「エール」5話 誰にでも見たことのない顔がある。大人も子供も悩んでいる。こんなときこそ“エール”を
イラスト/おうか

第1週「初めてのエール」5回〈4月3日 (金) 放送 演出・吉田照幸〉


「エール」5話 誰にでも見たことのない顔がある。大人も子供も悩んでいる。こんなときこそ“エール”を

「あっという間のような、でも長かったような……」

これは「おはよう日本 関東版」に今週から登板となった桑子真帆アナウンサーの一週間(月〜金)の感想。
ただし「エール」のことではない。「おはよう日本」の担当になったことについでである。

「朝ドラはおいおい……」(高瀬アナ)だそうです。

「エール」の第1週に関して、桑子アナの真似して言えば「あっという間のような、ちょっと短かったような……」かもしれない。
火曜日に音楽に出会い、水曜日に恩師・藤堂及び、生涯の友・久志と出会い、木曜日に妻・音に出会い、金曜日は音楽の才能に目覚め、世界の裏側を知る。世の中は、大正の好景気から、一転、第一次世界大戦が終わって不景気に。
……という感じで、駆け足で進んだ。

「エール」から週5日に短縮になるので、本日が1週めの終わり。6回あるのとないのとではやっぱり感覚が違う。5回は短いなと週6に慣れている身としては感じる。そのうち慣れるんだろうけれど。

藤堂先生の名言

突如、閃いた裕一(石田星空)の音楽的才能。
藤堂先生(森山直太朗)が出した作曲の宿題に、最初は悩んでいたが、すばらしい曲を考えついたようで、それを見て驚いた先生が、裕一の家を訪ねて来る。

「裕一くんにはたぐいまれなる音楽の才能があります」

子供が生まれた喜びに三郎が奮発して買ったもののひとつ・蓄音機(もうひとつはレジスター)が英才教育になったのかもしれず、裕一がはじめて褒められたことが嬉しい三郎(唐沢寿明)。

先生は裕一に言う。


「人よりほんの少し努力するのがつらくなくて、ほんの少し簡単にできるもの」
「それが見つかったらしがみつけ。必ず道は開く」

これはドラマを見ているたくさんの人達へのメッセージに感じた。例えば、私にとっては朝ドラレビューがそれに当たるのかもしれない。「あまちゃん」からはじめて、朝ドラについて論じた「みんなの朝ドラ」(講談社新書)も出せて、毎日朝ドラレビューをはじめてもう5年続いているから。「エール」が6年目で、お試しで毎日当日レビューをやってみたが、なんとか5日間は当日レビューできた(来週は未定)。


裕一アップ、鉄男ダウン

藤堂が店に来たとき貧乏そうに見えて追い返そうとした三郎が、息子を褒められてすっかり嬉しくなって。藤堂の存在価値は三郎のなかで大きく変わったことだろう。
それと同じで、これまでずっと冴えない日々を送っていた裕一の状況がにわかに変わってくる。音楽の才能によって注目されるようになったのである。

すっかりいい気分になった裕一は、ハーモニカ部にも入る。三郎には、音楽家垂涎の高価な楽譜(表紙は竹下夢二)を買ってもらう。

だが、みんなに相手にされてなかった裕一に光が当たると、それ以外の暗い部分が見えてくるもので……。楽譜を買ってくれた父の家業は不景気によって風前の灯になっていることを裕一は未だ知らない。


いつも陽気に振る舞っている三郎が横になって頭を抱えている場面。ポン、ポンっとピアノの音がしたあと、無音の間に三郎の苦悩の表情、そこからまたピアノ曲に戻って場面が変わる。この間合がすごく良かった。編集センスが光る。

三郎は、妻にも子供にも見せないところで、悩ましい顔をしている。
無敵のガキ大将と思っていた鉄男(込江大牙)にも違う顔があった。
家業の魚屋・魚治を手伝っている鉄男が腐った魚を売ったと大人に殴られている姿を目撃する裕一。しかも、学校をやめるかもしれなという噂もあると久志から聞く。

そんなとき、せっかく買ってもらった楽譜をいじめっ子に奪われそうになり必死で逃げたが(やっぱり10歳過ぎたら足が速くなったのか)、奪われてしまい、思わず「やめろ」と叫ぶと、鉄男が助けてくれた。

「はじめて本気で声出したな」
「その声に免じて助けてやっただけだ」
鉄男はぶっきらぼうに去っていく。

鉄男の落とした本を届けに裕一が魚治に行くと、いつも陽気にふるまっていた主人・村野善治(山本浩司)が鉄男に暴力を振るっていた。

「魚治さんの見たことのない顔でした」(ナレーション・津田健次郎)
え。
こんなところで「つづく」!? 
なんかもやもやする〜〜。

第2話では「悔しいことを笑ってごまかすな」と言っていた鉄男の言葉の意味がわかってくる。笑ってごまかすこともできないほど鉄男は辛い状況にあるようだ。

たぶん、大人も子供も、悩んでいる。こんなときこそ「エール」?

存在感はあるのに 気配を消すのが得意な久志

裕一に音楽の才能が芽吹いて、順風満帆かと思ったら、そうでもなく、なんか影を落とした第5回であったが、救いは、お金持ちのお坊ちゃん・久志(山口太幹)。「ちびまる子ちゃん」の花輪くん的のような、「エヴァンゲリオン」のカヲルくんのようなキャラだが、いつも突然表れるというご都合的な部分を「存在感はあるのに 気配を消すのが得意なんだ」というキャラの特性に転じ、さらに存在感を増して見せた。
ひとり語りになってしまいがちな裕一の会話相手にちょうどいい久志を、こういうおもしろキャラにすると生きてくる。

人間はちょっと秀でると妬まれるという真理を裕一に説く。

裕一「(家柄とかお金持ちのこと以外の)君の何を?」
久志「伝わらないならいい」

ここ、おかしかった。
飄々としておかしいけど、鉄男がひどいめにあっているのを目撃して「やあ」と声をかけてしまう裕一に「『やあ』はまずいんじゃない?」と極めて常識的なことを言う。ぶしつけに表れるようで、いいタイミングを見計らっているキャラのようだ。
子役もかわいいけれど、早く山崎育三郎にならないかなあ。

明日土曜日は、はじめての「一週間の振り返り」。
レビューはお休みです。
(文/木俣冬、タイトルイラスト/おうか)

番組情報


「エール」5話 誰にでも見たことのない顔がある。大人も子供も悩んでいる。こんなときこそ“エール”を

連続テレビ小説「エール」 
◯NHK総合 月~土 朝8時~、再放送 午後0時45分~
◯BSプレミアム 月~土 あさ7時30分~、再放送 午後11時~
◯土曜は一週間の振り返り

原案:林宏司
脚本:清水友佳子 嶋田うれ葉 吉田照幸
演出:吉田照幸ほか
音楽:瀬川英二
キャスト: 窪田正孝 二階堂ふみ 唐沢寿明 菊池桃子 ほか
語り: 津田健次郎
主題歌:GReeeeN「星影のエール」
制作統括:土屋勝裕 尾崎裕和
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