第3週「いばらの道」13回〈4月15日 (水) 放送 演出・吉田照幸〉

「エール」13話 演奏にも泣けたけど、窪田正孝の体育座りに泣けた
イラスト/おうか

「いつもヘンだよ」

福島ハーモニカ倶楽部の定期演奏会当日。

史郎「裕一がなにかヘンです」
舘林「いつもヘンだよ」

ヒトを見る目がある史郎(大津尋葵)が訴えても、舘林(川口覚)は軽くいなしてしまう。
そして幕は開き、裕一(窪田正孝)はハーモニカを吹き始める。

それを観に来ている三郎(唐沢寿明)視点で、回想がはじまる。

「俺、やっちまったんだ」

演奏会の日の前に、三郎(唐沢寿明)が裕一(窪田正孝)に養子の話をしていた。
インチキな男・吉野福之助(田口浩正〉に騙されて保証人のハンコをついたために莫大な負債を抱えてしまった喜多一。その借金を、資産家の茂兵衛(風間杜夫)に肩代わりしてもらう代わりに、古山家の息子・裕一と浩二のどちらかを養子に出さないとならない。浩二は喜多一を継ぐことに決めたばかり。裕一しかいないのであった。

「エール」13話 演奏にも泣けたけど、窪田正孝の体育座りに泣けた
写真提供/NHK

「母さん……母さんなんて言ってんの」

「カルメン」が終わって、いよいよ裕一の「思い出の徑」に。
舘林は、裕一を観客に紹介し、指揮も譲る。
そこで、また回想。

「母さん……母さんなんて言ってんの」
「茂兵衛おじさん、僕でいいって言ってんの? 僕、何もできないよ」

裕一は、体育座りで父と向き合い、ぼそぼそと言う。このセリフから、ショックと嫌だという気持ちがひしひしと。

膝を抱える姿にナイーブな少年らしさが出る。ここで正座をしてしまうと、窪田正孝は意外とがっしり骨っぽいので、日本版ジャック・バウアーをやるほど強いとはいえ超小顔の唐沢寿明と比べて迫力が出てしまう。ウィキペディア情報によると、二人とも身長が175センチとある。
ここで対等に見えてしまってはよろしくない。体育座りによって、いくらダメ父とはいえ、かろうじて父が上という対比になるし、少年が父の言うことに不服であることも感じられる。

それにしても、他人に家を継がせたくないとはいえ、お金のために子供を養子に出すなんて……。

「エール」13話 演奏にも泣けたけど、窪田正孝の体育座りに泣けた
写真提供/NHK

「残酷だよ父さん」

裕一は家族のために我慢するしかないと「今度の公演で最後にする」と部屋を出ていく。そのとき、複雑な親子愛の証のような蓄音機(弟の誕生祝いだったが裕一の音楽教育の発端になった)が見守るように映っている。

三郎「こんなこと言うのはなんだけど、諦めんなよ」
裕一「残酷だよ…父さん」

父とのやりとりを思い出しながら、指揮する裕一。
曲の哀調が回想の父と子のやりとりの劇伴のように響く。
せっかく、これから音楽を思う存分やれるーーと思ったときに、川俣に養子に行かなくてはならなくなったという運命のいたずら。部屋にこもって、楽譜を破り、嗚咽する裕一。

演奏シーンと回想シーンが交互に映し出されることで、指揮棒を振るう裕一の感情が伝わってくる。
「怒っとか負けねえとか君には似合わねえ」「(音楽は)その人の個性が出るものだろ」と12回で史郎に言われた裕一の音楽は優しさでできていくのかと思ったら、哀しみや絶望が成分となり、観客の心を震わせるという皮肉。
三郎も大泣きである。まさ(菊池桃子)はそれになんの反応も示さず、息子の演奏を堪能している様子。
またそれも悲しさを増幅させる。「母さんなんて言ってるの?」と気にしていた裕一に、お母さんは何も話していないのだろうか。
あとで、裕一に書いた手紙が出てきて、母なりの想いは伝わるのだが……。


「もっと感傷的な人間かと思ってた」

演奏が終わり、頭をうんっと下げて挨拶する、逆さまの裕一の顔。
演奏会のあと、みんなに倶楽部を辞めると挨拶し、淡々と過ごし、とても美しい山の風景(濃淡のあるピンク色が一面で美しい)が映る。
出発の日の前日、浩二と話す裕一。

裕一「珍しく感傷的だな」「意外。もっと淡白なやつだと思ってた」
浩二「おれ逆に、にいちゃんのこと、もっと感傷的な人間かと思ってた」

いやあ、感傷的な、あまりにも感傷的な人だと思うぞ、裕一は。人間は一面的ではないということをやっぱりずっと書いている「エール」。「もっと感傷的かと思ってた」と言われて、ふっと動きを止めるところと、見送りのとき三郎に「つれえことあったらいつでも帰ってこいよ」と言われて、ふっと眉をひそめてから笑うところ。相手にはけしてわからぬ裕一の諦念みたいなものが伝わってくる。このときの裕一の気持ちを史郎なら理解できるであろうか。

三郎も、養子に出しておいて「いつでも帰ってこいよ」とはよく言うよなあと思う。
「こんなこと言うのはなんだけど、諦めんなよ」もそうだし。こんな三郎の、どんなにダメでも呑気なところがあって、それが救いでもあるしヒトを傷つけもする人間のやりきれなさを表現する唐沢寿明の演技と、窪田正孝の捨てられた子供のような演技があまりに迫真で、朝から胸が苦しくなったところ、それを救うように、川俣銀行の従業員が底抜けに明るい人達ばかりで救われた。

「エール」13話 演奏にも泣けたけど、窪田正孝の体育座りに泣けた
写真提供/NHK

ここから、川俣編? もう週末のように感じてしまうが、まだ水曜日。演奏と回想を交互に映したり、従来の曜日感覚をずらしたり、いろいろトライしているように感じる。春の福島の山や、列車のなかで裕一が見る青空。風景画像にもいい画を使おうという気遣いがあるように思う。

〈今日の窪田正孝〉体育座りで「母さん……母さんなんて言ってんの」 それに尽きる!
(文/木俣冬、タイトルイラスト/おうか)

(これまでの木俣冬の朝ドラレビューはこちらから)


番組情報

連続テレビ小説「エール」 
◯NHK総合 月~土 朝8時~、再放送 午後0時45分~
◯BSプレミアム 月~土 あさ7時30分~、再放送 午後11時~
◯土曜は一週間の振り返り

原案:林宏司
脚本:清水友佳子 嶋田うれ葉 吉田照幸
演出:吉田照幸ほか
音楽:瀬川英二
キャスト: 窪田正孝 二階堂ふみ 唐沢寿明 菊池桃子 ほか
語り: 津田健次郎
主題歌:GReeeeN「星影のエール」
制作統括:土屋勝裕 尾崎裕和
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