「血を見ることも、人生を歪ませることもなく、事件は終わった。いや、果たして本当に誰の人生も歪ませずに済むのだろうか。
それは、この歪み切った男の手にかかっている」


11月18日(月)放送のドラマ『シャーロック』(フジテレビ系)第7話。

『シャーロック・ホームズの事件簿』の「サセックスの吸血鬼」で語られた「マチルダ・ブリッグス号事件」から「スマトラの大鼠」というワードがピックアップされた。原作では「スマトラの大鼠」が何を指しているのか不明。それを「ねずみ小僧」と掛け合わせ、戦後の焼け野原から復興した街「東京」と絡めた。
ディーン・フジオカ「シャーロック」熱湯・ツンデレ・プリン、岩田剛典の愛され要素。令和の東京と戦後7話
iイラスト/まつもとりえこ

熱湯・ツンデレ・プリン、愛されキャラ若宮


若宮「かつて歴史上の偉人が言っていた。『この世から嫉妬がなくなれば、戦争もなくなる』と。確かにそうかもしれない。でも、名もなき僕は思う。嫉妬がなければ、人は成長できないと」

いつも獅子雄(ディーン・フジオカ)が書くタイトルの文字を、今回は若宮(岩田剛典)が真似して「ワトソン」と書いた。これまでも若宮から漏れ出ていた獅子雄への対抗心と近づきたい気持ちが、ここではっきりと示された。

その後、すぐに獅子雄が半田ごてを使ってタイトルを焼きつけるように書き直す。そうはいかないと若宮をあしらっているかのようだ。

若宮の嫉妬の相手は、獅子雄の依頼人・羽佐間虎夫(はざま・とらお)
失踪したおじいちゃんを探している小学生だ。虎夫を演じた子役・山城琉飛は、ドラマ『モンテ・クリスト伯 -華麗なる復讐-』(2018年)のインフォマーシャルで、高杉真宙のこども時代を演じていた。

最初は真剣に相手にしていなかった獅子雄と若宮。だが、虎夫が人の嘘を見破る方法を使って獅子雄の嘘を見破ると態度が一変。

獅子雄「よし少年、現場を案内しろ」
虎夫「はい!」

「獅子」と「虎」、猛獣つながりで名前も似ている。自分に対応を任せておきながら虎夫を信じた獅子雄に、若宮は不満気だ。

虎夫に嫉妬して奮起した若宮は、車の走行時間とラジオの放送範囲からおじいちゃん・羽佐間寅二郎(伊武雅刀)が連れ去られた方角を特定するなど活躍。「やるなあ、若宮ちゃん」と獅子雄に褒められ、「おう……(照)」とにやける素直さ。その後、獅子雄に頼られて栃木までバイクを走らされるのだが、褒めて良いように使われたと気づかないところが若宮ちゃんだ。

嫉妬心から獅子雄に食らいついていこうとする姿に加え、今回は寅二郎に熱いコーヒーをこぼされる若宮の熱湯かけられ芸もあった。毎回「熱っつ!」と大騒ぎするのに、誰にも構ってもらえないのも若宮ちゃん。

「シャーロック・ホームズ」シリーズのファンは、これぞシャーロック、これぞワトソンというキャラクターのイメージを持っている。
キャラクターの「これぞ」といういわゆる“お約束”の面が出たときには、嬉しくなってしまうものだ。

『シャーロック』は、「シャーロック・ホームズ」シリーズ原案作品の新参として、意識的に「これぞ」を作ろうとしてきたのかもしれない。1話から繰り返される若宮の熱湯芸も、わかりやすすぎるツンデレも、わかっているのに登場すると「お!」と嬉しくなる。しつこいくらいに繰り返され、7話までの間にすっかり愛着を感じるようになった。

掴みどころがない、かつ物語の核として存在する獅子雄。その分、若宮は熱湯、ツンデレ、プリンがないと怒るなどのベタ&ディテールの積み重ねによって、愛されるキャラクターとして作り上げてきている。『シャーロック』が愛される作品になるためには、若宮が愛される必要がある。そんな意思と確信が見えるようだ。

