
12月27日(金)に公開される、劇場版『新幹線変形ロボ シンカリオン 未来からきた神速のALFA-X』。2018年1月から2019年6月まで放送されたテレビアニメ『新幹線変形ロボ シンカリオン』から約半年後の物語を描いた完全新作ストーリーで、次世代新幹線の試験車両ALFA-Xがシンカリオンに変形して活躍することなどが公開前から話題となっている。
エキレビ!では、テレビシリーズに続いて監督を務めた(第65話以降は総監督)池添隆博にインタビュー。池添監督の念願でもあったシンカリオン初の劇場版がどのように作られていったのかを探っていく。

親子というか、速杉家の物語であるということがまずあった
──劇場版の制作が決まった際、池添監督がまず考えたことや、最初に始めた作業を教えてください。
池添 最初にやったのは、とにかく(脚本の)下山(健人)さんとお話しすることでした。でも、製作委員会を含めて、映画にするなら親子をテーマにするというか、親子で観られる内容にしようということは、ミッションとしてみんな合意できてたんです。だから、そこから、どういう(物語の)縦軸を作っていくかについてはすごくシンプルに話しあえました。テーマに沿って、みんなでネタ出ししていく作業もスムーズにできたと思います。
──では、最初にあったオーダーとしては、親子の物語ということが特に大きなものだったのですね。
池添 親子というか、速杉家の物語であるということがまず前提にありました。
──9歳のホクトが過去からやってきて、12歳のハヤトたちに出会うというプロットは、すぐに固まったのですか? それとも、他にも多くのプロットを検討する中、この物語に決まったのでしょうか?
池添 もう一つあった大きなミッションは、ALFA-Xという新しいシンカリオンを出したいというものでした。そうすると、運転士を誰にしようということになって。基本的には子供であることが必要だし、ハヤトとコンビになれるようなキャラクターでいて欲しい。もちろん、ALFA-Xの運転士を少年ホクトではなく、全然別の新キャラにしようという案もありました。ただ、この映画の尺の中では、新しく登場した子になかなか感情移入はできないだろうということになり、話し合っている中で、誰かから少年ホクトという案が何となく出たんです。そこから、自然と物語も時空を扱うものになっていきました。少年ホクトとだったら、ハヤトも対話ができるかもしれないし、観ている方も、あのパパが少年になったら、どういうことを言うんだろうと興味を持ってもらえる。そういう流れで、少年ホクトがやってくる話になりました。
少年ホクトは、『ハガレン』のアルにもイメージが重なった
──少年ホクトの性格や口調には、「子供の頃のホクトはこんな子だったんだ!」という意外性がありました。ホクトの子供時代については、テレビシリーズの頃からイメージがあったのでしょうか? それとも、本作の制作にあたって、イメージを固めていったのでしょうか?

池添 ホクトは、東大を卒業しているんですよね。80年代の学歴社会の時代を過ごして東大に入った人って、たぶん子供の頃は塾に通いまくっていたと思うんです。もちろん、遊んでいた子もいるんですけれど、ホクトは絶対に勉強を頑張っていたタイプの子だよねって話になって。
──新幹線や鉄道が大好きなのはハヤトと同じなのに、口調はハルカに似ているのが面白かったです。
池添 そこは、笑って欲しかったポイントですね(笑)。
──少年ホクトに釘宮理恵さんをキャスティングしたポイントを教えてください。
池添 何人か候補の方がいて、その中の一人が釘宮さんだったのですが。当然、釘宮さんのことは以前から存じ上げていて。僕は、10年前の『鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST』(『ハガレン』)に1話から関わっていたんですけれど(絵コンテ、演出で参加)。あの時の思い出というか、釘宮さんの存在感が忘れられなかったので、(候補の中の)お名前を見てすぐ、釘宮さんにお願いしたいと思いました。
──『ハガレン』では、主人公エルリック兄弟の弟、アルフォンスを演じていました。
池添 先ほど、少年ホクトの性格の話をしましたが、少し大人しい子だけれど、芯はしっかりと持っていて。感情が爆発した時にはすごくエネルギッシュな子なんだろうな、と。(シンカリオンへの)適合率の高さを含めて、ALFA-Xに乗れるくらいの子ですからね。そのあたりが、『ハガレン』のアルの時のイメージにもすごくマッチしていたんです。
──たしかに、年齢のバランス的にも、兄のエドをサポートするアルのイメージが重なりますね。
池添 ええ、ドンピシャでした。
『シンカリオン』をもっと見たいと思ってもらえたら
──少し久しぶりの『シンカリオン』のアフレコは、どのような雰囲気でしたか?
池添 佐倉さんを始め皆さん、テレビシリーズの感覚を忘れている感じは全然なかったですし、すごく自然で、少し間が開いた雰囲気はありませんでした。それくらい、皆さんの演じてくれているキャラクターが自分のものになっているといいますか。チームとして、それぞれの中にしっかりと『シンカリオン』がある気がしました。だから、今回もアフレコでは、僕の方からの演出指示はほとんどしていないです。皆さん、分かってくださっていました。
──ゲスト声優として、ドラマや映画で大活躍している伊藤健太郎さん(ナハネ役)と、吉田鋼太郎さん(オハネフ役)も出演しています。
池添 伊藤さんも、吉田さんも、すさまじいオーラのある方でした。ナハネとオハネフは、突然現れた初めての敵なのですが、お二人がすごい存在感を出してくれたので、絵とお芝居だけで(地球に対する)脅威として見せられて、非常にありがたかったです。

