あつ森、花の交配はどれくらい正しいの? 「青いバラ世代」のかはく研究員に聞いてみた

あつ森、花の交配はどれくらい正しいの?  「青いバラ世代」のかはく研究員に聞いてみた

ニンテンドースイッチ史上最大のヒットと言われる「あつまれ どうぶつの森(以下、あつ森)」。気ままな無人島暮らしが楽しめることが魅力のゲームだが、博物館や島の生態系などがかなり作り込まれており、これまでもネットを中心に大きな話題を呼んできた。あつ森の博物館に関しては、国立科学博物館(以下、かはく)の化石研究員にインタビューしているのでそちらも確認してほしい(※関連記事参照)。

なかでも最近話題のひとつとなっているのが「青いバラ」だ。あつ森には「交配」と呼ばれる花どうしをかけ合わせて新しい花を生み出す方法があり、「青いバラ」はその交配で得られる花のなかで最も難易度が高い花とされている。

では、この「青いバラ」の交配の仕組みは実際どれほど作り込まれているのだろうか? 今回はかはくの研究員で、実際に青い花を専門に研究されている水野貴行さんに「青いバラ」についてのお話を聞いてみた。
あつ森、花の交配はどれくらい正しいの?  「青いバラ世代」のかはく研究員に聞いてみた

青いバラって本当にあるの?


――あつ森でもっとも咲かせるのが難しいと言われている「青いバラ」ですが、現実に青いバラってあるんでしょうか?

水野貴行(以下、水野):ありますよ。有名なのは「グレイパール」や「スターリングシルバー」といった品種ですね。これは遺伝子組み換えではなく、交配だけでがんばって青を目指て作られたものです。青系と呼ばれますが、皆さんのイメージする青とは違うかもしれません。

それから、青いバラに憧れた日本人が作った「青龍」という品種もあります。
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(左上)グレイパール、(左下)青龍、(右)スターリングシルバー「写真提供:渡邉途子」

特にグレイパールは70年以上前に作られたもので、そんなにも前から青いバラを作りたいと思って目指していた方々がいたんです。

――花の中でも「青いバラ」は特に咲かせるのが難しいんでしょうか?

水野:そうですね。まず、青色というのは複雑な色で、元々はアントシアニンという赤の色素に青くなる様々な要素が関わってできているんです。つまり「赤から紫、紫から青……」とステップを踏んで青くしないといけません。
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さらに、バラの場合は青くなるために必要な要素を、そもそも持っていなかったとされています。そのため、遺伝子組み換えで作られた青いバラはパンジーに含まれる遺伝子を入れているんですね。

――あつ森でも「青いバラ」はかなり難しく、咲かせるまでに1カ月ほどかかることも多いようです。

水野:早い!! 1カ月で青いバラができるなら、僕もあつ森始めようかな……。

――(笑)。青いバラって実際はどれくらい時間がかかるものなんでしょうか?

水野:遺伝子組み換えの青いバラは1990年に開発が始まり、20年以上かかって作られたものです。育種(※改良した品種を作ること)って大量の時間と労力がかかるんですけど、青いバラは特に大変です。

バラは野生の品種も多いし育種もかなりされている花なんですが、その中でもやっぱり本当の青ってなくて、青いバラはもう幻のようなものなんです。

だからあつ森で青いバラが作れるってなれば、僕もあつ森やろうかなって思いますよね(笑)。

――やはり「青いバラ」って憧れの存在なんでしょうか?

水野:僕らの世代で花を扱っている研究者は、皆さん少なからず「青いバラ」に影響を受けて花の研究者になっていると思います。

僕も、この道に進んだ理由のひとつは2007年にかはくで青いバラの実物を見て感動したことでした。いわば僕たちは「青いバラ世代の研究者」なんです。
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――青いバラ世代の研究者……! とてもロマンのあるお話です!!

あつ森の「交配」はどれくらい正しいの?


――交配について、まずはあつ森のバラの基本的な交配がこちらです。
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水野:赤と白でピンクになる、赤と黄でオレンジになるといった交配は現実のイメージに近いですね。

それから、白と白で紫になるのは何か裏がありますね。花って本来、赤や黄などの色素の遺伝子を持っていないと白になるんですよ。

でもこれを見る限りだと、あつ森のバラにはわざわざ「白色にするための遺伝子」が入れてありますね。そのせいで交配が難しくなっていますが(笑)。実際にスイートピーという花の補足遺伝子など、花を白色にするような遺伝子もあります。

――すごい! ゲームをしながら、きちんと遺伝について学べる内容になっているんですね!

水野:そうですね。それから「黒いバラ」の作り方もリアリティがありますね。現実にある黒い花って、アントシアニンという赤い色素を大量に溜め込んだ結果、黒に見えているんです。

実際はもう少し複雑な部分もありますが、赤いバラと赤いバラをかけあわせて黒いバラができるのは、恐らくそれを知った上で組み合わせてあるんだろうと思います。

――ちなみに、黒いバラに金色のジョウロで水をかけると「金色のバラ」も咲かせられます。
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水野:それはたぶんジョウロに金粉が入っていますね。でも、実際に光る花というのもありますよ。

花びらに含まれるアントシアニンという色素は、普通は水に溶けてるんですけど、たまに固まることがあるんです。その塊に光があたると、キラキラしたラメが入っているように見えるんです。

バラではないですが、カーネーションなどではそういうラメのように光る品種が作られています。

――まさか光る花まで実在するとは、思っていた以上に花って奥が深い世界なんですね……!

