あの『ゾンビランド』がまさかの復活! 『ゾンビランド:ダブルタップ』は成立したこと自体が奇跡のような一本だ。
オリジナルキャスト再集結「ゾンビランド:ダブルタップ」真面目でバカ、真摯でふざけた奇跡の続編

え、エマ・ストーンがまたゾンビと戦うんですか!?


前作『ゾンビランド』が公開されたのは2009年。今から10年前である。
主人公は胃腸が弱いオタク青年コロンバス。謎の新型ウィルスによってゾンビだらけになってしまった世界を、コロンバスは独自のルールにしたがってサバイブしていた。テキサスから両親の住むオハイオを目指す旅の途中で典型的なアメリカ田舎白人のワイルドな男タラハシーと出会い同行。さらに詐欺師の姉妹ウィチタとリトルロックと出会い、色々とトラブルに見舞われつつも最終的には4人は家族同然の仲になる……という筋立てのゾンビコメディだった。

しかし、10年経って状況はガラリと変わった。コロンバス役のジェシー・アイゼンバーグは『ソーシャル・ネットワーク』でアカデミー賞にノミネートされたりしたし、ウィチタを演じたエマ・ストーンに至ってはもはや立派な大女優である。監督のルーベン・フライシャーも『ヴェノム』でヒットを飛ばしてるし、出演者もスタッフも大成長を遂げている。

だが、オリジナルキャストとスタッフを集めて、なぜか『ゾンビランド』の続編が作られてしまった。タイトルにあるダブルタップというのは、銃の引き金を2回引く射撃テクニックを指す単語で、コロンバスの定めたルールの2項目め「かならず二度撃ちしてトドメを刺せ」にもかかっている。

前作同様のノリとギャグ、今度はリトルロック捜索の旅です


前作から10年、コロンバスら一行はゾンビを殺しつつ気ままな旅を続けていた。壊滅したホワイトハウスに押し入って大統領ごっこをしたり、前作で付き合うことになったコロンバスとウィチタの関係も進展。しかし、リトルロックは父親づらするタラハシーに対して嫌気がさし、またウィチタもコロンバスのプロポーズを受ける気にならず、またしても二人は家出する。

動揺するコロンバスだったが、近所のショッピングモールを物色に行ったところで死ぬほど頭の悪い女子マディソンと出会う。
なし崩し的にマディソンと同居することになったコロンバス。しかし、そこに家出したはずのウィチタが戻ってくる。曰く、妹のリトルロックがヒッピー崩れのイケメンにほだされて勝手に出て行ってしまい、捜索のために武器を取りに戻ったという。突然戻ってきた元カノに動揺するコロンバス、そしてヒッピー嫌いのタラハシーはブチ切れる。かくして行方不明になったリトルロックを探すため、またしても一行はゾンビだらけのアメリカをさまよう旅に出ることに……。

前述のように、キャスト陣は全員出世してしまっている。ジェシー・アイゼンバーグはまだまだ見た目が童貞っぽい(私生活では一児の父なんだけど)からなんとかなりそうだけど、エマ・ストーンはアカデミー賞も取っちゃったし、最近は貫禄すら出てきている。大丈夫なのか。

結論から言うと、完全に大丈夫だった。冒頭、メタリカの『Master of Puppets』に乗せてライフルの台尻でゾンビをぶん殴り、グレネードランチャーをぶっ放すエマ・ストーンを見たところで、「あ、これはもう大丈夫だわ」としみじみ思った。思えばエマ・ストーンの映画デビュー作は2007年の『スーパーバッド 童貞ウォーズ』である。あの頃の雰囲気に完全にチューンして出てきたエマ・ストーンこそ、本物のプロである。


映画の内容自体も前作同様のノリ。タラハシーの「ザ・アメリカの田舎白人」な趣味嗜好には磨きがかかり、しょうもない下ネタやバカ寄りのギャグも健在。特に今回、プレスリー絡みのネタのしつこさは特筆ものである。また新キャラのマディソンも凄まじく、「ものすごいバカ」がパーティに加わるとここまで場が混乱するのかと感心した。ジェシー・アイゼンバーグも変わらぬ童貞感で登場。この人、おれより年上のはずなんだけど全然そう見えない。これはこれでエマ・ストーン並みのプロ意識である。

『デッドプール』に通じる、意外に真面目なテーマ


初代『ゾンビランド』は、ゾンビ映画のフリをして「孤独なオタクが危険な世の中をサバイブするには」というテーマを語った映画である。危険極まるゾンビまみれの世界をテーマパークみたいなものと見立て、ルールさえ守れば何をやっても自由であると自分を納得させる。人付き合いが苦手な人間が世の中と折り合いをつける方法として、かなりわかりやすいメソッドだと思う。なんにせよ見立て次第なのだ。

その中で主人公コロンバスは、新しい家族(のようなもの)を見つけ、彼らと一緒に生きていくことを学ぶ。
この「天涯孤独な人間が疑似家族を見つけて、彼らと一緒に危険に挑む」というテーマは、『デッドプール2』にも見られたものだ。『ゾンビランド』シリーズで脚本を担当するレット・リースとポール・ワーニックは『デッドプール』シリーズの脚本も書いているので、これは彼らが得意とするテーマなのだろう。

『ゾンビランド:ダブルタップ』では、これに加えて「家」や「居場所」の概念が絡む。10年間もゾンビに追われ、コロンバス一行は居場所を点々とせざるを得ない。ホワイトハウスに落ち着いたような気がしていたものの、またしてもウィチタたちは家出してしまう。せっかく見つけた疑似家族崩壊の危機だが、頼る人間もまた疑似家族しかいない。そんな生活の中で、落ち着いて暮らせる「家」はどこにあるのか。

ハチャメチャなギャグとゾンビにまみれてはいるものの、『ダブルタップ』でもそのへんのテーマに関しては意外に真面目、前作譲りの「家族とか家ってなんなんでしょうね」という真摯さがある。コロンバスやタラハシーら登場人物はどうしてもしっかり他人に理解されない部分を持っており、そうであるにも関わらず協力しないとゾンビだらけのアメリカでは生きていけない。まるっきり現実との合わせ鏡のような状況設定である。

では、コロンバスたちは最終的にどのような結論にたどり着いたのか。そのへんは是非とも映画本編を見て確かめていただきたい。
真面目でバカで、なんとなくいい話っぽいけどやっぱり死ぬほどふざけているという、複雑な味わいが楽しめるはずである。
(しげる)

【作品データ】
「ゾンビランド:ダブルタップ」公式サイト
監督 ルーベン・フライシャー
出演 ウディ・ハレルソン ジェシー・アイゼンバーグ エマ・ストーン アビゲイル・ブレスリン ほか
11月22日よりロードショー

STORY
前作から10年、相変わらず気ままな旅を続けるコロンバス一行。しかしまたしてもウィチタとリトルロックが家出してしまい、コロンバスは大いに動揺することに……
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