佐々木倫子原作、石原さとみ主演の火曜ドラマ「Heaven? ~ご苦楽レストラン~」。墓地にあるフレンチレストラン「ロワン ディシー」(この世の果て)を経営する変人オーナーとおかしな店員たちが織りなすレストランコメディーだ。


ちなみに原作の主人公は、福士蒼汰演じる伊賀観である。常識人の彼が周囲の変人たちに振り回され、ためいきをつき、あきらめる。佐々木倫子の名作「動物のお医者さん」におけるハムテルとまったく同じ役回りだと考えていい。

先週放送された3話は、そんな伊賀くんが中心のお話だった。視聴率は8.7%。まだまだ踏ん張っている(「ルパンの娘」より上だった。意外)。
諦観「Heaven? 」生首演出を数えてみた。毒親・財前直見VS石原さとみに学ぶ先延ばし術
イラスト/まつもとりえこ

びしょ濡れオーナー・石原さとみ


今日も「ロワン ディシー」はトラブルの連続だ。予約の電話を受けたコミドランの川合太一(志尊淳)が致命的なミスを犯す。同じ時間帯に「山田さん3名」から3組も予約を受けてしまったのだ。本当に「山田さん3名」が3組来るのか、それとも同じグループの人が予約の確認の電話をしただけなのか。相手に確認すればいいことなのだが、川合は相手の電話番号を聞いていなかった……。

ちなみに原作でもまったく同じエピソードがあるが、川合くんは一応相手に電話番号を聞こうと試みている。
相手に「どうしてそんなことを言わなきゃならん!」とキレられて呆然としているうちに、次々と予約の電話がかかってきてすべて電話番号を聞きそびれてしまったのだ。可哀想なのだが、無能であることには変わりない。

さらに大雨が降ってきて、天井からは雨漏りが。川合くんが無邪気に突いたら天井が破れて、水がジャバー! びしょ濡れオーナー・黒須仮名子(石原さとみ)が無言で恨みがましい目をするのが面白かった。

トラブルは続く。今度は客の傘を取り違えてしまった。しかも、その傘は関夫妻(越村友一、鳥居みゆき)の亡き息子の形見の傘。原因は傘立ての前で転んでしまった仮名子である。客に確認しようにも、よりによって「山田さん3名」の電話番号がわからない……。

結局、山田さん(六平直政)が傘を自分で返しにきて一件落着。山田さんは高名な映画監督だった。謎のオーナー・仮名子の正体が次回で明らかになりそうだが……。
あの予告を見れば、原作未読でもわかる人はわかると思う。

そっくりな勝代と仮名子


3話はコメディーの定番でもある「母もの」だった。上京した主人公の母親が騒動を巻き起こしたり、あるいは上京した母親に嘘をつくために主人公たちがドタバタを引き起こしたりする展開は、昭和の頃から幾度となく繰り返されてきた。

故郷の長崎から上京してきた伊賀くんの母親、伊賀勝代(財前直見)の上京の目的は、伊賀くんを連れ戻すこと(あとは観光)。連れ帰る理由は「不便だから」。なんでもやってくれる息子がそばにいる便利な生活が忘れられないというのだ。はっきり言って毒親そのものだが、コメディーということで大目に見てもらいたい。また、勝気で圧が強く、とにかく自分勝手で気ままに伊賀くんを振り回す勝代は、何から何まで仮名子そっくりだった。

バチバチとやり合う仮名子と勝代だが、事態を収拾したのは存在感を消すのが上手い勝代の夫・伊賀静(鶴見辰吾)だった。たしかに気配はあったのに、それまで顔を出していなかった静がいきなり現れたのがおかしかった。ここはちゃんと笑えた。

静の得意技は「先延ばし」だった。おいしい料理とお酒でその場を盛り上げ、にこやかに話をそらす。
なんという人間力。

「話を先延ばしにする。それが母をかわす唯一の方法。そしてそれは、父にしかできない」

そういえば、「僕らは奇跡でできている」の主人公・高橋一生も「先延ばし」が得意だった。なんでもかんでも早く決める必要はない。我々も先延ばし術を生活にどんどん取り入れていきたい(主に締切など)。

さらに全開の「生首演出」


3話はストーリーと関係ない小ネタも多かった。小ネタが多いのは木村ひさし演出の大きな特徴である。
勝代が横浜観光をしているとき、伊賀くんが「たそがれ」と書かれた紙袋を提げているのは、五木ひろしのヒット曲「よこはま・たそがれ」と引っ掛けたもの。仮名子が「じっちゃんの名にかけて!」と言うのは、もちろん「金田一少年の事件簿」が元ネタ。演出の木村ひさしは同ドラマの演出も務めていた。川合くんが「キター!」と何度も叫ぶのは、福士蒼汰の主演作「仮面ライダーフォーゼ」の決めゼリフが元ネタ。
勝代が「お水の花道」というフレーズに反応するのは、財前直見主演の同タイトルのドラマが元ネタである。

小ネタと言うほどでもないが、仮名子が「私はこの人たちの連れです」と言うと、勝代が「あんたたち付き合ってるの?」と反応するのは、「連れ」が九州では「恋人」という意味だから。このシーンは予告でも使われていたが、本当に何でもないシーンだった。

そして今週も「生首演出」は全開で、2分過ぎ、13分過ぎ、21分過ぎ、23分過ぎ、25分過ぎ、30分過ぎ、31分過ぎ、36分過ぎと2話よりもコンスタントに繰り出されていた。もはや視聴者のほうが「諦観」状態である。たぶん、このまま最後まで行くのだろう。

本日放送の4話は「けもなれ」のパワハラ上司、山内圭哉が登場。ガッキーを追い詰めた山内が、石原さとみとどう対決するのか? 今夜10時から。
(大山くまお)

「Heaven? ~ご苦楽レストラン~」
出演:石原さとみ、福士蒼汰、志尊淳、勝村政信、段田安則、岸部一徳、舘ひろし
原作:佐々木倫子 『Heaven?』(ビッグスピリッツコミックス刊)
脚本: 吉田恵里香
音楽:井筒昭雄
主題歌:あいみょん 「真夏の夜の匂いがする」
演出:木村ひさし、松木彩、村尾嘉昭
プロデュース:瀬戸口克陽
製作著作:TBS
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