今回のテーマは、キャリアウーマンとワーキングマザーの対立。

「子育てしてない人は子育てしている母親に譲るべき」という主張
中盤までは、意識的にワーキングマザーのほうをヒールとして描いていたように見えた。
輝く女性社員の活躍をアピールするため、テーコー不動産が立ち上げた「ウーマンプロジェクト」のメンバーに選ばれたのは、三軒家万智(北川景子)、キャリアウーマンの朝倉雅美(佐藤江梨子)、そして2人の子を育てるワーキングマザーの宇佐美サキ(佐津川愛美)の3人だ。
特に、サキが頭でっかちになっている印象だった。打ち合わせの途中で「息子のお迎えがあるので」と1人切り上げ、途中で抜けることを事前に伝えていなかった彼女。もちろん、これは当然の権利である。しかし、定時で終わらせる努力や助け合いの精神が彼女には欠けている。自身の事情を伝えるホウレンソウもできていない。この態度に雅美は苛立った。
2人の間に決定的な亀裂が入ったのは、この後。サキと雅美はそれぞれ、新しい住まいを探していた。そして、運の悪いことにサキと雅美が気に入った物件が被ってしまった。
サキ ここの間取りって、子育て世帯向けですよ。
雅美 馴染みの鍼灸師さんの診療所に近いのよ。この家には、夫のプラモデルが飾れる棚付きの部屋もあるし。
サキ プラモデルって、そんなふざけた理由なら私に譲ってくださぁい。ここは保育園が近くて、送り迎えの時間を1時間も短縮できるんだから!
雅美 ふざけた理由ですって!?
サキ だったら、近くの他の物件でいいじゃないですかぁ。ここは1階で、子どもの足音を気にしなくてもいいし、段差もないしぃ、公園も近いしぃ、子育てするためにあるような家なんですぅ!
「子育てしてない人は子育てしている母親に譲るべき」というサキの考え方に、雅美は爆発した。
「子どもがいたらそんなに偉いの!? 私みたいに産まない女の生き方だってもっと認知されるべきだし、子を産み育てることこそ女の幸せだなんて考え古くない?」(雅美)
皆、それぞれに抱えているものがある。だからこそ、相手への思いやりが大切になる。誰かを尊重すれば、他の誰かが生きづらくなることもある。バランス取りの難しさ。多様性とは自分の生き方を理解させることではなく、人それぞれで環境や考え方に違いがあると理解することだ。権利の主張し合いは本末転倒になる。
サキに物件を紹介しているのは留守堂謙治(松田翔太)で、雅美に紹介しているのは三軒家。
サキ 鍼灸院の近くに住みたいなんて理由に負けるのは、絶対おかしい。私は、子どもたちの命を育むためにあの家が必要なんですぅ! 仕事しかしてない三軒家さんには、育児と仕事の両立がどれだけ大変かわからないのよ。
三軒家 あなたは育児を持ち出せば、周りがひれ伏すと思っていますね?
「亭主関白」も「輝く女性は素敵」も過去のものにしなければ
実は、7話はここからが本番だった。勝負の後、三軒家はサキに一軒家の物件を紹介した。しかし、この家は保育園から距離が遠い。とても、サキが仕事と育児を両立できる物件じゃなかった。でも、サキの夫の職場からは3分の距離にある。そして、夫の職場には近々託児所が新設される。
「お子さんの送り迎えは旦那様にお任せすればよいのです。
「女性が輝く社会の実現」と言うが、なぜ女性だけが仕事と育児の両立を求められるのか? 女性優遇以前の問題に、ベースとして男女が不平等なのがおかしい。……という問題提議だ。「亭主関白」だけでなく「輝く女性は素敵」という意識も、もう過去のものにしなければならない。
サキの夫は、職場に託児所が新設されることを知らなかった。子育てを他人事と捉える意識を端的に表していたと思う。だから、今回は「キャリアウーマンvsワーキングマザー」ではないのだ。もっと、根元の部分に一石を投じる内容だ。
「女性に仕事と家事を両立させるためのプロジェクトならば、そんなものはくたばってしまえばいいのです」(三軒家)
ボウリング対決後、足立聡(千葉雄大)がこんなことを口にしている。
「男は仕事がうまく行かなかったら逃げ道がないじゃん? 女の人みたいに人生にバリエーションがあるのって、うらやましく思えることあるな」
いや。今回の内容を踏まえれば、「仕事」だけじゃなく男にも「子育て」という選択肢があっていいと気付くはずだ。
以上のような本筋とは別に、三軒家の夫・屋代大(仲村トオル)の怪しい動きが進行中。
色々な意見があると思うが、筆者は屋代に同情する部分もある。「今日は帰るの?」(屋代)「帰れません!」(三軒家)のやり取りを、今まで何度見てきたことか。屋代は心が折れてしまった。とは言え、不倫は言語道断なのだが。
でもだ。7話の内容を踏まえた上で、改めてこの夫婦のことを考察したい。屋代が先に帰宅したならば、三軒家の食事をたまには屋代が用意してもいいのでは? それが、ウィンウィンの関係だ。
三軒家から最近の帰宅時間の遅さを問われ、「帰りが遅いとか君にだけは言われたくないな」と反論した屋代。そのときの、三軒家の悲しげな表情と言ったら……。
(寺西ジャジューカ)
『家売るオンナの逆襲』
脚本:大石静
主題歌:斉藤和義「アレ」(スピードスターレコーズ)
音楽:得田真裕
チーフプロデューサー:西憲彦
プロデューサー:小田玲奈、柳内久仁子(AXON)
協力プロデューサー:水野葉子
演出:猪股隆一、久保田充 他
制作協力:AXON
製作著作:日本テレビ
※各話、放送後にHuluにて配信中