「中国からの復調のメールに希望をもった」新型コロナでロックダウンしたスペイン在住の日本人が語る

「中国からの復調のメールに希望をもった」新型コロナでロックダウンしたスペイン在住の日本人が語る
セビリアの町並み

スペインでの新型コロナウイルス感染者が10万人を超えた。ヨーロッパでもっとも深刻なイタリアより新規感染者数は多くなり、死者数がイタリアに次いでいるのがスペインだ。マドリードなどを中心に緊迫した状況が続いている。

スペイン南西部の都市セビリアで生活し、2019年のニューズウィーク日本版「世界が尊敬する日本人100」に選ばれた陶芸作家・北原由紀子さんに、現地での様子を聞いた。

取材・文/Keiko Sumino-Leblanc 加藤亨延


買い物は家からもっとも近い店へ週1回1人で


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工房で制作をする北原さん

――新型コロナウイルスは、スペインでどのようにして広がりましたか? 感染拡大が深刻化したのはいつ頃でしょうか?

今年1月末に、カナリア諸島でスペインで初めての新型コロナウイルス感染者が確認されました。2月に入るとマヨルカ島でも感染が確認され、その後、スペイン本土でも感染者が確認されました。2月はサッカーなどのスポーツ観戦やコンサートなどは開かれていましたので、新型ウイルスの感染も拡大していったのではと言われています。

私自身、2月20日に救急病院へ行く用事があったのですが、その頃はセビリア周辺でも、感染が疑われ始めていたことを覚えています。また2月28日に薬局に行く用事があり、その時は私の周りではもうマスクも消毒液もない状態でした。以降ずっと、マスクと消毒液は入手困難のままです。感染拡大がスペインで深刻化したのは、この頃です。ただしセビリアがあるアンダルシア地方は、感染者はあまり多くありませんでした。

感染状況は州によってまちまちですが、特にマドリードはひどいです。先日、スケートリンクに新型ウイルスで亡くなった方々の遺体を並べて安置している映像をニュースで見ましたが、本当にショックでした……。スペイン北西部にあるガルシア地方に住む友人と電話で話したら、共通の知り合いである54歳の日本人女性が、コロナウイルスで亡くなったことも聞かされました。

――新型コロナが深刻化していった頃は、どのような生活をしていましたか?

陶芸作家という職業柄、家にこもりがちな生活をしているため、生活面での変化はあまりありません。これまでにも21日間全く外出せずに、ひたすら家にこもって制作に取り組んだ経験があります。工房が自宅敷地内にありますから、毎日仕事は続けられます。
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工房で仕上げを待つ作品たち

外出制限が始まった3月15日から3月27日までは、従業員は工房に出勤していました。作業場が個室になっているため、それぞれが個別に自分の作業場に入り、マスクをして仕事をします。ただし外出制限が強化された3月30日からは、従業員は出勤していません。彼らが出勤していた時は、会社が通勤証明書を発行し、それを持参させる義務がありました。

先日、他の職人と電話で話をしましたが、やはりみんな普段から作業中心の生活をしていることもあり、出不精な性質もあるため、「外出制限でも、いつもとあんまり変わらないね」というのは職人たちの一致した感覚です。

――お住まいの国でのロックダウン状況はどのような感じでしょうか?

まず3月15日にスペイン政府が非常事態宣言を出し、外出が制限されました。しかし証明書があれば通勤もできました。換気のできる場所での仕事や、従業員同士が距離を保てる環境であれば、仕事を続けていいことになっていたのです。工事現場の仕事も続いていました。美容院も営業できていたようです。ところが、3月30日からは、それらが全て禁止されまして、薬局や病院、食料品店以外の仕事はできません。状況は頻繁に更新されるため、常に注意を必要とします。

外出可能な範囲は決まっていませんが(注:スペインの隣国フランスは、個人的な運動などのために外出する際は「1日1時間以内、自宅から1km以内」と定められている)、各州によっても異なります。買い物は「もっとも近い店へ週1回」と言われています。外出許可証を携帯する義務はありません。ただし買い物は1人でしか行けず、誰かと連れ立って出かけることはできません。安全距離も1.5mから2mを確保するように言われています。犬の散歩も「犬が用を足したらすぐ帰宅するように」「犬同士が接触しないように」と言われています。

外出制限が始まったばかりの頃は、軍や警察がメガホンで自宅待機を呼びかけていました。しかし最近はそれも無くなりました。ロックダウンによって感染者が減った成果を目の当たりにして、みんなロックダウンを受け入れられたのだと思います。

スペインのロックダウン初日に中国からは復調のメールが


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非常事態宣言を伝えるサンチェス首相 Pool Moncloa /Borja Puig de la Bellacasa

――ロックダウンが始まる話はいつ頃から聞いていましたか?

3月15日当日に、テレビのニュースで初めて知りました。

――実際にロックダウンが始まったあと、街の雰囲気はどのように変わりましたか?