獅子雄「俺が彼なら、真実を知りたい」


プリンがない騒ぎや、ヴァイオリンを弾く獅子雄のこめかみに野球ボールが命中して目を見開いて倒れたこと(河川敷で弾いているのはイメージ映像ではなく現実だった)や、江藤(佐々木蔵之介)のトランプ全部ジョーカーなど、ギャグ回かと感じるような抜け要素も散りばめられていた7話。しかし一方で、寅二郎の半生によって「令和の東京」が戦争から復興した街である歴史的背景も語っていた。

寅二郎が拉致されたのは、かつて金庫破りをして生きていた彼に金庫を開けさせるためだった。犯人は、寅二郎が通っていたデイサービスの介護士・長嶺(黒沢あすか)と施設長の寺島(遠山俊也)。
長嶺は、かつて寅二郎の相棒だった須磨銀次(螢雪次朗)を担当した介護士でもあった。

寅二郎と銀次は、1950年代に活躍した大泥棒「須磨寅の大鼠」だった。

寅二郎「戦後の東京はどこも焼け野原で、俺も相棒の銀次も戦争で親父を亡くした。泥棒稼業に足を踏み入れたのは、生きるためだ。俺たちはねずみ小僧を真似て、盗むのは悪い奴からだけにした。だが、60年前のあの日、俺たちはしくじっちまった」

寅二郎は、自分を拉致したのは銀次が仕組んだことではないかと疑う。しかし、銀次は昨年亡くなっていた。生前、金庫の中身は寅二郎とわけてくれと長嶺に託していた。欲を出した長嶺が、中身をひとり占めにするために寅二郎に金庫を開けさせたのだった。

「すまねえ。俺は疑っちまった。すまねえ」と泣き崩れる寅二郎に、若宮は「銀次さんは、最期まであなたの相棒だった。
良かったですね、相棒がいて」と声をかける。その視線は寅二郎ではなく獅子雄を追うが、獅子雄は若宮に背を向けて去っていってしまう。

虎夫に寅二郎の過去を伝えるという獅子雄。若宮は心配して言う。

若宮「自分のおじいさんが犯罪者だったっていう事実をか? 残酷すぎないか」
獅子雄「俺が彼なら、真実を知りたい」
若宮「そうだな。あの子なら真実を知りたいって言うだろうな」

考えすぎかもしれないが、この台詞を聞いて、寅二郎は戦中戦後を生きた人たち、虎夫はこれからを生きるこどもたちを象徴しているように感じられた。東京で戦争があった時代を生きた人たちが亡くなり少なくなっていく時代。それが例え聞いてつらいことであっても、何があったのか真実を知りたいこどもたちもいるのではないか。

そんなメッセージが、重く説教的なものではなく、あくまで想像の域で軽やかに投げられる。令和の東京という舞台と、現実とフィクションの狭間を縫う『シャーロック』の世界観が、そのバランスを作り上げている。

(むらたえりか)

=配信サイト=
FOD:https://fod.fujitv.co.jp/s/genre/drama/ser4l20/
TVer:https://tver.jp/corner/f0040635

=作品情報=
『シャーロック:アントールドストーリーズ』(フジテレビ系)
10月7日(月)スタート 毎週月曜21:00〜21:54
出演:ディーン・フジオカ、岩田剛典、山田真歩、ゆうたろう、佐々木蔵之介ほか
原作:アーサー・コナン・ドイル『シャーロック・ホームズ』シリーズ
脚本:井上由美子
プロデュース:太田大
音楽:菅野祐悟
オープニングテーマ:DEAN FUJIOKA「Searching For The Ghost」(A-Sketch)
主題歌:DEAN FUJIOKA「Shelly」(A-Sketch)
演出:西谷弘、野田悠介、永山耕三
制作著作:フジテレビ
公式サイト:https://www.fujitv.co.jp/sherlock/
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