「あつまれ どうぶつの森」、通称・あつ森に登場する「博物館」は実際どれくらい本格的に作り込まれているのか? 博物館のモデルともされる国立科学博物館(以下、かはく)の化石研究者に、あつ森の博物館を案内してもらう当企画。
前編(※関連記事参照)では、地下にある「化石の博物館」のなかでも特に古代生物と小型恐竜の化石を中心に解説をお聞きした。
国立科学博物館でもなかなか見られない大型恐竜
――博物館の地下にある「恐竜の広場」には、真ん中に大きな恐竜が2体展示されていますね。
對比地孝亘(以下、對比地):ブラキオサウルスが展示されているのか。これができる博物館はたいしたもんですよ。
このブラキオサウルスって、こういう姿勢で組むとかなりの高さがあるので、天井が高くて広い博物館じゃないと無理なんです。
對比地:このディプロドクスもそうですね。こっちは横に長いんですよ。最大で25メートルくらいにもなります。
田中庸照(以下、田中):この2体は、かはくでもなかなか展示できない恐竜ですね。
對比地:いいなぁ。こんなに実物がそろっているなら、僕もこの博物館に就職したいな。
――就職したいという視点で考えたことはなかったです(笑)。かはくでもなかなか見られない化石をこの距離で見られるなんて、本当にあつ森は贅沢ですね!
化石だけじゃない! 展示方法へのこだわり
――この展示室の奥の方には隕石が展示されていて、逆側にある部屋の出口には地球に落ちる隕石の模型があります。
對比地:恐竜だから(絶滅の原因になった)隕石が展示されているんですね。
木村由莉(以下、木村):しかも、部屋にいる恐竜たちの頭の上を横切って、隕石が落ちるというイメージで作られていますね。この展示かっこいいな〜!
對比地:あと、隕石が部屋の出口のところに展示されているのも意味がありますね。この部屋は中生代の化石で、次の部屋は新生代の化石だから、ここに隕石が落ちているのはここが「中生代の終わり」であることを表しているのでしょう。
――なるほど、時系列にそって展示が並べてあるんですね。だからわざわざこの場所に隕石が!
對比地:これ絶対に恐竜を好きな人が作っていますね(笑)。
木村:展示方法が本当によく考えられていますよね。
木村先生も大興奮の化石 ”ジュラマイア”
――この隕石の手前には小さな化石がありますが、これはどういう意図なんでしょうか?
木村:ジュラマイアですね。私はこの博物館のすべての化石のなかで、これを置いたのが一番興味深いなって思ったんですけど、化石の展示方法もこれは本当にすごいです!
まず、ジュラマイアという化石自体がかなり貴重で、中国で1体しか見つかっていません。かはくにもないですし、私もほしいです。めちゃくちゃほしい。
それから、これは有胎盤類といって、ほ乳類の中でもカンガルーやコアラを除くグループ、いわゆる私たち人間に近いグループの祖先と考えられているんです。ほ乳類の研究上すごく重要な化石なので、それをこうやって展示できるのは羨ましい限りです。
――なるほど、このジュラマイアから進化して今の私たちがあるんですね。
木村:そうなんです。私は小さい化石の研究者なんですけど、小さい化石は展示してくれる博物館がそもそも少ないんですね。どうしても恐竜のような大きな化石に目がいきがちだし、小さい化石をいろんな人が見てくれるように展示するのって結構難しいことなんです。
そういう意味で、こうしてジュラマイアを来場者の目の高さに展示することで、小さい化石を「ちゃんと見よう」と思ってもらえるよう工夫してあるのはとてもいい。
さらに、この展示されている場所は、恐竜とほ乳類が枝分かれするところでもあります。ジュラマイアのようなほ乳類の小さな祖先をここに展示することで「これから恐竜がいなくなって、この小さいほ乳類がどんどん大きくなって多様化するぞ!」という進化の流れもわかるようになっている。
木村:化石も展示もとてもいいし、私もこのジュラマイアはほしいです。買えないかしら。
――なるほど…! 今まで「なんで恐竜の部屋にこんなに小さい化石があるのかな?」と思っていたんですけど、今の話を聞いて考えが180度変わりました。進化について正しく学ぶために、ここに置いてあったんですね!
