3月7日に『ハケン占い師アタル』(テレビ朝日系)の第8話が放送された。

今回のテーマは、カナリヤだ。
母のキズナ(若村麻由美)は派遣社員として働くアタル(杉咲花)を家に連れ戻そうとする。
「カナリヤは、歌を忘れたらカナリヤじゃないのよ」(キズナ)

「歌を忘れたカナリヤ」とは「占いをしないアタル」のことである。
杉咲花「ハケン占い師アタル」カナリヤを放す描写がテロップを入れてまで必要だった8話。今夜最終回
イラスト/Morimori no moRi

仕事の難しさにぶち当たったアタル


占いで自分たちを救ってくれたアタルを守ろうと、Dチームの仲間がキズナの前に立ちはだかった。

上野 俺は1人で仕事できる奴なんかいねえってめちゃめちゃ怒られたし!
田端 私も娘さんがいなかったら、この仕事を好きになってなかったと思います。
目黒 アタルちゃんのおかげで、ここで働き続ける自信が湧いたんです。
神田 アタルちゃんがいなかったら、今頃この会社にいなかったと思うし。
品川 仕事辞めたかったけど、今は働くことがすっごく楽しくて。

キズナ それはみんな、仕事じゃなくてアタルの占いのおかげでしょ?

その通りだ。
「世界一の占い師になれるのに、なぜ自分に与えられた才能を無駄にするの? あなたのすべきことは、世界中の人を救うことなの」(キズナ)
キズナが言うことも正論だ。占いで人を幸せにする力があるのなら、そちらを選んだほうが世のためかもしれない。事実、アタルのDチームでの貢献は占いによる部分が大きい。でも、アタルはもう占いはしたくないと言っている。

キズナを追い払うため、アタルは“自分にしかできない仕事をみつける”と宣言した。
Dチームは大手ゼネコンのイベントのコンペに参加することに。いつもは雑用作業だけのアタルも、今回は率先してアイデアを提案した。
しかし、空回りする。アタルの案は使えないものばかりだし、代案もないのに他の社員のアイデアにダメを出したり、突拍子なくダジャレを言ったり、いちいちKYなのだ。しまいには、アタルの噂を聞きつけた他部署の社員が「占ってほしい」とDチームに殺到する始末(恐らくキズナの仕業)。

「私……、やっぱり母の言う通りにするしかないのかなぁって」(キズナ)
占い以外に自分のできることはないと、アタルは落ち込んだ。


悩めるアタルはかつてのDチームそのもの


品川 簡単に辞めるんですか? 前の俺みたいに。
神田 働いてたらミスするの当たり前じゃん。私もそうだったし。
目黒 余計なこと言うのも、当たり前だよ。俺みたいに。
田端 あなたの問題は、私たちに心を開いてないことじゃないの? 前の私みたいに。
大崎 今までの私みたいに1人で悩んでないで、辛いときは「助けてほしい」って頼まなきゃ。


今回悩むアタルの姿は、初回〜7話までのDチームの姿だ。1話完結で1人ずつ変化の様子を丁寧に描いてきたこのドラマ。前回までが、そのまま壮大な伏線になっている。

「しょうがねえなあ。俺たちが占ってやるかあ、アタルのこと」(上野)
腕を組み、高飛車な態度になるDチームの面々。まるでアタルのように振る舞って、アタルのことを占った。


アタル あっ……えっと……。じゃあ……皆さんはこの会社で私に何ができると思いますか?
大崎 アタルちゃん。仕事をする上で、自分にしかできないことって、結局は見つけるものじゃなくて自分で作るものなんじゃないかな。毎日働き続けて、時間をかけてコツコツと作り上げていくしかないのよ、きっと。

何のことはない。これまでアタルがみんなに言ってきたようなことが、今回のアタルへの答えだった。
「占い師は自分のことを占えない」とはよく言うが、本当である。

Dチームに占われたアタルは、キズナに本心をぶつけた。
「この会社で自分には一体何ができるのか、自分にしかできないことはないのか、もがいてもがいて探したいの」
しかし、キズナにはアタルの訴えは届かなかった。今度はアタルがキズナを占うことにした。

いざキズナを見ると、この母親は歪んだヤバい本音を抱えていることが判明する。
「あなたは私の言うとおりにしてればいいのよ。一生、私のそばにいて占いしてればいいの! 私以上にあなたのことを理解し、愛してる人間なんかこの世にいないんだから」
毒親の典型みたいなことを言うキズナ。占いに集中させるため、アタルは高校にも行かせてもらえなかった。6話で大崎結(板谷由夏)に「小さいとき、何になりたかった?」と聞かれ、「普通の人です」と答えていたのはこういう意味だったのか……。

窓からカナリヤを放した描写について


コンペに向けてアタルが出した案が称賛される様子を見て、キズナは遂にアタルを解放した。
「じゃあ、もう自由になりなさい、アタル。言っとくけど……自由って結構つらいわよ」(キズナ)

アタルが出した企画案はコンペを勝ち取った。久しぶりに目覚めのいい朝、アタルは飼っていたカナリヤを部屋の窓から放した。自由にしてあげたのだ。キズナから「自由はつらい」と言われたはずなのに……。
アタルは自由を楽観視し過ぎている。窓から放たれたカナリヤがそれを暗喩している。現実問題、飼っているカナリヤを放したら「自由」より不幸な結末(死など)が待っていることのほうが多い。

「飼育しているカナリヤを屋外に放すことは法律に抵触する可能性があります」とテロップを入れてまで描写したかったこの場面。かごの外では生きられないカナリヤで、自由のつらさにぶち当たるアタルの未来を表現しようとしたのではないか? 偽物の占い師のはずなのに、キズナからの言葉がとても恐ろしい予言に思えてくる。


居酒屋でアタルとDチームのみんなが喜びを分かち合う幸せな光景。普通なら、ここが最終回でいいはずだ。でも、ドラマはその後も描く。突如、アタルは社内で倒れてしまった。キズナから放たれた途端、アタルに異変が起きた。

大団円として望ましいはずの流れをぶち壊し、このドラマは最終話に突入する。遊川和彦脚本だ。何事もなく終わらせない、不穏な一波乱は十分考えられる。
今夜放送の最終回を観るのが、少しだけ怖いのだが。
(寺西ジャジューカ)

木曜ドラマ『ハケン占い師アタル』
脚本:遊川和彦
主題歌:JUJU「ミライ」(Sony Music Associated Records)
音楽:平井真美子
ゼネラルプロデューサー:黒田徹也(テレビ朝日)
プロデューサー:山田兼司(テレビ朝日)、山川秀樹(テレビ朝日)、太田雅晴(5年D組)、田上リサ(5年D組)
演出:遊川和彦、日暮謙(5年D組)、伊藤彰記(5年D組)
制作協力:5年D組
制作著作:テレビ朝日
※各話、放送後にビデオパスにて配信中