3月8日(金)深夜放送のドラマ24『フルーツ宅配便』(テレビ東京)。第9話の監督は、4〜6話の監督も務めた沖田修一だ。
マサカネ(荒川良々)は、デリバリーヘルス店「フルーツ宅配便」のドライバースタッフ。好きな女性のタイプについて聞いてもおにぎりの話が返ってくるほど、恋愛に疎い。しかし、あるときデリヘル嬢・カボス(松本若菜)を家に送り届けてから、熱が上がりいつにも増してぼんやりするようになった。

カボスは送迎のお礼にと、マサカネにおにぎりを握ってきた。大きく一口かじると、中には茶色い豚の角煮がのぞく。
マサカネ「豚の角煮だあ……」
カボス「嫌いだった?」
マサカネ「一番好きっす!」
カボスは、借金取りから逃げていると言っていた。本当は、複数人の男性に結婚詐欺をしてお金をだまし取り、逃げ回る暮らしをしている。一万円札の束を輪ゴムで止めてズボンのポケットに突っ込む、マサカネのお金への執着心のなさ。カボスは、お金に人生を支配されている自分とは正反対のマサカネに惹かれていた。
カメラで演者の表情を追わないシーンが印象的な回だった。
マサカネが待つデートの待ち合わせ場所に、画面右の遠くのほうからカボスが現れる。
ふたりは、画面の左上に小さく座っておにぎりを食べる。
結婚詐欺の被害者から逃げて、マサカネとカボスは車で浜辺に来た。
カボスを待たせている車に向かって、おにぎりを買ってきたマサカネが画面の左下から走ってくる。
デートの待ち合わせや、おにぎりを分け合う場面、急いでおにぎりを持って戻る場面。遠かったり背中を向けていたりして、ふたりの表情はあまり見えない(テレビに近づいて見ようと思えば見られるが)。待ったり待たれたり、途中で一緒におにぎりを食べたりして、ふたりは接点を持っただけ。ただ交差していく。
カボス「いつかまた、会えるかな」
マサカネ「はい。俺、ずっと、フルーツ宅配便にいるんで」
カボス「わかった、じゃあね」
マサカネ「はい。さよなら、カボスさん」
カボスは、家もフルーツ宅配便も、マサカネも捨ててどこかへ逃げることを決めた。夜が来てあたりは暗くなり、フロントガラスから差す駅の光がカボスとマサカネの顔を照らす。
カボス「私みたいな悪い人間になっちゃだめだよ」
ミスジ「カボス、もう一ヶ月か。どうだ評判」
咲田「いやあ、結構良いですよ。指名も増えてきましたし」
ミスジ「だろう。ああいう幸薄そうな顔は、男受け良いからな」
第7話で登場したサクランボ(筧美和子)は、市議会議員から100万円をだまし取ったがそこまで罪悪感を覚えていなさそうだった。あとになってその議員に会ってしまっても、「あ、やべっ」という感じの顔をしただけ。
カボスは、自分が悪いことをしていると自覚していた。求愛してくる既婚者のあしらいも淡々としていて、現実が見えている。彼女の薄幸顔は、人への諦めが顔に出ていたからだったのかもしれない。
カボス「マサカネくん、私みたいな悪い人間になっちゃだめだよ」
マサカネ「カボスさん、悪い人じゃないでしょ」
カボス「私、悪い人だよ」
マサカネ「でも、豚の角煮のおにぎりくれたし。良い人っすよ」
カボス「もっと早く、マサカネくんと出会えてたらいがったなあ……」(語尾にかけて秋田弁っぽくなる)
台詞には彼らの人柄や抱える問題がにじみ、カメラワークや登場人物の視線で人と人の人生が交差する様子を描き出す。
今夜放送の第10話では、咲田(濱田岳)の同級生でデリヘル嬢のえみ(仲里依紗)が追い詰められていく。ゲスト俳優は、スナックのママ兼デリヘル嬢というパワフルな女・グァバ役の松岡依都美だ。
(むらたえりか)

▼配信サイト
・Amazonプライムビデオ(テレビ東京オンデマンド)
・ひかりTV(テレビ東京オンデマンド)
ドラマ24『フルーツ宅配便』(テレビ東京)
毎週金曜 深夜0時12分から放送
出演 濱田岳、仲里依紗、前野朋哉、徳永えり、山下リオ、北原里英、原扶貴子、荒川良々松尾スズキ、ほか
原作 鈴木良雄『フルーツ宅配便』(小学館・ビッグコミックス)
脚本 根本ノンジ
監督 白石和彌、沖田修一、是安祐
楽曲制作 高田漣
主題歌 EGO-WRAPPIN’「裸足の果実」(NOFRAMES / TOY’S FACTORY)
エンディングテーマ 超特急「ソレイユ」(SDR)
チーフプロデューサー 浅野太(テレビ東京)
プロデューサー 濱谷晃一(テレビ東京)、木下真梨子(テレビ東京)、赤城聡(フラミンゴ)、押田興将(オフィス・シロウズ)
制作 テレビ東京 オフィス・シロウズ
製作著作 「フルーツ宅配便」製作委員会