「先生、あなたは私の唯一の光です。あなたなしではとても暗くて進めません。
明るい方へ、明るい方へ、私はあなたという名の光がほしいのです」


2月13日(木)深夜放送のドラマ特区『ホームルーム』(MBS・毎日放送)第4話。

イケメン美術教師の愛田凛太郎(通称・ラブリン)(山田裕貴)は、生徒の桜井幸子(秋田汐梨)を助けてヒーローになるため、自ら幸子の椅子にボンドを塗るなど事件を起こしていた。あるときから、愛田の知らないところで幸子へのいじめが始まってしまう。愛田はうろたえ、犯人を探そうとする。しかし実は、そのいじめは愛田に助けてほしい幸子の自作自演だった。
山田裕貴「ホームルーム」愛で殴り合う教師と生徒と小林勇貴監督の「裸」への深い愛。今夜5話
千代『ホームルーム』1巻(講談社)

監督・小林勇貴が描いていたのは「愛と暴力」だった


「両片思い」とは、お互いに思い合っているのになかなか進展しない恋愛関係を指す言葉だ。愛田と幸子はお互いに「助けたい」「助けられたい」と思っているまさに両片思い。
「付き合いたい」ではなく「助けたい/助けられたい」と願っているところが、一般的な恋愛ドラマとは違っている。

幸子「先生、私はここです。早く見つけてください。早く照らしてください」

第2話、女子トイレの個室でバケツの水をかけられた(実際には自分でかぶった)幸子は、心の中で愛田を呼ぶ。愛田に見つけてもらうために起こした幸子の自作自演。それを隠すために、生徒会長の白鳥奈々(大幡しえり)は大怪我をさせられる。
図書委員の矢作健(綱啓永)や親友の丸山のぶ代(富田望生)は、幸子を心配していつも不安そうにしている。

愛田「神様、ありがとう。この女神のような桜井に出会わしてくれてありがとう。桜井のような天然素材に出会わしてくれて、ありがとう」

幸子との時間を増やすために、愛田は自分を慕っている白鳥や保健室の先生椎名恵(山下リオ)、他の生徒たちを心の中で「加工物」と呼び邪険にしている。表向きはニコニコとして優しいが、ふいに突き飛ばしたりわざと傷つくことを言ったりと扱いは雑だ。

「教師と生徒」や「成人と未成年」の恋愛ドラマでは、教師・成人側が生徒・未成年側を傷つけたり搾取したりしていないか? という点が気になる。
でも、『ホームルーム』は違う。それどころではない。「助けたい/助けられたい」という強い思いを持った二人が、お互いではなく、周囲をあざむき傷つけまくっている。「バレたらヤバい」の保身・危機意識はあるが、罪悪感の描写はほぼない。

「一方的な願望を愛と錯覚して、それを他人に押し付ける人のなんと多いことでしょうか!殴る蹴るの暴力よりもずっと暴力だと思います。」と、監督の小林勇貴公式サイトにコメントを寄せている。映画『全員死刑』(2017年)やドラマ『すじぼり』(U-NEXT・2019年)、『スカム』(MBS・2019年)で暴力的な世界を描いてきた小林監督。
回が進み、愛田と幸子が周りを傷つけたりあざむいたりしながら「助けたい/助けてほしい」という願望で殴り合っているのを見ると、『ホームルーム』もまた愛と暴力の話だったのだ! と改めて気づく。

セクシーだけじゃない「裸」の多様な描き方


山田裕貴「ホームルーム」愛で殴り合う教師と生徒と小林勇貴監督の「裸」への深い愛。今夜5話
ラブリンが表紙の『ホームルーム』2巻(講談社)と山田裕貴の写真集 『 歩 』(ワニブックス)

テーマは「愛と暴力」だったのだ! と思うとつい真面目一方で見てしまいそうになるが、本作の台詞や演出はそれを許さない。

愛田「虫を使うなどというセンスのない手口!」

それ幸子への悪口になってる!

愛田「事件か? 大人の人呼ばなきゃ!」

お前が大人だよ!

全裸の愛田「桜井!? え、なんで? 何やってんだこんなところで!」
幸子「ありがとうございました!」

何やってんだはお前だよ! って、「ありがとうございました!」ってどういうこと!?

