「エール」12話 裕一の優しさから生まれた曲が演奏会に選ばれて、ますます音楽の道に近づく
イラスト/おうか

第3週「いばらの道」12回〈4月14日 (火) 放送 演出・吉田照幸〉


「怒っとか負けねえとか君には似合わねえ」

定期演奏会のためのオリジナル曲を考える裕一(窪田正孝)。
尊敬していた舘林会長(川口覚)が急に福島ハーモニカ倶楽部を辞めて家業を継ぐと言い、裕一の音楽の夢を壊すようなことを言ったため、悔しくて作曲に励むが、全然曲ができない。

なんとしても舘林を見返したいと遮二無二なるも、楠田史郎(大津尋葵)に裕一らしくないと言われる。

「怒っとか負けねえとか君には似合わねえ」
音楽は「その人の個性が出るものだろ」「いまの君は君じゃない。君じゃないから書けないんじゃないかな」と。

「エール」12話 裕一の優しさから生まれた曲が演奏会に選ばれて、ますます音楽の道に近づく
写真提供/NHK

史郎はかつて自分たちが裕一を虐めていたとき、いやがりはしても恨まなかった裕一の「優しさ」を買っていた。
虐めを棚にあげて何言ってんだ? という気もしなくはないが、子供のときの無邪気な過ちということなのだろうか。

楠田史郎、藤堂先生(森山直太朗)、関内安隆(光石研)に続く、いいこと言う要員になっているが、楠田史郎というキャラなりのセリフではなく、別の誰かが言ってもいい汎用性のあるいいセリフを語っている印象。「僕が語るのもおかしいけど」と実際言ってるし、そう思って見たが、11話で描かれた、彼がハーモニカの「バス」という地味なパートをやっていたことが裕一の曲に影響を与えることになったので、少しほっとした。よく見れば、カフェでいつもケーキ(シベリア?)を食べているという個性が付与されていた。裕一は食べてないのに。

このエピソードから裕一は、「怒り」や「勝つ」という概念から曲を作るのではなく「優しさ」から作ること、忘れ去られがちなものに目を向けることで曲を作っていくのだろうと想像できる。

「僕を否定したのになんでですか?」

青い照明の下、舘林の「明日に奏でる」対 裕一の「思い出の徑」投票はデッドヒートを繰り広げたが、一票差で舘林に。と思ったら、舘林は卒業生たちにも投票を募り、その結果、裕一の曲が選ばれた。
史郎は、舘林は現実主義者で、本当にいい曲を選びたいと思っているのだろうと言う。史郎はやけにヒトを見る目がある。

子供の頃は、いじめっこについていたほうが得だと思っていたのかも。そう思うと、“調子のいいキャラ”として説得力は出てくる。

舘林は、11話では「身の程を知ることも大切だよ」などと青い照明を浴びながら急に意地悪そうになったにもかかわらず、12話ではまたいい人になり、ビゼーの「カルメン」を演奏したあと、「君の才能に嫉妬している。ただ同時に才能を無駄にしてほしくないとも思う」と言って、東京に行けとか、ピアノをいくらでも使ってくれとか俄然親切になる。

裕一の作ってきた曲を見て、気持ちを変えたのかもしれない。自分は音楽の道を進める才能がないとわかってきっぱり諦めたのも音楽をよくわかっているからこそなのかも。
その描き方には、第1週の後半で描かれた、鉄男のお父さんが気の良い人に見えて実はとんでもなく生活にだらしない人だったことがわかったことと相通じるものがあるように思う。また、権堂茂兵衛(風間杜夫)や源蔵(森山周一郎)もそう。見える角度で人は違って見える。

あやしい京都弁の人に騙された

人はその時によって、光の当て方によって変わるものとはいえ、三郎(唐沢寿明)が取引している吉野福之助(田口浩正〉はどう考えてもあやしかった。案の定、騙されていたことがわかる。京ことばもなんかへんだったし、京都の人でもないのではないか。
連帯保証人になってしまった三郎は、まさ(菊池桃子)の実家に頼る。


「だって…わたしたち家族でしょ?」と頭を下げるまつに「家族」じゃないと突き放す茂兵衛の顔には黒々とした影が。再婚しろと言われて困っているので、融資する代わりに裕一か浩二のどちらかを養子を出せと言う。病弱の奥さんのことはすごく考えているみたいだけど、それ以外の人には強気に出る茂兵衛なのである。

何も知らない裕一は、オリジナル曲も絶賛されて、卓上ピアノではなくちゃんとしたピアノも使えることになって、喜多一は弟が継いでくれるし…と音楽への希望に胸が膨らむ一方。
でも、メトロノームのカチカチ音が、危機が迫る音に聞こえてきた。

ちなみに、今回の裕一の曲の題名は「思い出の徑」。6回で鉄男の詩につけた曲は「浮世小路行進曲」。裕一は“道”というモチーフが好きらしい。それもいまのところ“小道”。もしかして大河ドラマの「大河」に対して「小道」? 考えすぎ?

〈今日の窪田正孝〉は、丼いっぱいの納豆をぐりぐりかき混ぜて、もりもり食べている姿。意外とがっしりして見えた。
(文/木俣冬、タイトルイラスト/おうか)

(これまでの木俣冬の朝ドラレビューはこちらから)

「エール」12話 裕一の優しさから生まれた曲が演奏会に選ばれて、ますます音楽の道に近づく
写真提供/NHK

番組情報

連続テレビ小説「エール」 
◯NHK総合 月~土 朝8時~、再放送 午後0時45分~
◯BSプレミアム 月~土 あさ7時30分~、再放送 午後11時~
◯土曜は一週間の振り返り

原案:林宏司
脚本:清水友佳子 嶋田うれ葉 吉田照幸
演出:吉田照幸ほか
音楽:瀬川英二
キャスト: 窪田正孝 二階堂ふみ 唐沢寿明 菊池桃子 ほか
語り: 津田健次郎
主題歌:GReeeeN「星影のエール」
制作統括:土屋勝裕 尾崎裕和
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