「レイダース/失われたアーク」のリメイクに挑む映画オタクの友情!Netflix「レイダース!」に胸熱
どうもみなさまこんにちは。細々とライターなどやっております、しげるでございます。配信中毒17回。ここではネットフリックスやアマゾンプライムビデオなど、各種配信サービスにて見られるドキュメンタリーを中心に、ちょっと変わった見どころなんかを紹介できればと思っております。みなさま何卒よろしくどうぞ。

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今回紹介するのは、ネットフリックスにて配信中の『レイダース!』という一風変わったドキュメンタリーだ。というのもこの映画が題材にしているのは、1982年に子供たちが撮影を始めた『レイダース/失われたアーク』のリメイクなのである。


少年たちが『レイダース』をリメイク! 撮り漏らしたシーンを追加撮影せよ


『レイダース』は言わずと知れた、『インディー・ジョーンズ シリーズ』の第1作である。考古学者にしてトレジャーハンターのインディー・ジョーンズが、ナチスドイツと聖櫃(アーク)の争奪戦を繰り広げる、1980年代のアメリカを代表する名作だ。

1982年、当時11歳だったクリス・ストロンポロス少年はこの作品に取り憑かれた。両親の離婚もあり、鬱屈した思いを抱えていたクリスは、驚異と冒険に満ちた『レイダース』の世界に魅せられ、激しくのめり込んでいく。クリスは同じインディ・ジョーンズのコミックを読んでいた同級生のエリック・ザラに声をかけ、二人は自分たちで『レイダース』を完全再現、リメイクしたものを撮影しようと決断する。

かくして1982年から少年たちばかりの撮影が開始され、その後の7年間にわたって2人は制作を続ける。1989年には一応の完成をみたものの、しかし当時の2人にはどうしても撮影できなかったシーンがあった。それが、インディが全翼型の輸送機の近くで屈強なドイツ兵と格闘し、さらに給油車から漏れたガソリンが引火して輸送機が爆発。インディとマリオンは辛くも脱出する……という山場のシーンである。でかい飛行機も必要だし、大爆発なんか専門家抜きで用意するのは難しいだろうし、撮影できなかったのも道理である。

『レイダース!』は、このクリスとエリックの二人が、なんとかして撮影できなかったシーンを形にしようと悪戦苦闘する様子を納めたドキュメンタリーだ。あの手この手で必死で資金をかき集め、巨大な実物大の飛行機を作ることができる人間を探し、かつて自分たちの『レイダース』に出てくれたり協力してくれた友人たちに連絡をつける。1989年にやり残したことにケリをつけるため、完全に中年になった2人が奔走する。


とはいえ、もう2人とも大人である。特にエリックの方はゲーム会社でそれなりの要職についており、スケジュール通りに撮影を終えてオフィスに戻らないと仕事をクビになってしまう。子供だっているし、資金にも限りがある。にも関わらず撮影中に雨が降りまくり、撮れないシーンが毎日溜まっていく。撮影がストップするたびに金が飛んでいき、勤め先からは「お前、いいかげんにしろよ」と怒りの電話がかかってくる。

撮影しなければならないのは124ショット。撮影期間は9日間。後ろの方を歩いているラクダを再現するために本物のラクダまで借りてきた。しかし長雨とまさかの撮影トラブル(終盤で発生するトラブルがマジで怖い)が行く手を阻む。果たして、彼らは自分たちの『レイダース』を完成できるのか……というのが、このドキュメンタリーの大筋だ。

『レイダース』のためにおっさんたちが奮闘する姿、胸に迫ります


未撮影だった飛行場のシーンを撮影するまでを追った内容と並行して、『レイダース!』では2人が当時何を考えて撮影したのか、そして当時から現在までの間に一体何があったのかが当人たちの口から語られる。

親が離婚したことの寂しさから、半ば現実逃避的に『レイダース』の撮影にのめり込んでいくクリスと、それに付き合っているうちにどんどん「監督」として仕事をするようになるエリック。
彼らにはもう一人、ジェイソン・ラムという友人がいた。早口でよく喋り、奇抜なアイデアを次々に出すジェイソンをカメラマン兼特技監督とし、彼ら3人はドタバタと撮影を続ける。

当時のエピソードは微笑ましいやら危なっかしいやら、なんとも楽しそうな話ばかりである。撮影中に「服に火がついて燃え広がる」というシーンを撮影するため実際に火をつけたところ予想外に燃え広がり、消化器で危うく消し止めた話などは相当危ない。これがエリックの母親にバレて怒られ、彼らはエリックの母が持つコテージを借りていた俳優(といってもちょい役ばかりだが)のピーターを監視役につけることで撮影再開を許可される。

しかしこのピーター、ロメロの『ゾンビ』に出て大喜びで人間に食らいついていたような人間であり、ビール片手に子供と一緒に撮影に興じてしまうことに。挙げ句の果てには火を使うシーンで「こことこことここにもっとガソリンを撒いた方がいいぞ!」と子供達に指示を出し始める。監視役が積極的に火をつけていたわけで、なんとも微笑ましい(エリックの母親にとってはたまったものではないだろうけど)。「火災騒ぎを起こしても撮影を続けるための方法は、親に情報を与えないことだ」と断言する2人。ちっとも反省していない……。

下手したら大怪我ではすまなさそうなトラブルを乗り越え、クリスマスプレゼントには撮影に使う革ジャンやムチまでねだって、7年もの間全力で撮影に挑んだクリスとエリック。途中で地元のテレビ局に取材されたり、マリオン役にスカウトした年上の女の子との淡い恋まであって、まるでそれだけでも映画のような濃度である。
しかしあるきっかけでクリスとエリックの友情にヒビが入り(このヒビが入るきっかけも映画のようなので、ぜひ本編で確認してほしい)、そのまま2人は疎遠に……。しかし彼らの『レイダース』がその後、ひょんなことから大いに注目を集めることに。このへんの過去の話も、オタク二人の友情物語として目頭が熱くなる。

「素人が、素人なりに頑張って映画を撮る」というジャンルの映画は意外にたくさんある。『僕らのミライへ逆回転』とか、おれが大好きな『ブリグズビー・ベア』とか、J・J・エイブラムスの『SUPER8/スーパー8』なんかも、その手の映画の仲間と言えるだろう。『レイダース!』は、そんな映画のストーリーをそのまま現実に置き換えたような、まるでフィクションのような実話である。いい歳のおっさんたちが過去のわだかまりを乗り越え、やり残した宿題にケリをつけるため必死に奮闘する姿には、冗談抜きで胸が熱くなること請け合い。「映画って、本当にいいものですね……」と素直に思える、いいドキュメンタリーである。
「レイダース/失われたアーク」のリメイクに挑む映画オタクの友情!Netflix「レイダース!」に胸熱

(文と作図/しげる タイトルデザイン/まつもとりえこ)
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