最新の学説に沿った哺乳類の化石たち
――最後は「奥の間」、ほ乳類の化石が展示されている部屋です。
木村:このスミロドン、かはくにあるスミロドンみたいにアゴを大きく開けていますね。開けている角度は絶妙ですよ。おそらく、スミロドンの最大角です。
木村:昔はアゴを空けたときの角度が最大で120°にもなるという研究がありましたが、最近では「さすがにそれは開けすぎ」といわれるようになってきました。あつ森では新しい説を取り入れてますね。このスミロドンはきっと右足で獲物をおさえているんでしょうね。
――確かに、これを最初に見たときちょっとアゴ外れてるなと思っていました。
木村:それから、左にあるメガセロプスはちょっとマニアックな化石ですね。
木村:この部屋の化石は、比較的メジャーなほ乳類を選んでいるんですけど、メガセロプスだけは、結構ほ乳類に詳しくないと聞かない名前だと思いますよ。
メガセロプスはサイなどと違い、ツノが骨で出来ているので化石になって残ることが特徴です。かはくには頭しか展示していないので、どこかの標本を参考にして骨を組んでちゃんと再現されていますね。
かはくの場合はメガセロプスを「ブロントプス」という名前で展示しています。ただ「今までブロントプスと思われていたものは実はメガセロプスだったのではないか」という新しい研究成果が出ました。フータ館長は新しい説を展示に取り入れるのが早いですね。
――そうなんですね。博物館の展示だけじゃなくて、最新の研究成果まで取り入れられているなんてすごいです…!
すべての線にこだわりがある「系統」図
――部屋の奥には、巨大なツノを持つシカが飾られていますね。
木村:メガロケロス、オオツノジカの化石ですね。この化石はその中でも成体のオスのものです。
老体はツノの装飾が少し小さくなるみたいなので、ここまで立派なツノがあるのはある程度若い成体のようです。それから気になっていたんですが、メガロケロスの系統はシカなどに繋がっているんですか?
――そうです。この部屋は下の階に化石があって、上の階にその化石から進化した現代の動物がイラストで展示されています。このメガロケロスに一番近いのはシカで、さらに隣にはウシ・カバ・ブタなどのイラストがありますね。
木村:おお、すごいですね。そこは「偶蹄類」というグループで、メガロケロスと近い生き物がちゃんとまとめてありますね。
それからこの床の系統は、生き物によって「線が分かれている位置」が違いますね。
例えば、ネズミとウサギは隣同士だけど、系統の線はかなり遠くのところで分かれている。逆に、同じ隣同士に描かれていても、ヒトとアウストラロピテクスの線はすごく近くで分かれている。
実際、ネズミとウサギは生き物として近いもの同士です。でも、進化の過程でネズミとウサギが分かれたのは、ヒトとアウストラロピテクスが分かれるよりもずーーーーーっと前なんです。そんな進化の分かれ道も枝の位置で表現されていますね。
この部屋に置かれている新しい哺乳類は特にそうなんですけど、新しい学説や分子系統解析などを知っている方が作らないと、なかなかこういう細かい点まで作り込むことはできません。もちろん、いま知られている系統樹とフータの仮説は異なる部分もありますが、丁寧ですし、うまく作ってありますね。
――なるほど、線1本にもこだわって作られているんですね! そして、この化石の博物館のラストの場所には、ヒトが来るとライトがつくスポットがありますね。
田中:いろんな進化の先に、自分たちがいるということですね。最後に自分(現代人)が入って展示が完成するという方法は、かはくの日本館2Fでも使われていますね。
木村:これ、ヒトと他の動物が同じ部屋にまとめてあるのが画期的だなと思います。
博物館ではヒトと化石の展示を分けることが多い。かはくでも「化石のほ乳類」のあとに「人類」の展示が始まるんですが、これだと化石の動物が絶滅した後にヒトが現れたように見えてしまうんですね。
でも、化石になったマンモスやスミロドンが生きているときも、ヒトというグループは存在していて、同じ時代を生きていたんです。
――とてもおもしろいです! 実際の博物館をもとにしているだけではなく、より良く改善されている点まであるんですね。
本物の博物館ってどういうところ?