しんと静まり返って、まるで毎日が休日の朝のようです。わが家は高台にあり、常に下の県道を走る車の音が聞こえるのですが、今はそれがまったくありません。街を見下ろしても、車も人影もありません。まるでゴーストタウンです。

イタリアやフランスと同じように、新型コロナ騒動が始まってから毎晩20時になると医療関係者に対し拍手を贈る習慣ができました。この拍手を聞くと、「ああ、人がいるんだ」と感じます。3月末に冬時間から夏時間に変わり、1時間分の時計の針が進んでからは、外はまだ明るく窓を開けて窓辺に立つ人々の姿がよく見えるため、より一層盛り上がりを感じます。

――北原さんと周囲はロックダウンのなか、家でどう過ごしているんでしょうか。

私は陶芸作家という仕事柄、あまり変わらず生活していますが、ミーティングや視察訪問、それに関連した事務仕事は無くなりました。そのため制作に集中できるようになりました。制作以外の仕事がなくなった分、仕事時間を短くしています。空き時間には、今まで忙しくてできなかった料理をします。ミュージアムショップなどの取引先が閉まっている今のうちに、しっかりと在庫を作っておこうということも、他の職人たちとの話題に出ます。
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繊細な手作業で作品を仕上げる北原さん

じつはスペインがロックダウンに入った3月15日に、中国から注文のメールが届いたんです。「新しいミュージアムショップがオープンするので、それに納期を合わせてほしい」という注文内容でした。「スペインはいよいよ厳しくなるぞ」という時に、最初の震源地だった中国では、もう一段落しているのだと痛感した出来事でした。中国がこうして新型コロナウイルスから復活したのだから、スペインのこの試練もいつかは必ず終わるのだと、そのメールをもらって希望を持てました。

一方で、インドネシアのクライアントからは、「しばらく納品を待ってほしい」というメールが入りました。国によって状況は本当に変わりますね。

――新型コロナに関してお国柄を感じるエピソードがあれば教えてください。

スペイン人というのは、日頃はお節介すぎるほどに面倒見がよく、それを重く感じることもありますが、今はお年寄りの買い物を手伝うなど助け合いの精神を発揮して、とても活躍しています。すごく優しい人たちなのだと感じます。

またスペイン人は、夏休みの宿題を最後になってようやく片付けるタイプの人たちが多いのですが、そのラストスパートは素晴らしく、最終的に最高の成果を上げられる人たちでもあります。今、状況はロックダウンしていますが、彼らはここからさらなる頑張りを見せると予想します。助け合いの精神も、ますます顕著になるはずです。
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夏時間に変わって20時でも外はまだ明るい

――ロックダウン後の買い出しはどのようにしていますか? 買い占め、足りなくなっている物資はありますか?

週1回、パートナーが買い物をしてくれます。マスクと消毒液はずっと入手困難ですが、それ以外のものは普通に買えます。ロックダウンが始まったばかりの頃は買い占めが多く、トイレットペーパー、米、ビールが欠品したこともありました。最近は安定しています。

――ロックダウン後の食事は自炊? もしくは宅配か外に買いに出たりしますか?

いつもと変わらず自炊です。今は他にやることもありませんから。

――国からはどのようなサポートがあるのでしょうか?

私の場合、従業員2人を抱える小さな会社「タジェール・クー(http://tallerkuu.com/)」の経営者という立場です。3月30日から出勤できなくなっている従業員に対しては、政府から給与の75%にあたる一時失業手当が給付されます。これは一時的な特例であり、年金には影響しません。

経営者としては、3月に発行される請求書の総額が規定以下の場合、600ユーロ(約7万2000円)の補助金が出ます。つまり最低賃金程度の収入はもらえるということです。銀行から借り入れが必要な場合は、通常よりとても低い金利で借りることができ、審査なしの簡単な書類のみで融資を受けられます。

社会保険は、私と従業員分を毎月各300ユーロ(約3万6000円)ずつ収めているのですが、今後6ヵ月は支払いがなくなりました。もしかしたら将来少しずつ支払うことになるかもしれませんが、現時点では明らかにされていません。一時失業になり賃貸物件に住んでいる場合は、家賃も政府が肩代わりしてくれるようです。政府はとても努力してくれていると感じます。

故郷などへの疎開で感染が一気に拡大


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新型コロナについて会見するアバロス運輸相 Pool Moncloa / Borja Puig de la Bellacasa

――日本の様子はどのように報じられていますか?

「新型コロナで東京五輪が延期になるかどうか」という報道はありましたが、五輪延期が決まってからはパタリと日本のことは話題に上らなくなりました。スペイン語圏である南米の状況の方が、頻繁に報じられています。

――現地から見て、日本の動きはどのように感じていますか?

不思議な感じを受けます。先日スペインの友人が言っていました。「まるで日本は竜宮城のようだね」と。夜飲みに出歩く人がいる、花見をするなと言っても花見に出てしまう、学校は休みなのに学童保育は開いていて、親たちは満員電車で通勤する……。多くの犠牲者が出て、急速にロックダウンしてしまった国から日本を見ると、日本の現状に対して心配してしまいます。

――もし、日本でロックダウンや緊急事態宣言が実施されることがあった場合に、気をつけるべきことや、アドバイスするとしたらどんなことがありますか?

親のいる故郷などに疎開しないことを、おすすめします。イタリアやスペインでは、これが感染拡大の原因になりました。そして他人のことを考えて、買い占めを控えてもらえればと思います。スペインでは買い占めのせいで、しわ寄せを受けて大変な思いをした人たちがいるので、先にお伝えしたいです。

何もかも買い占めなくても、あるものを工夫すればなんとかなるんだということ。そして、生きてゆく上で何が必要なのかを見直すべきときにあるのではないか、と個人的には思います。

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