──尺的にも、細かなバックボーンを描くのが難しい中、「宇宙最強の敵」という存在感を芝居で伝えてくれたわけですね。
池添 はい。「(敵の)王子と、ずっと付き従ってきた参謀です」くらいのことを伝えたら、ビシっと、ああいう方向でやってくれたので、バッチリでした。
──池添監督は、以前のエキレビでのインタビューで、劇場版に携わるのは念願だったと仰っていました。初めての劇場版監督作品ということで、特に画面作りなどで、テレビシリーズからは変化させていること、チャレンジしていることがあれば教えてください。
池添 映画だからといって、あまり背伸びするようなことは考えてはいませんでした。ただ、今回の敵は宇宙から来るので、そういうシーンでは多少、某ハリウッド映画的なカット回しをやりつつ、少しスケール感を出していて。映画館で観て「おー」ってなるように、大規模な敵であることを出せればという思いはありました。あと、劇場版ならではといえば、贅沢なお祭り感ですよね。
──非常に豪華なコラボレーションが実現した作品となっていますが、これも企画初期からの方向性だったのですか?
池添 最初から下山さんはいろいろと入れ込んでくれましたので、それをどう料理して、(物語の)縦軸と繋げるのかについては、本当に迷いました(笑)。
──子供向け作品のため、一般向け作品よりも尺が短いですし、なおさら大変そうです。
池添 でも、79分は子供向けの映画としては、ちょっと長いんです。本当はもう少し短くしたかったのですが……。わがままを言って、何とか、この長さで通してもらいました。
──池添監督は、以前のインタビューで、『シンカリオン』の映画が夏休みや冬休みの恒例のものになれば良いなとも仰っていたのですが。その1本目の作品が完成して、公開される今の気持ちを教えてください。
池添 たぶん、この尺の中にこんなにもたくさんの要素がつまっている映画は、他にはないと思います。この作品をきっかけに、『シンカリオン』をもっと作って欲しい、もっと見たいと思ってもらえたら嬉しいですね。個人的には手応えもありますし、きっと先に繋がってくれるんじゃないかなと思っています。
──初めての劇場版で、やりたいと思うことは達成できた感覚がありますか?
池添 はい。
(近日公開予定の後編に続く)
(取材・文=丸本大輔)
≪作品情報≫
劇場版『新幹線変形ロボ シンカリオン 未来からきた神速のALFA-X』
12月27日(金)全国ロードショー
【スタッフ】
監督/池添隆博 脚本/下山健人 キャラクターデザイン/あおのゆか
メカニックデザイン/服部恵大 音楽/渡辺俊幸 音響監督/三間雅文
【キャスト】
佐倉綾音 沼倉愛美 村川梨衣 真堂圭 竹達彩奈 杉田智和 雨宮天 うえだゆうじ 山寺宏一/釘宮理恵 伊藤健太郎 吉田鋼太郎
【配給】
東宝映像事業部
(C)プロジェクト シンカリオン・JR-HECWK/超進化研究所・The Movie 2019