
お笑いコンビ・とんねるずの木梨憲武の人気が上昇中だ――。インスタグラムで様々な職業の人に扮した写真を投稿する「お仕事シリーズ」で松本孝弘や小栗旬らも登場し度々話題になるなど、若年層を中心とした人気も盛り上がりをみせ、本格的な音楽ソロ活動の開始と夏の人気大型フェスへのトリでの出演、新曲の配信リリース等々、いま再び注目を集めている。
そんな彼がこの度、『木梨ファンク ザ・ベスト』をリリースした。久保田利伸や藤井フミヤ、星野源など、豪華共作陣やゲストたちと作り上げられた今作は、彼の今だから「歌えたこと」「歌えること」「歌わなくてはならないこと」への思いが詰まっている。今回のインタビューではそんな作品の話からスタートしながらも、結果、前向きで上向き、次の活動へのビジョンに結びついたのも興味深い内容となった。
藤井フミヤ、AI、AKLO……思いついた“先生方”に次々発注、そして絶対服従

――先行でEP『木梨ファンク NORI NORI NO-RI』として配信していた4曲を含むアルバム『木梨ファンク ザ・ベスト』がCD盤として発売されますが、ようやく“発売された”実感が湧きました。
自分もまだまだ配信文化に対応できていないというのが正直なところなんです。当初は配信からのスタートの概念がいまいち理解できていなかったんです。なので、みんなには「配信で自分の曲を買うように」と吹聴しておきながら、自分は未だに携帯から音源を買ったことがないという(笑)。やはりレコードやCD時代の人間なので、携帯で音楽を聴く慣習が未だになくて。
――そんな方々にはまさに待望の作品化とも言えますね。作品の内容的には、非常に木梨さんのキャリアや年齢、日常を重ねてきた今だから歌える歌のような感覚がありました。
結果そうはなりましたが、当初は特にそのようなコンセプトはなかったんです。いい楽曲たちに出会い、「さぁ、ここからどうしよう?」からのスタートでしたから。まずは「歌詞を誰にお願いしよう?」と。そこからですね、「この曲は(藤井)フミヤに」「この曲はAIちゃんに」「ああ、こういった打ち込みの曲だったら、この前一緒に飯を食ったAKLOに頼んでみよう」とか、「SALUとインスタやったから彼にも頼んでみよう」等々。一曲一曲思い浮かんだ方々に発注していきました(笑)。「なんとかなりませんか? 先生方!」って。で、そこから各位と「打ち合わせ」と称し、飲んだり食べたりしているなか、彼らが俺にヒアリングしてくれて。そこから完成していったものばかりなんです、今作の歌詞は。

「こんなんどうですか?」「おおっ、すごくいい!!」と、その場で書いてもらったり。あっ、フミヤだけは全くのノーテーマでしたね。「この曲よろしく」って渡して、「あいよ」と2~3日で完成品が届きました。彼はやはり詩人です。恋愛の男の気持ちを、今の令和の時代に上手く描いてくれました。
――どれも木梨さんの生活や人生に根づいている感じがあったので、メロディーが先行だったり、依頼先各位がイニシアティブを持って書いていたのも意外でした。
今回のアルバムのコンセプトは、自分たちの時代のディスコやファンク等の80'sな音楽から現在のクラブミュージックまでの音楽の幅のなか、自分がどれだけ対応できるのか? が当初にはありましたから。なので曲のタイプも様々で。9曲9人の先生がいたので、制作も楽しい半年間でした。
――現在の音楽の最先端のトレンドも含めて、その音楽性の幅も堪能させていただきました。
当初は候補が700~800曲あったんです。そこから絞っていって。その一軍の選抜が今作の各曲だったりするんです。
――なかには木梨さん的にも今回初めて聴いたり、チャレンジした音楽性も多々あったのでは?
まさにチャレンジの連続でした。先生方なしではできていなかったでしょう。各30代の兄貴たちに歌唱指導、詞の乗せ方、歌い方まで対寧にレクチャーしていただいて。もう自分は先生の言うことに絶対服従。逆にそれが嬉しくて楽しくて。

――若いミュージシャンとのコラボも今回の目玉だったりしますもんね?
AKLOの曲(麻布十番物語)に関しては、元々は違う曲が用意されていたんです。「本気でやりたいんで、俺たちはノリさんに歌って欲しい曲を作ってきてもいいですか?」と改めて自ら曲まで作ってきてくれて。「いいね、その心意気! 大至急作っちゃって!!」と。あれも嬉しかったなぁ……。
妻・成美さんに捧げたラブソング 綾小路翔からオファー「ぜひ気志團万博で歌ってほしい」

