
和魂洋才の変形ロボットシリーズ、トランスフォーマー
トランスフォーマーといえば、ご存知世界で最も有名な変形ロボット玩具シリーズである。このシリーズの元をたどれば、日本の玩具メーカーであるタカラが「ダイアクロン」として発売していた車からロボットに変形するオモチャをアメリカでも販売(販売自体はタカラUSAから)。これが好評だったことから、アメリカの玩具メーカーであるハズブロとマーベルコミックが新たに設定を練り直し、さらに「ミクロマン・ミクロチェンジシリーズ」など他のシリーズのオモチャも加えて、1984年に開始されたのが『トランスフォーマー』シリーズである。
『トランスフォーマー』のテレビアニメ版は1984年10月からアメリカにて放送開始。1985年には全米の玩具売上1位を記録し、さらにこの年には日本国内への導入も決定。アニメの吹き替え版も7月から放送開始されることに。以降途中で断続的に休止しつつもアニメ・玩具のシリーズ展開は続き、現在でもハズブロとタカラトミーからはオモチャが発売され続けている。35年もずっと売られているわけで、単一のロボット玩具シリーズとしては相当息の長いコンテンツと言える。
で、2007年にはマイケル・ベイ監督による実写映画シリーズが開始。「車や飛行機がいきなりロボットになる」という、アニメだから表現できた内容をどうやって実写にするの……?とファンから不安がられたものの、蓋を開けてみれば「人間の目で追いきれないくらい車の部品をバラバラにして一気に動かす」という力技で変形プロセスを乗り切った。さらに人間でやったら一発でR指定になるであろう超ロボット生命体同士の残虐ファイト、能天気すぎるギャグ、毎回爆発しまくる車や市街地、ボンクラ少年の夢が詰まったストーリー、一度見たら疲労困憊する上映時間、「トランスフォーマーだから」という言い訳でやっと飲み込める雑なディテールと、まさに過剰そのもの、唯一無二のシリーズとなった。
ただ、なんだかんだでベイはこの実写シリーズを5本も撮った。5本である。
冒頭10分から過剰サービスの連打に泣け!
『バンブルビー』の冒頭は、トランスフォーマーたちが激しい戦いを繰り広げるセイバートロン星から始まる。オートボットとディセプティコンというふたつの勢力に別れて大戦争を繰り広げていた彼らだったが、劣勢となったオートボットは宇宙の各地へと脱出。B-127と呼ばれていた若いオートボットの兵士は地球へと送り込まれる。
当時地球は1987年。B-127は北米大陸の米軍演習場に墜落し、現地のアメリカ兵とトラブルになる。ジープに変形して逃げようとしたB-127だが、さらにそこにディセプティコンの兵士ブリッツウィングが襲来。激戦の末にブリッツウィングを倒したB-127だったが、自らも重症を負い発声装置と記憶装置を破損。命からがらボロボロの黄色いフォルクスワーゲン・ビートルへと変形し、眠りにつく。
サンフランシスコ郊外に住む少女チャーリーは鬱屈していた。父親を亡くし、母親が連れてきた再婚相手とは折り合いが悪い。遊園地でアメリカンドッグを売るバイトも楽しくない。どこか遠くへ行ける車がほしいのに、手元にあるのは原付だけ……。そんな彼女は、18歳の誕生日に行きつけのガレージで黄色いビートルを見つける。
どうしても車がほしいチャーリーはビートルを修理し、意気揚々と自宅のガレージに乗って帰る。しかしその夜、ビートルは突如変形! 巨大な黄色いロボットになってしまう。驚いたチャーリーだったが、怯えるロボットをなだめるうちにいつしか距離を縮め、「バンブルビー(マルハナバチ)」と名前をつける。しかしその頃、逃げたオートボットを狩り出すため、ディセプティコンの兵士たちも地球へと迫りつつあった。
舞台はオモチャの方のトランスフォーマーが、まさに絶頂期を迎えていた1987年。ということで、とにかくオールドファン向けのくすぐりが随所にちりばめられまくっている。冒頭がセイバートロン星での戦闘で始まるところで、すでにアニメ版第一話を思い出して号泣である。
