台風とやさしい日本語「米光一成の表現道場」

たいふう19ごう は おおきくて とても つよいです。


10月9日、NHKニュースが【がいこくじん の みなさんへ】というツイートをした。


“たいふう19ごう が 12にち〜13にち に にしにほん〜きたにほんの ちかくに きそうです。 たいふう19ごう は おおきくて とても つよいです。 き を つけて ください。”

このツイートに、「せめて英語で書けよ」「英語で発信したほうが理解できる外国人が多いだろ」といった反応がいくつもあった。*1

英語か日本語か


ついつい「どんなときでも英語がグローバルスタンダードだ」と思い込んでしまう。
でも、定住外国人が英語が得意とはかぎらない。

以下のようなデータがある。

『やさしい日本語』*2から、広島市で行われた調査の結果を引用する。

“母語以外でわかる言語を問う質問(複数回答可)に対して、調査対象者の70.8%が「日本語」と答えたのに対し、「英語」と答えた人は36.8%に留まっています。”

全国平均でも、日本語62.6%、英語44.0%。
英語よりも日本語をあげた人が多いのだ。

その国の言葉を学びたいという気持ち


また2015年、日本語学習者は世界に365万人以上。いまはもっと増えているだろう。
2017年のNHKの調査によると、日本語教育機関は747校。
この5年で1.5倍以上に急増している。*3

ぼくは、デジタルハリウッド大学で教えている。
外国出身者の学生がたくさんいる。
学生に英語で話そうとすると、「日本語にしてください」と言うのだ。
学生は、日本語を学びたいと思っている。だから、ぼくのへたな英語より、ゆっくり話す日本語のほうが何倍もうれしいらしい。


「やさしい日本語」というおもてなし


『<やさしい日本語>と多文化共生』*4に、ドイツからの留学生のエピソードが出てくる。
店員と日本語で話した後で、最後に「サンキュー」と言われることがしばしばあったそうだ。

“小さいことのようですが、社会の一員になりたいと思っている人にとって、外見のためにいつまでたってもガイジン(アメリカ人?)として扱われることは気持ちのよいことではないと言っていました”。

わざわざ英語で話すのは、おもてなしの気持ちからだ。
ぼくも、外国人に道を聞かれると、英語で返してしまう。
目の前にいる相手を見ずに、英語を使うことに必死になっていた。

だが、やさしい日本語で話すほうが、おもてなしの気持ちが伝わる場合がある。
ぼくは、いま、英語を学ぶ努力と同じぐらいに、「やさしい日本語」を学ぶべきなのではないかと考えている。
米光一成 タイトルデザイン/まつもとりえこ)

【*1】NHKは、NHK WORLD JAPANで英語を含む18種類の多言語で情報を発信している。またNEWS WEB EASYで、やさしい日本語で書いたニュースを出している。
【*2】庵功雄『やさしい日本語──多文化共生社会へ』(岩波新書)P31 国立国語研究所が行った調査を岩田一成が分析した報告による。
【*3】「急増する日本語学校 基準厳しく」(NHK解説委員室)より

【*4】『<やさしい日本語>と多文化共生』(ココ出版)P49