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先輩芸人が若手に「プロ意識」を伝える場面を、1週間で2回見た。
『相席食堂』で千鳥が若手のロケVTRを審査し、『爆笑問題のシンパイ賞!!』で神無月が若手モノマネ芸人を大改造していたのだ。
京橋のロケに若手芸人が大苦戦
2月11日放送の『相席食堂』(ABC)は「街ブラ-1グランプリ」と題し、『M-1グランプリ2019』決勝初出場6組によるロケ対決(前編)が行われた。『M-1』も『相席食堂』も同じABC朝日放送であるため、テロップや効果音も本家のものを使い放題である(「JUDGE」のときのSEとか)
1番手はインディアンス。さっそく漫才さながらのやり取りから入るが、大悟は「(ロケを)やったことないから漫才で入るほうが楽なんやろ」「(ツッコミの)キムが漫才用のツッコミか、ロケ用のツッコミかわからんから、間でヘラヘラしてる」と、あっという間に見抜く。
ロケ地は大阪の京橋。ロケの達人である千鳥が「街と人が面白いから芸人がロケに戦いに行くところではない」というほどの高難易度の地だ。インディアンスも酔っぱらいたちに翻弄され、ワサビたっぷりの刺身を振る舞われる。いつしかボケとツッコミの役割から外れ、2人とも酔っ払いたちにツッコんでしまった。これに千鳥は「ボケないと」「コンビネーションが大事なんですよ、コンビのロケは」と指摘する。
ただ、ロケはVTRの編集で大きく結果が変わることもある。2番手に登場したぺこぱは、最初快調に飛ばすも、松蔭寺のツッコミが京橋の人にハマらない。心が折れ始める松蔭寺だったが、その逆にシュウペイはどんどんボケはじめる。
3番手のオズワルドは芸人人生初のロケ。M-1好きの若者に絡まれる不安な滑り出しだったが、伊藤が初対面の素人と連絡先を交換したり、畠中がスナックで中島みゆき「糸」を熱唱して客を巻き込むなど、次々と奇跡を起こしていく。大悟は「みんな、結果良い人に見えて終わったのよ」と高評価をつけた。
この「良い人に見えて終わった」に、千鳥のロケ感が表れていると感じる。自分たちが面白く見えるのはもちろん、街や人を「いい感じ」に見せて、初めてロケは成功と言えるのではないか。
ちなみに『相席食堂』は次週「街ブラ-1グランプリ」の後編があり、からし蓮根、ニューヨーク、すゑひろがりずがロケに出る。こちらも忘れずに見ておきたい。
神無月が若手芸人をプロデュース
さて、神無月が登場したのは、2月7日放送の『爆笑問題のシンパイ賞!!』(テレビ朝日)でのこと。「全く売れてないモノマネ芸人がシンパイ」というそのままの企画で、芸歴33年目の神無月(武藤敬司の扮装)がロケに出た。「俺なんて武藤やり出したの37歳だぜ」「(それまで)結構かかったよ」とボヤキながら。

シンパイな芸人は芸歴2年目のNo.ナオト(26)。
それをモニタリングしている神無月(石原良純の扮装)も「僕も7割似ていないですからね」と同情し、さっそく彼の家に原監督の扮装で向かう。VTRが始まって3分。もう3人目だ。
キサラのオーディションに再挑戦するため、改めて彼のネタをチェック。そこそこのクオリティの三四郎小宮が出てくるが、他の誰かと被りそうなネタは捨てる。誰もやってない菅田将暉の顔マネができるので、これは採用。「菅田くんが言ってそうなことない?」と振ってみるが、「おいっす!」と全く見当違いの答えが返ってきたのでこの下りはやめる。
途中、井上陽水の扮装でトイレから出てくるシーンを挟み、ナオトが大ファンだというももクロのオタ芸をベースにして、2時間でネタを作り替えた。さっそくキサラに吉田鋼太郎の扮装で向かう。5人目である。
こうして、神無月プロデュースのモノマネショーが開幕した。冒頭、ナオトは袖から「ドラマ3年A組より、菅田将暉さんの登場です」と設定をきっちり説明し、後ろ向きに登場。舞台中央で動きを止め、期待を煽ってから振り返る。元のネタでは舞台上をスーッと歩きながら見せただけだった。この時点でもう「モノマネの見せかた」の教科書に載っていい。
続いて「ももクロのライブに行ったらこんな人も応援していた」と、ももクロの曲に合わせてハイテンションで踊りながら、ナダルや永野、ジャイアンの声でコール。短いスパンで複数人が登場するので中だるみしないし、テンションで押し切るので多少似ていなくても気にならない。「7割似ていない」神無月だからこそ、似てないモノマネをどう見せたらいいか知り尽くしている。
そして最後は、新ネタの神田伯山で勝負。顔も声もしっかり寄せた正統派のモノマネで締め。雑多に演じられていたモノマネを、顔マネ→勢いのある中ネタ→勝負の大ネタの3部構成に並べ替え、最後に「いいもの見た」と印象づける。
千鳥は「テレビの向こうからどう見えるか」、神無月は「客席からどう見えるか」を経験し研究してきた。若手芸人を媒介に、そのエッセンスを垣間見れて嬉しい。テレビで何気なく見ている芸人の裏に「プロ意識」があることを思い出させてくれる2番組だった。
(井上マサキ タイトルデザイン/まつもとりえこ)