その後も過剰サービスの連べ打ちだ。バンブルビーはバンブルビー史上最もあざとくかわいい。往年のヒットナンバーが流れまくり、そしてその中にはスタン・ブッシュの『The Touch』も紛れ込んでいる(1986年の『トランスフォーマー ザ・ムービー』で使われた曲なので、時系列的には間違っていない)。主人公チャーリーのディテールもとにかく最高。部屋にジョイ・ディヴィジョンのレコードが飾ってあって、変な制服着て遊園地でバイトしてて、機械に強くて、モーターヘッドのTシャツ着てる女子のことが嫌いなわけないじゃないですか! もうオタク完全降伏、ものすごく福利厚生がちゃんとしてる映画である。
とりわけグッとくるのが、バンブルビーを追跡する米軍の将校ジャック・バーンズを演じたジョン・シナだ。この人はWWEのプロレスラーなので、すごくガタイがいい。そして頬骨から顎にかけてのラインが、完全に「少し昔のアメリカのマッチョなヒーロー」のそれである。アクションフィギュアっぽい骨格の人なのだ。そのおかげで劇中では完全に「80〜90年代初頭くらいのB級アクションスター」そのまんまの存在感を放射していた。
「なぜ車がほしいのか」に見る、ベイ版との差
残虐ファイトと爆発に次ぐ爆発と愛すべきガサツさに彩られたベイ版トランスフォーマーと比べると、エモーショナルな方向にステータスを振った『バンブルビー』。両者で大きく異なるのが「若者が車をほしいと思う動機」である。思えば『トランスフォーマー』第1作でも、主人公サムがバンブルビーと出会うところからストーリーが大きく動き出した。実写映画版トランスフォーマーは、若者が自分の車を手に入れるところからスタートする物語なのである。
しかし、初代『トランスフォーマー』と『バンブルビー』で大きな違いとなっているのが、サムは単にモテたくて車を欲しがっていたのに対し、チャーリーは日常への鬱屈が根底にある点だ。言っちゃ悪いが、サムは基本的にバカである。バカがバカなりに色々頑張る過程をしっかり見せてくれるのが『トランスフォーマー』のいい所のひとつだが、そのせいで全編通して「カッコいい車とヒップな彼女を手に入れたい!! 車が変形したらさらに嬉しい!!」という欲望に忠実な物語になっていた。
チャーリーはとにかく「ここではないどこか」へ行きたいと思っている少女である。そんな彼女が、ビートルに変形する臆病なロボットと出会い、つかの間自分が求めていた自由に触れる……。まさか『トランスフォーマー』と名のついている映画で、こんなに美しくて繊細な物語が見られるとは思っていなかった。
さらにキュートな異星人とのファーストコンタクトを描いた映画ということでいえば、『E.T.』と同じ80年代以来のアメリカ製娯楽映画最良の部分に通じる要素もある。というか、『バンブルビー』の製作はスピルバーグなので、もちろん多分に意識はしているだろう。それでいてちゃんとロボット同士のどつき合いも見せてくれる。さらに言うと「一応この後のベイ版トランスフォーマーにも繋がってまっせ」という目配せもある。隙がなさすぎる。
トランスフォーマーなんだし、そうは言っても多少はガバガバでしょ……と油断して見に言ったら、直球のいいボールを食らって顔面が陥没、オイオイと泣くことしかできなくなった感じである。もちろんバンブルビーはかわいい(あざといですけど!)のでそれ目当てで見に行っても満腹。スレたトランスフォーマーのオタクが見に行っても「ほーん……やるじゃん……」となるだろうし、おっさんおばさんは80年代の青春模様にグッとくるであろう。全方位に武器を搭載した『バンブルビー』、げに恐ろしき映画である。
(しげる)
【作品データ】
「バンブルビー」公式サイト
監督 トラヴィス・ナイト
出演 ヘイリー・スタインフェルド ジョン・シナ ジョージ・レンデボーグJr. ジェイソン・ドラッカー パメラ・アドロン ほか
3月22日より全国ロードショー
STORY
1987年、孤独な少女チャーリーはひょんなことからジャンクヤードで休眠していたロボット生命体と出会う。