お札をはがす意外な人物
カランコロンと下駄の音を鳴らして新三郎(中村七之助)のもとへ幽霊のお露(上白石萌音)がやってくるが、入念に貼られたお札と、部屋にある金の如来像のせいで入れない。侍女であるお米の霊(戸田菜穂)が頼ったのが新三郎の世話をする伴蔵(段田安則)・お峰(犬山イヌコ)夫婦だ。如来像を取り除きお札をはがすよう頼むが、お峰は「もしお札をはがしたせいで新三郎が弱って死んでしまったら食い扶持がなくなる、百両もらわないと割に合わない」と一旦は断る。

監督: 山本薩夫
「怪談牡丹燈籠」映画版(1968年/DVD)
「幽霊と交渉する」というのがいかにも落語っぽい。結果、お米は百両を用意し、伴蔵はお札をはがす。このドラマでは、新三郎自身にもお札をはがさせた。お露は伴蔵がお札をはがしたところではなく、新三郎がはがし、少し開けた戸から入っていく。
落語では、ぎゅっと短く上演される際、新三郎が自ら札をはがすという展開もなくはない。けれど全編を映像化するというこの試みで、作り手は原作である速記本にはないこのくだりを入れた。さらに新三郎に「殺しておくれ」とまで言わせた。新三郎は思いを遂げ、望んで死んだのだ。
この回、お露がけっこう弾けている。家に入れないと知ったお露が目を光らせ家の周りを気を吐きながら巡ったり、ぴょーんと飛んだりする。
ようやく部屋に入れたお露はまず新三郎の首筋を噛むが、もちろんこれも原作にない。ゾンビっぽさ、だろうか。

お国vsお峰、悪女対決
一方、お国(尾野真千子)&源次郎(柄本佑)チームはといえば、着々と平左衛門(高嶋政宏)を殺す準備を進める。その企みに気づいた孝助(若葉竜也)は、ようやく不貞の現場を押さえて源次郎に切り掛かる、と思いきや、誤って師・平左衛門を刺してしまう。平左衛門はかつて孝助の父を斬ったのは自分であることを告白し、孝助に本物の遺言状を託す。手負いの平左衛門は源次郎を始末しようとするが、逆に殺されてしまう。
この回では、二人の男が死に、それぞれの男を殺した男女が逃げる。
終始源次郎を焚きつけ、少しでも高い地位やお金を望んでいたようにも見えたお国。けれど源次郎に「お前だけは裏切らない」「あんたが死ぬ時まで見限りはしない」と言い、平左衛門に切りつけられた源次郎とともに逃げるあたり、どうやら愛に生きているらしい。
そこへいくとお峰は、清々しいほどにがめつい。お金のために仕えていた主人を売ってしまい、幽霊とも交渉し、えらい和尚にも平気で嘘をつく。
歌舞伎ではお露新三郎もさることながら、お峰伴蔵夫婦も大きな役だ。七之助がお露になった2009年の歌舞伎「怪談牡丹灯籠」では、伴蔵を片岡仁左衛門が、お峰を坂東玉三郎が演じている。さらに2011年の明治座公演では、七之助がお峰とお露の二役を演じるという趣向もあった。

監督: 山本薩夫
大長編がテンポ良くまとめられてきたこのドラマ、あっという間に最終回。逃げた二組はいったいどうなるのだろう。
(釣木文恵)
令和元年版 怪談牡丹灯籠
出演:尾野真千子、柄本佑、若葉竜也、中村七之助、上白石萌音、高嶋政宏、戸田菜穂、谷原章介、ほか
脚本・演出:源孝志
プロデューサー:川崎直子、石崎宏哉
制作統括:千野博彦、伊藤純、八木康夫
語り部:神田松之丞
原作:三遊亭圓朝『怪談 牡丹灯籠』
音楽:阿部海太郎
制作:NHKエンタープライズ