
バックナンバーはこちらから
不祥事を起こした芸能人を画面に出すのか、出さないのか。
2019年はまだ2ヶ月弱のこっているが、今年はその判断が特に注目された年ではないかと思う。
10月23日、東京国税局から多額の申告漏れを指摘されたとして、チュートリアル・徳井義実が記者会見を行った。多くのレギュラー番組を持ち、俳優としてドラマにも出演する徳井。テレビ局はその対応に追われた。休止するのか、編集するのか、そのままいくのか。
そして11月2日から4日までの3連休、3つの番組でその葛藤と答えを見た。2日放送の『人生最高レストラン』(TBS系列)、3日放送の『いだてん』(NHK総合)、そして4日放送の『コントの日』(NHK総合)だ。
メインMCを編集でオールカット
『人生最高レストラン』は、2017年の番組開始当初から徳井がメインMCとしてレギュラー出演してきた番組。2019年10月から「2号店」としてリニューアルし、女将役に島崎和歌子が加わった。番組では大衆居酒屋風のテーブルを囲んでゲストとトークを繰り広げる。
11月2日放送は松尾スズキがゲストテーブルの中央に松尾が座り、左側にTBS宇賀神メグアナと徳井、右側に島崎と準レギュラーのサバンナ・高橋茂雄が座る。正面からゲストを映すと、両側に徳井と島崎が入る……はずなのだ。
この日の『人生最高レストラン』は、徳井を1秒も映さず、声も入らないように編集されていた。
徳井のレギュラー降板を発表し、「オールカット」という選択肢をとった『人生最高レストラン』。『しゃべくり007』や『深イイ話』など他のバラエティ番組も、オールカットとまでも徳井を映さないように再編集されていた。
そんな中、対応が注目されたのが11月3日放送の『いだてん』。ちょうどこの日から、徳井は日本女子バレーボール・大松博文監督の役で出演することが決まっていた。あの「東洋の魔女」を率いた人物である。1964年の東京オリンピックから「オールカット」というわけにはいくまい。どうするのか。
「できるだけ配慮」のその中身
3日放送の『いだてん』は、黒バックに白いテロップから始まった。
「大河ドラマ『いだてん』は 10月1日にすべての収録を終了しています。徳井義実さん演じる日本女子バレーボールの大松博文監督を描くシーンについては 編集などでできるだけ配慮をして放送いたします」
今年3月にピエール瀧が降板した際は、代役を立て、過去の出演シーンも撮り直した。

東京大会の新競技を検討する田畑政治(阿部サダヲ)が、大阪の日紡貝塚女子バレーボールチームを視察するシーン。大松監督は女子部員にあだ名を付け、猛烈にしごく。さすがにそれはどうなの、と田畑が大松を柔道場に連れて行き、彼らはこんなに静かにやってるじゃないと諭すと、全然話を聞いていない大松は「これや!」と受け身の動作から回転レシーブを思いつく……。
そのあと流れたオープニング映像でも、堂々と「大松博文 徳井義実」のクレジットが出る。その後も、田畑が再び大松の元を訪れ、完成した回転レシーブを目の当たりにする場面など、約4分30秒の堂々たる出演。「配慮はするって言ったよ!でもカットするとは言ってないよね!」と、まーちゃんが叫ぶ声が聞こえるよう。
その叫びを偶然受け止めた形になったのが、4日放送の『コントの日』。同じNHKで「不祥事でカットされる芸能人」をネタにしたコントが演じられていたのだ。
「編集の殺し屋」がターゲットを消す
『コントの日』は、ビートたけし、劇団ひとり、東京03らが「日本コント協会」を結成し、ユニットコントを披露する。昨年の文化の日に第1弾が放送され、今回が2回目だ。
昨年は「平成」をテーマに、プリキュアやハズキルーペのCMなどのパロディを繰り広げ、少々不安な滑り出しであった『コントの日』だが、今年は「テレビ」をテーマにたっぷりコントを繰り広げていた。面白さもさることながら、番組予算が潤沢なのか、今どきありえないロケ映像まで飛び出していた(「世界ウルルン滞在記」のパロディを撮るためだけに、新川優愛が2泊3日のフィジーロケに出る!)
さて、そのなかで披露されたのがコント「編集の殺し屋」。冒頭、東京03・角田が演じる中堅俳優「都倉和夫」による旅番組が始まる。芦ノ湖をバックに「箱根〜!」と絶叫し、寄木細工の工房を訪ね、蕎麦屋に入るも「そばアレルギーなんで」と天丼を頼む都倉(角田は本当にそばアレルギー)。最後は露天風呂につかって締め。わずか2分半。でも本当にオール箱根ロケのVTRである。
ここで場面は会議室に。VTRが流れるノートPCを前に、番組スタッフ(東京03・角田、ジャングルポケット・齊藤)が頭を抱えている。都倉は泥酔状態で街を全裸で走り回り、その姿をSNSで拡散されてしまったのだ。
そこに現れたのが、どんな存在でも消し去ってしまう“編集の殺し屋”・ゴルゴ321(劇団ひとり)。旅番組は都倉一人がレポートしており、景色やインサート映像(料理のアップなど)はほとんどない。難しい仕事だが、1000ドル(約10万円)という意外と安値で請け負うゴルゴ。キーボードをハチャメチャに叩き、無駄にライフルを構え、あっという間に映像が完成する。
映像を確認してみると、芦ノ湖でのオープニングは巨大な提供テロップでおおわれ、都倉の姿を隠していた。寄木細工の工房を訪ねるシーンは、左上のサイドテロップを下までビヨーンと伸ばすことで都倉を隠蔽。蕎麦屋では隣の客と店員の「2分割画面」でしのぎ、露天風呂はライフルのスコープで風呂や庭園をアップにする……。
都倉の存在はあとかたもなく消えた。気がつくとゴルゴの姿もない。スタッフたちは目を合わせ「これイケると思うか?」「無理でしょ」「だよね」とお蔵入りを決めて、コントは終了する。
『コントの日』の放送日は以前より決まっていたし、「編集の殺し屋」と現実がリンクしたのも偶然だ。
これから先、テレビで編集で消えている人をみたら、あの殺し屋が出たんだな……と頭をよぎると思う。白いスーツに身を包み、パンチパーマのヅラをかぶった劇団ひとりの姿を。
『コントの日』(NHKオンデマンド)
(井上マサキ タイトルデザイン/まつもとりえこ)