ブルーベリー「やってませんよ……」
3月1日(金)深夜放送のドラマ24『フルーツ宅配便』(テレビ東京)第8話。7話に引き続き監督を務めたのは、映画『寝ても覚めても』、『リバーズ・エッジ』(ともに2018)などで助監督を務めた是安祐だ。

デリバリーヘルス店「フルーツ宅配便」に、ブルーベリー(中村ゆり)が入店した。昼は配送会社、夜はデリヘルで働くシングルマザーのブルーベリーには、覚せい剤で逮捕された過去があった。
娘と母との暮らしを守るために過去を断ち切ろうと頑張っていたブルーベリー。しかし、客の松島(平原テツ)が覚せい剤を勧めてくる。一度は断ったが、配送業でトラブルを起こしてしまった日、ブルーベリーはついに覚せい剤を頼ってしまった。
シャブ山シャブ子と正反対、ブルーベリーの覚せい剤依存描写
8話の原作は、コミックス3巻に収録の「FRUIT.20 ブルーベリー」だ。原作でも、ブルーベリーは客の松島の勧めで覚せい剤を使ってしまう。クスリの影響でご飯があまり喉を通らないブルーベリーはガリガリに痩せ、他の客から「写真と全然違う」とクレームがつく。大量に汗をかく姿を見て、家族は再犯を察する。
ドラマでのブルーベリーは、再犯したことが周りに知れる描写があまりない。ミスジ(松尾スズキ)に少し押されて倒れる力のなさや注射痕くらい。咲田(濱田岳)も疲れているだけかと思っていたようだった。ミスジの洞察力、情報収集力がすごすぎる。
2018年、ドラマ『相棒17』(テレビ朝日系)4話に「シャブ山シャブ子です。17歳です」と自己紹介する女(江藤あや)が登場し、インターネットで話題となった。シャブ山シャブ子の描写、演出は悪い意味でデフォルメされすぎた薬物依存患者像だとして、識者が意見・異議を唱えていた。
シャブ山シャブ子とは反対に、ブルーベリーはパッと見で薬物依存に陥っている人だとはわからない。咲田も「もう心配ないと思います」と言うほど、普通に働けていた。しかし、配送の仕事でトラブルを起こし、200万円を支払わなければならなくなった。混乱したブルーベリーは、松島を頼って覚せい剤を使用する。
余白の少ないストーリーは「覚せい剤使用」への厳しさか

フィクションだけどノンフィクションのようにも見え……、という揺らぎがドラマ『フルーツ宅配便』の魅力のひとつ。それを、8話ではフィクションのほうに振ってきたように感じられた。
「フルーツ宅配便」は女の子たちにとって優良店という前提だったはずだ。しかし今回、咲田はブルーベリーがNGを出した客に、再度ついてもらえないかと連絡をする。しかも、一度客のほうに断りを入れているにも関わらずだ。
客も馬鹿じゃない。出勤しているのに断られれば、「NG出されたかも」と察する人だっている。気分を害したり恨んだりしているかもしれない客のもとに、女の子をひとりで送り込むのはありえない危険行為だ。なぜ咲田は「フルーツ宅配便」の前提に反することを……。
また、家族についてやけに熱く語り、ブルーベリーに「今度こそ、命かけてやめてこい!」とまで迫るミスジ。良い母親になれると励まし「今度こそ、きちんと辞めて帰ってきてください」と、きっぱりと言う咲田。
たとえば5話では、店を通さず客と会う違反行為をしたスダチ(内田慈)が登場した。彼女に対してミスジは、ソープで働くように促す。どうしようもない現実に対して、みなまで言わないコミュニケーションが採用される。それが効果的な余白となって、リアルと虚構の揺らぎを生んでいた。
ブルーベリーの覚せい剤使用をとがめる理由について、原作でミスジはこう話す。
《クスリってのは ほっとくと他の子にも伝染する。
(鈴木良雄『フルーツ宅配便』3巻(小学館・ビッグコミックス)p.47)
ドラマでは、家族のために、という理由に変わっていた。この流れが、自分を捨てた母親の借金2,000万円返済のために風俗で働くえみ(仲里依紗)のストーリーに響いていく。
警察に自首をしにいくブルーベリーを追って飛び出してきた娘。その子にしがみついて泣くブルーベリーの母親。お話としてしっかりとまとまっていて、いつもの余白があまりなかった8話。覚せい剤というモチーフへの、制作側の厳しい態度によるものか。あるいは、波乱が続きそうな残り3話へ向けてのブーストか。
再び沖田修一が監督を務める第9話は、今夜0時12分から放送予定。訳アリ風俗嬢・カボス役で、松本若菜が登場する。
(むらたえりか)
▼配信サイト
・Amazonプライムビデオ(テレビ東京オンデマンド)
・ひかりTV(テレビ東京オンデマンド)
ドラマ24『フルーツ宅配便』(テレビ東京)
毎週金曜 深夜0時12分から放送
出演 濱田岳、仲里依紗、前野朋哉、徳永えり、山下リオ、北原里英、原扶貴子、荒川良々松尾スズキ、ほか
原作 鈴木良雄『フルーツ宅配便』(小学館・ビッグコミックス)
脚本 根本ノンジ
監督 白石和彌、沖田修一、是安祐
楽曲制作 高田漣
主題歌 EGO-WRAPPIN’「裸足の果実」(NOFRAMES / TOY’S FACTORY)
エンディングテーマ 超特急「ソレイユ」(SDR)
チーフプロデューサー 浅野太(テレビ東京)
プロデューサー 濱谷晃一(テレビ東京)、木下真梨子(テレビ東京)、赤城聡(フラミンゴ)、押田興将(オフィス・シロウズ)
制作 テレビ東京 オフィス・シロウズ
製作著作 「フルーツ宅配便」製作委員会