「愛と暴力」以外にも「さみしさ」や「親の愛を求めるこども」など色々と裏テーマを盛り込んでいそうなのに、深く考える隙を与えないほどポンポンと突っ込みどころが襲ってきて追いつかない。テンポに押し流されてしまうのが悔しくも気持ち良い。

出てくるたびに感心してしまうのが愛田の「裸」の用い方。第4話では、愛田の部屋での自慰行為と思われるシーンがあった(それも、おそらくデッサンを「描く」とマスを「掻く」をかけていて笑った)。
しかし、いまのところではあるが、幸子の部屋にいる場合には「性欲」の表現として裸になっているわけではないように見える。

愛田が幸子の部屋に侵入しているときは、女神(幸子)と過ごす神聖な時間。音楽も讃美歌を思わせる。愛田にとっては、自慰をしているときよりも自分を解放でき、願望を実現できている時間なのかもしれない。

そして、全裸のときよりもパンツだけ穿いているときのほうが間抜けで笑えるシーンになっているバランス。愛田に倣って美術の授業のように考えてみると、絵画に描かれるのと同じく裸は神聖なものであり、そこにパンツが加わるとそれは俗っぽさ、人間らしさに転換されてしまう。
幸子が愛田に追いかけられるおばかな妄想シーンは、パンツなくしては笑えなかっただろう。小林監督の「裸」へのこだわりを感じる。

今夜放送の第5話では、過去に男性教師をおとしいれて謹慎処分を受けていた生徒・夏目ゆあ(横田真悠)が、幸子の家を訪れる。そして、ベッドの下に隠れている愛田を発見してしまうハプニングが起こる。ピンチに遭う裸の愛田はどう描かれるのか、楽しみだ。

ところで、『ホームルーム』の撮影は群馬県桐生市でおこなわれている。桐生市は「きりゅう映画祭」が開催され、映画やドラマなどのロケ地支援をしている町だ。
2017年に公開された、アイドルオタクの一方通行の愛を描いた短編映画『堕ちる』(監督・村山和也)もまた桐生市で撮影されている(作品レビュー記事)。ただそれだけの繋がりだけれど、『ホームルーム』や『堕ちる』が撮られた桐生市は「愛」について懐の深い町であるように感じてしまう。
(むらたえりか)

【配信情報】
・MBS動画イズム:https://dizm.mbs.jp/title/?program=homeroom
・TVer:https://tver.jp/episode/67513317
・GYAO!:https://gyao.yahoo.co.jp/title/5e26831c-7f33-42df-9cc6-06e8fc239b4b
・ビデオパス:https://www.videopass.jp/videos/160777

【作品情報】
ドラマ特区『ホームルーム』(MBS・毎日放送)
出演:山田裕貴、秋田汐梨、富田望生、横田真悠、大幡しえり、若林拓也、綱啓永、ウメモトジンギ、前野朋哉、山下リオ、ほか
原作:千代 『ホームルーム』(講談社「コミックDAYS」連載中)
監督:小林勇貴(映画『全員死刑』、ドラマ『すじぼり』『スカム』など)
脚本:継田淳(映画『HiGH&LOW THE MOVIE』※脚本協力、『全員死刑』、ドラマ『スカム』など)
オープニング主題歌:SHE'S「Unforgive」(Virgin Records)
エンディング主題歌:パスピエ「まだら」(UNIVERSAL MUSIC ARTISTS)
制作:ロボット
製作:「ホームルーム」製作委員会、毎日放送

MBS:毎週木曜夜0:59-1:29 ※2020年1月23日(木)スタート
tvk:毎週木曜夜11:00-11:30 ※2020年1月23日(木)スタート
チバテレ:毎週金曜夜0:00-0:30 ※2020年1月24日(金)スタート
テレ玉:毎週水曜夜11:30-0:00 ※2020年1月29日(水)スタート
※放送日時変更の場合あり

番組公式サイト:https://www.mbs.jp/homeroom_drama/
公式Twitter:https://twitter.com/homeroom_drama
公式Instagram:https://www.instagram.com/homeroom_drama/