――それにしても、各曲での木梨さんの対応力と応用力には恐れ入ります。どれもきちんと本格派に聴こえます。
もう各曲、学びながらでしたよ。各先生がボーカルディレクションまでしてくれたんで、その指示通りに私はやっただけ。
――最近人気のインスタグラムでの「お仕事シリーズ」も含めて、その消化や対応能力、成り切る能力は流石です。
「お仕事シリーズ」と同様に、最低でもそれなりのクオリティは保ちたかったんです。おかげさまでどの歌も感じが出るまでこだわって何度も歌いました。
――先程と重複しますが、リリックの方も共作とは言え、かなり木梨さんの日常性や暮らしぶり、これまでの生き方や考え方、今だから歌えることに満ちている感があります。
僕が全面的に書いた歌詞に関しては、本当にある事実しか書いてません。ラブソングにしても、「このラブソングは具体的に誰に向けて歌っているのか?」と訊かれたら、「基本的に成美さん(女優・安田成美/木梨の妻)に向けて歌っている」と。

――実際この曲を成美さんに捧げられて、ご本人からのリアクションはいかがでしたか?
曲が完成してすぐ、まだ公表していない段階で「こんな曲が出来た」とライブでいきなり披露したんです。その際に客席で成美さんも観ていて。そんな彼女のリアクションを関係者が全員伺っていたという。あれは俺の方が恥ずかしかった(笑)。でも、あのときは自分自身、お客さんも含めみんながどんなリアクションをするのか? も楽しみで。で、その際、観ていた氣志團の團長(綾小路翔)が「最高ですね!」と。後日、「氣志團万博にぜひ出て欲しい!」「絶対にそこでこの曲を歌って欲しい!!」との依頼があったぐらいでしたから。そういえば、あの曲の歌詞は横にいる成美さんを見ながら書いたんだっけ。
「父臭いと言われる」娘との日常のリアルな会話を落とし込んだ

――「道化師として」や「麻布十番物語」も非常に木梨さんの日常性や生活が浮かんでくる曲たちです。
うーん……もう、これらはラッパーの方々で言うところの地元やその地元の友達を裏切らない、そんな歌ですね。あの方々の作品には、「俺はこの街を離れないぜ!」や、自分のリアルな生活や生き方や生き様を歌っている曲が作品に必ずといっていいほど入ってる(笑)。
――では、あの曲たちは木梨さんで言うところの、「地元レぺゼン」や「リアルな現場感」であると。
そうそう。それでじゃあ、俺にとって「地元」はどこだ?って。まっ、みんなのイメージ的には祖師谷大蔵なんでしょうが、今は住んでませんから。その辺りリアリティがないな……って(笑)。だったら事務所やアトリエもある麻布十番にしようと。

――「道化師たち」に際しては、世のお父さんの悲哀の同感もありそうです。
この曲を「道化師として」とタイトルしたのは今でも正直どうか? の後悔はありますが。これに関しては、ああいう風に歌っていますが、実は描写される生活が自分のなかでは居心地が良くてしょうがなかったりするんです。
――そうだったんですね。
実際、本当に自分の家庭で起こっていることだし、言われていることも全て事実です。娘にも「犬臭い」と言われた時も、そうかそうか、もっと嗅げと(笑)。「本当に犬を嗅いで、俺を嗅いで、比べたことがあるのか?」と。全国の50代のお父さんの多くがそうでしょうが、「バスタオルを一緒に使うな!」「風呂は先に入るな!」「うるさい!」「臭い!」等々、家庭では色々なことが起こるでしよう。それをリアルに「私版」として歌に落とし込んでみたんです。
――木梨家のリピングでのやり取りが浮かんできます(笑)。
僕は基本リビングで暮らしているようなもんなんで。タオルケットをかけてもらったって、横に犬が寝てるから犬臭いに決まってるんです。ソファもタオルケットも犬臭いし、俺がそこで寝ているんだから、(においが移っても)しょうがない。そこに何故か「海老や蟹臭い」も混じって言われたので、「それはどういったことか?」って。「俺は海老や蟹とは一緒に暮らしてないぞ!」と(笑)。

