サウナ好きによるサウナ好きのためのテレビ東京のドラマ25「サ道」。いつもは主演の原田泰造が心ゆくまでサウナを満喫する様をたっぷり描く、週末の癒やしドラマのはずなのに、なんだか「宮本から君へ」のような不穏なセリフだ。
これまででもっともドラマらしい回だった9回を振り返ってみたい。脚本の永井ふわふわは、「バナナマンのバナナムーンGOLD」「おぎやはぎのメガネびいき」(いずれもTBSラジオ)、「ゴッドタン」(テレビ東京)などを担当する放送作家。

タナカカツキ原作
入場料4500円のラグジュアリーなサウナ
なんだか様子がおかしい偶然さん(三宅弘城)にイケメン蒸し男(磯村勇斗)は戸惑うばかり。しかし、ナカタ(原田泰造)がやってくると、偶然はそそくさと席を立つ。その訳はというと……。
ナカタは大磯にある「THERMAL SPA S.WAVE」にやってきていた。大磯プリンスホテルが2017年にオープンした、海に面したおしゃれでラグジュアリーなサウナだ。何がラグジュアリーって、入場料4500円! でも、「サ道」を見ていると、それだけの価値はありそうな気がする。
眺めが良くて、おしゃれで、広々としていて、バーカウンターまであって、水着のカップルなんかもいる雰囲気に圧倒されつつあったナカタの前に、まさに偶然、偶然さんが現れる。しかし、いつも明るい偶然さんの歯切れが悪い。サラリーマンの偶然さんは、取引先の社長(山下真司)と一緒に「S.WAVE」に来ていたのだ。
ナカタはひとりで「S.WAVE」のサウナを楽しみ尽くす。フィンランドサウナは薄暗くて雰囲気が良く、エクスペリエンスシャワーはアロマの香りつき。
8話で取り上げられた「サウナラボ」と同じく、こうした新しいサウナカルチャーとでも言うべき施設が次々と出来ている。「サウナラボ」は実際に足を運んでみたが、本当におしゃれなスペースで仰天した。平日の昼間から女性たちがサウナを楽しめるなんて素敵なことだと思う。
サウナの中では誰もが平等
ナカタが新しいサウナ体験に喜ぶたびに、うらやましそうに見つめる偶然さん。まるでサックスを欲しがる黒人の子どもだ。
聞くところによると、社長がサウナ嫌いなので、偶然さんは目の前にサウナがあっても入ることができないらしい。顔で笑って、心で泣いて。「意気地のない社畜野郎」は堂々とサウナを楽しむこともできない悲しい生き物……(そのわりに普段は仕事をサボってサウナを楽しんでいるけど)。
「サラリーマンって、本当大変なんですね……」
ナカタもつい同情してしまうが、取引先の営業マンを連れ回し、昼間っからジャグジーに浸かって酒を飲みながら、「男のロマン」を連発する社長も曲者だ。
「俺は、サラリーマンなんだよ」とあくまで社長に忠誠を尽くそうとする偶然さんにエールを送るナカタ。しかし、容赦なくさらにサウナを楽しもうとする。2人の会話を聞くまいとインフィニティプールに水没する原田泰造のタイミングが絶妙。
絶景を楽しめるパノラミックサウナは温度低めだが、日本では珍しい男女混浴サウナ。先週登場していたミズキ(小宮有紗)の友人2人組(竹内渉、松田リマ)も水着姿でご満悦だ。こんな美人がいるなら……と不遜な思いを抱く輩もいそう。サーマルテラスで水着美女の後ろ姿を見ながら風に吹かれていると、「ととのったー!」。
水着美女と一緒に楽しめるサウナは新しい自由の象徴だ。一方、サウナに入ることも許してくれない不自由な日本のサラリーマン社会は、旧時代の遺物である。
ところ変わって、ホームサウナの「北欧」では、結局「S.WAVE」でまったくサウナに入れなかった偶然さんを、ナカタとイケメン蒸し男が慰める。今度の週末に3人で一緒に行こう、という提案に破顔する偶然さん。サウナが好きな人はみんな優しい。
「僕は、サウナが大好きだぁぁぁぁ」
肩を寄せ合う3人をじっと見つめる男。孤独な男、荒川良々はサウナで涙を流す。終盤にかけて、ドラマ度合いがグッと高まってきた。10話は今夜0時52分から。
(大山くまお)
ドラマ25「サ道」
原作:タナカカツキ「マンガ サ道~マンガで読むサウナ道~」
監督:長島翔
脚本:根本ノンジ、竹村武司、永井ふわふわ
音楽:とくさしけんご
出演:原田泰造、三宅弘城、磯村勇斗、荒井敦史、宅麻伸
主題歌:Cornelius「サウナ好きすぎ」
エンディングテーマ:Tempalay「そなちね」
プロデューサー:五箇公貴 ほか
制作:テレビ東京、イースト・エンタテインメント
※放送後にTVerで配信中