分


第1話。
ワッフルを官能的に食べ、教育への想いを語り合うゆったりとしたシーン。
意気投合した二人、帰り道。
「こんな夜ははじめて」と千明が言って、吾郎も賛同して語るが「こんな夜」の解釈がめちゃくちゃズレていたことから喧嘩になる。
「はぁ↑」と永作博美が怒り、高橋一生が「あ、ちがった。ちがいました」と受ける。
いったん“ちがった”(仲良くなたままの口調)と言ったが、“ちがいました”とていねいに言い直すリアリティ。


2月2日(土)の土曜スタジオパークで、演出家の片岡敬司がこう語っていた。
「あの二人の芝居の基本パタンは、永作さんが暴投を投げまくる、力いっぱい。全部一生さんが捕る。このパタン。なかなかできる人たちはいない」
それに対して、高橋一生が、
「片岡さんには永作さんの暴投に見えてますけど、ぼくが微妙にちょっと仕掛けていくところがあったかもしれないです。それに対して永作さんが対応してくださってる」と語る。


「あ、ちがった。ちがいました」は、まさに高橋一生の“仕掛け”た部分なのではないか。
これに対応して、永作博美の演技がドライブする。
「あなた、は、なんて人! 女性と、いると、必ず、何か、するわけですか。何かしてきた、というわけ」
短く言葉を区切って怒りを表現し、“何かするわけですか””何しかしてきたというわけ”の言い直しで重ねてくる。
“こんな夜ははじめて”と言っていたチャーミングな様子から一転して喧嘩モードになりテンポもあがる。

あとずさりながら、千明の後ろに回り込む吾郎。
吾郎の反撃に、距離を拡げながらも、だが対面する位置に移動する千明。
「男の人と語り合って、負けたような気分になったのは初めてだって言いたかっただけです」
肩を上げ下げして怒りをおさえながらも、少しあとずさる。
ここぞ、と吾郎、「あなたは男の人と語り合うたびに勝った気分になったわけですか」と言いながら、前に進み攻め込む。
めまぐるしく二人は立ち位置を替え、立場を二転三転させ、感情を激しく揺さぶる。
ふたりの性格の違いが、明確に視聴者に伝わる。

「断れなくて」
「断れー(“ごどわでー”みたいな低い声で)」
絶品の掛け合いで、なにしろ楽しい。

はじめてふたりが抱きしめあう


最終話も、ふたりの対話がたっぷり堪能できた。
残念ながら(?)、ふたりの軽妙な喧嘩はもう見られなかったが、ゆったりとした対話で、いままでの積み重ねられたふたりの思いが交わされる。
「ゆうべ面白い夢を見たよ。空に君が浮かんでいた。みかづきだ」
吾郎の夢のなかで千明が「またたくさん眠る。
ゆっくり休んで目覚めたら、また夢を見るわ」と言った。

永作博美は、原作者森絵都との対談(『青春と読書』2019年2月号)で
“役者って、なんとなく脳がだまされやすい気がします”と語っている。
“本当に長い歳月を一緒に重ねてきたような気持ちになるんです”。

吾郎が、夢の話をする。千明が受けて、会話が進む。
「いままでよくがんばったね」
間を置いて、「ありがとう。
ごくろうさまでした」と吾郎は千明に頭を下げる。
(ここまでも、ゆっくりだが二人はつねに移動して、立ち位置を変えている)
泣き笑いの千明。
吾郎は「失礼します」と言って、千明を抱きしめる。

全5話、47年にわたる長いラブストーリーのなかで、はじめてふたりが抱きしめあうシーン。
観ている自分も、ふたりと一緒に長い年月を重ねてきたような気持ちになった。(米光一成

土曜ドラマ「みかづき」
NHK総合:毎週土曜よる9時、連続5回。
2019年1月26日〜2月23日
毎週水曜深夜1時に再放送。
原作 森絵都
脚本 水橋文美江
音楽 佐藤直紀
出演 高橋一生 永作博美 工藤阿須加 大政絢 桜井日奈子 壇蜜 黒川芽以 風吹ジュン 岡本玲
「みかづき」仕掛ける高橋一生に暴投永作博美「本当に長い歳月を一緒に重ねてきたような」いいドラマでした
作表/米光一成