――ここまで博物館をすべて回って「自分だったらこうしたい」と感じたところはありましたか?
木村:寄贈の方法ですかね。この博物館って、ひとつ展示されているものはもう寄贈できないんですよね?
――そうですね。鑑定して、すでに展示されている化石は博物館には引き取ってもらえなくて、自分の庭に飾ったりお店に売ったりすることになります。
對比地:なんてもったいない!(笑) かはくだったら絶対にそんなことしないですよ。全部受け入れて標本庫にしまいます。
木村:かはくで仕事を始めて、すごく感銘を受けた言葉があります。動物研究部の川田研究主幹が、標本収集の心得としている「無目的・無制限・無計画」です。「その時に目的がなくても、とにかくその標本を収集する」ということですね。同じ種類でも「いまのカモシカと100年後のカモシカでは地理的な分布が違うのか」とか「同じ動物の若い頃と大人は違うのか」など、同じ種類の標本がたくさんないとできない研究があるんです。だから(ゲーム内でよく言う)ダブりも大事で、個々に標本番号をつけてきちんと管理しています。
あつ森博物館の化石にも標本番号つけたいなぁ……。
對比地:博物館って、皆さんにいろんな知識を持っていただくための「展示」ももちろん大事なんですけど、最も大事なミッションは研究や標本をちゃんと管理して、半永久的に見られるようにしておくという「保存」や「保管」なんですね。
展示や収蔵庫で標本を管理して、100年先の人間に伝えていくのが博物館という場所なんです。もし、あつ森のようなゲームを通して、そのことを知っていただければありがたいなぁと思いますね。
――なるほど、私も博物館というと展示が見られる場所というイメージがあったので、博物館が実際はどういう場所なのかをお聞きできてよかったです。では、最後に一番お気に入りの化石をお伺いしてもよろしいですか?
木村:私はやっぱりジュラマイアですね。それから、この博物館を作った任天堂の方ともお話してみたいです。どう作ったのか聞いてみたい。
――その対談、ぜひ実現してほしいので記事にも残しておきます!
對比地:僕は、こんなこというと恐竜学者なのに! と怒られるかもしれないけど、アカントステガが一番欲しいな(笑)。
それから、やはり恐竜ではないですが翼竜のケツァルコアトルスかな。でも、それ以外の化石も含めて、こんなにそろっている博物館なんて世界のどこにもないですよ。
木村:確かに。本当にいい博物館ですね。
――お話を聞いたおかげで、あつ森の博物館だけでなく、博物館がどういう場所なのかも知ることができました。実際の博物館もあつ森の博物館も、これからもっと楽しめそうです。今日はありがとうございました!
【前編】「あつ森」博物館は恐竜の最新学説に則った展示をしている?
【新作】あつ森、花の交配はどれくらい正しいの?
■まいしろ
社会の荒波から逃げ回ってる意識低めのエンタメ系マーケターです。音楽の分析記事・エンタメ業界のことをよく書きます。
Twitter:https://twitter.com/_maishilo_
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国立科学博物館 VRについて
国立科学博物館では、現在バーチャル体験コンテンツ「おうちで体験! かはくVR」を公開中。館内にいるような3DビューとVR 映像を自宅で楽しめる。今回紹介した展示をVRで楽しめるほか、研究者が自身の研究内容や、かはくの展示のおもしろいポイントを伝えるYouTube「【国立科学博物館公式】 かはくチャンネル」も公開されている。