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(→前回までの「オジスタグラム」)
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吾輩は糞である 貯金はまだない。
僕は大人なのにお金があるとすぐ使ってしまう。
財布の中身が常に全財産だ。
少しお金がある時にこのお金は絶対使うまいといつも思うのだが、明日の自分がすぐ使うのだ。
そんなある日、僕は昔実家で飼っていた犬を思い出す。夢が有ると書いて「むう」。
まだ借金がない頃の僕がつけた名前だ。
むうはお気に入りのおもちゃを見つけると、誰にも盗られないように庭に穴を掘って隠す癖があった。
そして、次の日にはその存在を忘れて退屈そうに犬小屋で寝てるのだ。かわいい奴だった。
これだ!
僕は家中にお金を隠す事にした。
未来の自分を騙す為に。むうのお陰だ。
エアコンの上、履かなくなったスニーカーの中敷きの下、絶対開けない引き出しの中……。
しかし、今日も僕は数日前の僕の努力を嘲笑い、絶対開けない引き出しを開けて、パチンコ屋に向かうのだった。
「あんたぁ~!やめてぇ!そのお金だけは~!」
糞みたいな一人暮らしである。
三拍子揃ったおじさん
さて、本日のオジスタグラムは、まさかずさん。
記念すべきオジスタグラム初の4文字の名前のおじさんだ。
パチンコ屋へ向かう道中、昼間から植え込みにちょこんと腰掛け、500mlの第三のビールをクラフトビールのように飲んでらっしゃるまさかずさんに出会う。
正直パチンコに行く気満々だったので悩んだが、
「昼間から」「第三のビール」「500ml」。
この三拍子揃ったおじさんを逃すほど、僕は不真面目ではない。
スズメバチがいる木にはカブトムシがいるのと同じように、500mlの第三のビールがある所には羽のないおじさんが生息してるのだ。
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いい歳したおじさん二人が街で出会って、そこに酒が入ってれば、まわりくどい駆け引きなんていらない。
鳥貴族に直行するだけだ。
「かぁー!うまい!」
「最高ですね!」
「やっぱりこの分厚いジョッキがいいよな?洒落た店のビールは乾杯で割れそうで恐いんだよ。」
「わかります!すげー、わかります!」
「あの高いグラス?薄けりゃいいみたいなよ……」
鳥貴族名物「金麦の大」で乾杯する。
我々には特技がある。
第三のビールをボジョレー・ヌーボー解禁のテンションで飲む事が出来るのだ。
「いやー、でも最近の第三のビールうまいよなぁ!出た頃は飲めたもんじゃなかったけどよぉ。」
「ですよね!僕もう生との区別わからないですもん。」
「わしもだよ!ガハハハ!喉ごしがあれば何でもいいからな!わしらは勝ち組だな!ガハハハ!」
「ケケケケ!そうですよね!なんなら喉ごしあればどぶの水でもいいですもんね!ケケケケ!」
どぶの水の共感こそ得られなかったが、本当に三拍子揃ったまさかずさんは魅力的だった。
まさかずさんとの時間はずっと楽しく刺激的だったが、この先一生忘れないであろう瞬間がやってくる。
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歯がないんじゃない
まさかずさんは、歯が少ない一族のおじさんだ。歯が少ないおじさんにも種類があって、ひとくくりにするのは失礼極まりない。
ほとんど歯がないおじさんもいるし、基本あるけど6本くらい抜けてるクロスワード型のおじさんもいる。
ネコ科の中でのトラやライオンみたいなものである。
一本生えれば、その横は無くて、また一本生えてる。横から見るとレゴブロックみたいな歯、レゴ歯のおじさんだ。
僕がレゴ歯を無意識に見てしまっていたのだろう。まさかずさんが歯を見せてふざけてくる。
「いいだろ?夏は涼しそうで?えー!?ガハハ」
「ケケケケケケケ!確かに!ケケケケ!」
「軽量化だよ!軽量化!ガハハハ!」
「いや、ミニ四駆じゃないんですから!ケケケ!」
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ミニ四駆のつっこみは全くハマらなかったが、そんな事はどうでもいい。
次の瞬間、僕は衝撃をうける。
「これはよ、あれだぞ。わしは、歯がないんじゃないぞ。あえて入れてないんだからな。」
これ以上の衝撃を僕は今後味わうだろうか。
なんと歯が少ないおじさんに意思があったのだ。
歯がないんじゃない。歯がいらなかったんだ。
今まで覚えた~ぜ~んぶ~デタラメだったら面白い~
頭の中ではブルーハーツが流れ、膝から崩れ落ちそうになった。
灰皿メーカーの発想
僕は今まで、歯少目は長年の消耗により、ただただ必然的に歯がなくなり、面倒臭さと金銭の問題で歯を入れてないだけとゆう結論を疑った事もなかった。
これは歴史的な発見である。
「な、なんでですか!?」
「ほら、見てろよ。」
まさかずさんは煙草を一本取り出して、レゴ歯の凹の方に嵌めて、手を離す。
「こうゆう事だ」
「落ちる心配もないし、吸ったまま喋ったりも出来る。凄いだろ!でも煙草の値段もよ……」
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灰皿メーカーの発想だ。まさかずさんは喋り続けたが僕は何も覚えていない。
やはりおじさんは凄すぎる。一つの目的の為になんの躊躇いもなく何かを犠牲に出来るのだ。
まだまだ完璧なおじさんになる道は遠い。
店を出る時に、忘れ物がないかチェックすると、まさかずさんのライターが机の上にある。
持って行こうとして、僕は手を止めた。
忘れたんじゃない。いらないんだ。
少しだけおじさんに近づけた気がする夜だった。
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(イラストと文/岡野陽一 タイトルデザイン/まつもとりえこ)