――それこそが世のお父さんの匂いでしょうから(笑)。
そうそう。なので、「娘よ、もっと嗅げ!!」と。もちろん世の中には娘と和気あいあいに過ごしたり会話したりしている父娘や父子も沢山いるでしよう。そんななか、我々は娘や息子たちと普段こんな会話や生活をしていますとのアピールでした。
多くの方の「未来の答え合わせの答案用紙」になって欲しい
――57歳の木梨さんがリリースした楽曲たちは、これからへの夢とか希望、「人生まだまだこれからだ!」的な内容も耳を惹きました。
もうこの辺りは、それこそ自分の考え方や思っていること伝え、それを上手くみなさんが反映して下さいました。自分自身、なるべくここで歌われているような考え方をしようと日々心がけて生活しているんです。些細なことでも前向きでポジティブに考えるというか。つまんない日々でも決して、「つまんない」って言わない。マイナスのことは口にしない。「どうか今日もいい一日でありますように」からスタートして、自分の思い描いていたイメージよりも、「おっ、今日はまぁまぁ上回ったね」「これは流れがきたのでは?」「今日は絶好の飯会が出来たね」「駐車場空いていた。これはツイてる。ということは、今日はいい日になる」とか。普段、自分に言い聞かせていることをあえて歌として表してみたんです。
――「OH MYオーライ feat. SALU」なんてまさしく今おっしゃられたように、気持ちの持ちようについての歌ですもんね?
ぜひ聴いて、「そうか、そんな思い込み方もあるんだ」と感じてもらったり、それらを実践して欲しいです。なかにはビクビクしながら人生を過ごしている方もおられるでしょうから、そんな方はこのアルバムを聴けと。それこそ年齢を重ねた方だからこそ、沁みてもらえる曲もたくさんあるんじゃないかな。人生って結局、何を信用して、どのように暮らして、どうやって謳歌して楽しむか? の大会だと自分では捉えてますから。

――今作は悲哀的な曲もありますが、どの曲も前向きなメッセージを感受しました。
基本、僕という人間自体がそうですから。アート方面に関してもそう。考えていることや根本的なことは全く一緒。それをメロディーと歌詞で伝えたのがこのアルバムなだけ。
対してアートの方はタイトルと線や色を用いただけの違いでしかない。なので、いずれは自分の絵画に音楽を乗せてもいいかも。絶対にマッチするでしょう。そうだ! 今、ひらめいたんだけど、今回のアルバムの各曲のタイトルから逆に絵を描いてみてもいいいかなって。例えば「OH MYオーライ」というタイトルでキャンバスに向かって何を描くか? これは面白い! 近いうち上野の森美術館での展示会があるので、そこに向けてやるかも。「チョイ前Love」ってタイトルだったら、その言葉をモチーフに絵を一枚って感じで。
あっ、これ今初めて思いついたんだけど、やってみますわ。タイトルは一緒でそれを線と色でどう表すか? いや、テーマによってはオブジェになるものが現れるかも。そんな感じで曲も更に遊んで、エンジョイさせていこうかなって。
――また楽曲の歌内容とは違った世界観がそこには広がるんでしょうね?
でしょう。だからそれを楽しみに、その前知識としても、みなさんこのアルバムを聴いとかないと(笑)。あとは逆に、「絵を見て、あなたはどんな歌が浮かびましたか?」それを問うのも面白いかも。きっとみなさん千差万別でしょうね。

――同世代や近い世代の方々に引っかかりそうですし、共感を得そうな今作ですが、実際、木梨さん的にはどのような方々に聴いてもらいたいですか?
自分としては、まだまだ行くぞ! との気概の曲も含めて、我々の年代の方々にはもちろん、逆にこの曲たちを20代~40代の方々がどう捉えるのか? にも興味があって。「ああ、なるほどね」なのか?「おっ、我々もこんな風になっていくのか?」となるのか? 「よし俺もこんな考え方の大人になっていこう!」となるのか? 自分の場合、アートもどちらかといったらそうだったりするので。それこそ老若男女に向けての笑いや歓び、エンタテインメント等々……。なので音楽の方もそうなって欲しい。基本、小難しいことは一切歌っていないので。
――若い方には未来の答え合わせになりそうなメッセージ性を擁した作品ですもんね?
良いこと言ってくれますね。その「未来の答え合わせ」って全面的にキャッチにしたい! ぜひ、若い方とは言わず、多くの方の「未来の答え合わせの答案用紙」になって欲しいかな。

リリース情報
1stソロ・アルバム『木梨ファンク ザ・ベスト』
12月11日(水)リリース
[CD]
01. GG STAND UP!! feat. 松本孝弘
02. 夢の先へ~Next Dream~ feat. AI
03. OTONA feat. 久保田利伸
04. OH MYオーライ feat. SALU
05. I LOVE YOUだもんで。
06. 木梨ブレスカウント。
07. 道化師として
08. 麻布十番物語
09. チョイ前Love feat. 藤井フミヤ
10. Laughing Days
[DVD]
木梨ファンクの貝。~GYAO!ガラミ!~
GYAO!協力のもと木梨憲武と竹山部長ことカンニング竹山との絶妙トーク・セッション、貴重なレコーディング密着映像が収録
1962年、東京生まれ。とんねるずとして活躍する一方、アトリエを持ち画家としても活動している。1994年に「木梨憲太郎」名義で名古屋で開催した初個展『太陽ニコニカ展』から日本国内では今回で実に9度の個展を開催。2015年にはニューヨークでも個展を開き、話題になった。