11月27日に発売された「ドラえもん」0巻が大変なことになっている。
幻の第1話全6種類を集めた「ドラえもん」0巻のココが凄い。爆発的な人気で完売続出

発売前に2度の重版を行なっており、発売日にも重版が決定。
すでに27日の時点で累計発行部数は25万部を突破した。

11月29日の夕方の時点で都内の主だった書店はすでに完売しており、入手しようと思ってもできない状態が続いている。Amazonをはじめとするネット書店でも完売。ツイッターには「ドラえもん」0巻の在庫を求める声が飛び交った。

「ドラえもん」0巻とは、藤子・F・不二雄(以下、F先生)による国民的人気コミック「ドラえもん」の50周年にちなんだ企画のひとつで、これまでコミックス全45巻に収録されていなかったものも含む全6種類の「幻の第1話」を収録したもの。コミックスとしては23年ぶりの新刊となる。


「幻の第1話」が生まれたワケ


「ドラえもん」の連載が始まったのは1969年12月。小学館が発行する学年誌「よいこ」「幼稚園」「小学一年生」「小学二年生」「小学三年生」「小学四年生」で一斉に始まった(1970年1月号)。

「ドラえもん」0巻に収録されているエピソードは次のとおり。

「ドラえもんあげる」(「よいこ」第1話)
「ドラえもんがやってきた」(「幼稚園」第1話)
「ドラえもん登場!」(「小学一年生」第1話)
「未来から来たドラえもん」(「小学二年生」第1話)
「机からとび出したドラえもん」(「小学三年生」第1話)
「未来の国からはるばると」(「小学四年生」第1話)

「愛妻ジャイ子!?」(「小学三年生」第2話)
「ハイキングに出かけよう」(「小学五年生」第1話)※ドラミ初登場話
「ドラえもん誕生」(コロコロデラックス ドラえもん 藤子不二雄の世界)

現在でも版を重ねる「てんとう虫コミックス」の「ドラえもん」第1巻に収録されている第1話は、「小学四年生」に掲載された「未来の国からはるばると」をベースに、「小学三年生」に掲載された「愛妻ジャイ子!?」の一部をミックスしたもの。0巻ではそれぞれオリジナルの形で収録されている。その他の5つの第1話は、もちろんコミックス初収録だ。

「ハイキングに出かけよう」はドラえもんの妹、ドラミちゃんが初登場する回で、こちらもコミックス初収録。
「ドラえもん誕生」は「ドラえもん」がテレビ朝日でアニメ化される前の1978年11月に発売されたムックに収録されたドキュメンタリーコミック。

「てんとう虫コミックス」はF先生のこだわりが詰まっており、膨大なタイトルから収録作品をセレクト。テーマの重複に気を配り、収録順も1冊の中で季節が春夏秋冬と自然に流れていくように考えられている。また、コマの書き足しや修正なども徹底的に行われた。だから、コミックス未収録作品が大量にあるのだ(それらは「藤子・F・不二雄大全集」に収録されている)。

「まいっちんぐマチコ先生!」の作者で、デビュー前に藤子不二雄のアシスタントを務めていたえびはら武司による回顧録「藤子スタジオアシスタント日記 まいっちんぐマンガ道」によると、当初、小学館の担当者からコミックスは全6巻で完結すると告げられており、F先生も全6巻をひとつのパッケージとしてまとめるために腐心していたという。
コミックスは爆発的な売れ行きとなり、ほどなくして7巻以降が続刊された。

ドラえもんが四つ足で歩いてる!


あらためて第1話の6編を読んでみると、今の「ドラえもん」とはまったく異なる設定やイメージがあちこちに出てくる。

ドラえもんが四つ足で外に駆け出していったり、道具を何も使わず空を飛んでいたり、タイムマシンに乗らずに時空を旅していたりと、意外なイメージが不意打ちのように飛び出して、それだけでかなり楽しい。

「小学二年生」のドラえもんは青い部分がピカピカに光っているし、「小学三年生」の扉絵ではドラえもんがのび太くんに「これが30年後のきみのすがた。」とルンペンになった姿を見せるという衝撃的なものになっている。

ほかにも、ジャイアンよりスネ夫の意地悪のほうが前に押し出されていたり、しずかちゃんのバイオリンが上手だったり(後に下手だという設定に変更)、タケコプターを手で握りしめて飛んでいたりする。

「小学三年生」の登場人物紹介で、のび太の両親に「あまくてぜったいにのび太をおこらない」というキャプションがついているのも興味深い。たしかに最初は非常に甘かったが、いつしかのび太が家出を決心するほど厳しく叱るようになった。
F先生にどんな心境の変化があったのだろう?

のび太は社長の息子だった!


また、「連載開始当時の雰囲気を伝えるため、各話の扉のレイアウトやタイトルロゴ、学年別に書き分けられたセリフの文字づかい、現在とは異なる表記なども極力そのまま再現しました」と注意書きがあるように、「小学四年生」の第1話についてはコミックス収録時にF先生が修正した部分を初出の状態に近づける「再修正」が施されている。

もっとも驚きなのは、のび太の未来についてコミックスでは「しゅうしょくできなくて自分で会社をはじめ(る)」となっている部分が「父の会社をつぐ」になっていたこと。当初、のび太は社長の息子という設定だったのだ! それがのび太のせいで一気にマイナスに転落するというギャグだったのね。

「しずか」が当初の名前の「しず子」に戻っていなかったり、ドラミちゃんが出す「自動コジ機」の部分のセリフが変更されたままになっていたりするので、「ドラえもん」マニアは変更された点、変更されていない点を探すのも楽しいだろう。

とはいえ、えびはら武司がアシスタント時代、F先生にさまざまな設定の変更についてツッコミを入れたところ、「あまり細かい所は気にしないで もっとマンガを楽しんで読みなさい!」と言われたとのことなので(前掲書「名作秘話編」より)、おおらかな気持ちで0巻を楽しみたいと思う。修正された、修正されていない、で怒ったりするのは無粋極まりない。


現在大量重版中で0巻が再び店頭に出るのは、もう数日後になると思われる。Kindle版も発売中なので、待てない人はそちらをどうぞ。筆者も電子書籍版を読んだのだが、カバーをめくると表紙が「てんとう虫コミックス」の初期デザインのままという泣ける仕様なので、やはり紙版を買い直してしまうだろうなぁ。
(大山くまお)