水野:それからおもしろいのが、「花の色」って通常、2つの色素の遺伝子、アントシアニンという赤い色素のための遺伝子と、カロテノイドという黄色い色素のための遺伝子があるんです。

「花の色」というひとつの性質を作るために、いくつもの遺伝子が関わっている状態を「複対立遺伝子」と呼ぶのですが、あつ森の交配でもその複対立遺伝子の考えが取り入れてあるようですね。
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――なるほど! 花の色に関する基本的な遺伝の仕組みをちゃんとおさえてあるんですね。そしてこれが、あつ森の「青いバラ」のもっとも有名な交配手順になります。
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水野:これは……。生物を学ばれた方が作ってますね(笑)。発見したゲームのプレイヤーもすごいです。メンデルになれるかもしれませんね。

――修道院でエンドウを育てて遺伝の法則を見つけたという、「遺伝学の祖」のグレゴール・ヨハン・メンデルですね。

水野:そうですね。これより良い交配の方法はないんじゃないかな。むしろ、メンデルの再発見(※生前あまり注目されなかったメンデルの研究を、彼の死後に3人が同時期に取り上げたという歴史上の出来事)と言うべきでしょうか。

――(ギャグが高度だ……)。でも、それくらいよくできている方法なんですね。

水野:そうですね。メンデルの法則は遺伝について学ぶときに出てきますが、この青いバラも基本的にはメンデルの法則(分離の法則)に従って作られているようです。

実際の交配では、「連鎖」という遺伝子がうまく分かれない状態が起きたりするので、こんなにキレイにはいかないですけど、遺伝の基本をおさえてうまく作ってあると思います。

――実際の遺伝子の研究や、花の色の研究はかなり難しいイメージがあります。

水野:花の色の研究は、生物だけでなく化学の知識も必要になるのでとっつきにくくなってしまうんだと思います。青いバラも、ネットで実際の研究について調べてみると、すぐに(化学式の)亀の甲とかが出てきちゃうんですよね。

――確かに、化学式が出てくると急に難しそうに見えてしまいます……。

水野:でも、亀の甲の図もずっと見てるとだんだんかわいく思えてくるんですよ! あつ森ファンがこれをきっかけに花の色に興味もってくれると嬉しいですよね。
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――化学式をかわいいと思ったことはなかったです……!(笑) でも、お話を聞いていると本当に楽しそうなので、これをきっかけにもっと花について勉強してみたいという気持ちになりました。

バラ以外の花からわかることは?


――あつ森にはバラ以外にも花があり、季節によってお店で買える花が変わります。
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水野:花を見る限りだと、春から夏がやや涼しい地域の島のようですね。関東地方の夏より快適かもしれません。あと、冬の様子を見ると雪が積もっていますね。

――そうなんですか? 舞台が無人島なので、てっきりトロピカルな南国だと思っていました………。

水野:それぞれの花のシーズンが、少し長くなっています。たとえばチューリップは6月まで咲いていますが、かはくの筑波実験植物園では(暑すぎて)6月にはもう花は枯れていますね。

それから、ここにパンジーが選ばれているのは納得です。冬に咲く花ってなかなかなくて、寒い時期に華やかなパンジーはありがたい存在なんですね(笑)。

実際、かはくの植物園も冬はほんとにパンジーに頼っていますし、恐らく、あつ森でも「もうパンジーしかないぞ!!」ってことでここに選ばれたんだと思います(笑)。
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――リアルなお話ですね(笑)。それから、バラだけはベストシーズンが1年に2回あるんですが、これは実際もそうなんでしょうか?

水野:「四季咲き」ですね。春と秋で2回咲くんですが、これはバラの非常に大切な性質です。中国原産のコウシンバラという種がもたらしたものと言われていて、いまの園芸用のバラでも四季咲きが好まれますね。バラの切り花が年中買えるのは四季咲きのおかげです。

この「四季咲き」は特定の花でしか見られないもので、代表的な花がまさにバラなんですね。

――なるほど! それぞれの花の性質もきちんと盛り込まれているんですね。

水野:そうですね。それから気になるのがユリです。

ユリにはおおまかに2種類あって、ヤマユリなどが元となっているオリエンタル・ハイブリッドという豪華なタイプと、スカシユリなどを元とするアジアティック・ハイブリッドという個性的なタイプがあるんですが、あつ森で咲いているのはアジアティック・ハイブリッドのユリに見えますね(最近ではそれぞれOHハイブリット、LAハイブリットと呼ばれます)。
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「写真提供:佐藤絹枝」

このアジアティック・ハイブリッドは、オレンジや黒などの鮮やかな色が多いのが特徴で、バリエーションも豊富です。そして、上向きに咲くのが特徴なのですが、あつ森のユリも上向きに咲いていますね。
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――思っている以上にきっちりと作り込まれていて驚きです。それぞれの花をじっくり見るだけでもたくさんのことが学べますね!

交配の方法はどれくらい作り込まれているの?


――では、最後に交配について見ていきます。あつ森では、だいたい1~2日で花が咲くようになっています。

水野:夢のようです(笑)。ユリなんて花を咲かせるだけで数年かかるのに……。

――ただ、すべての花を揃えるためには広大な花畑が必要で、かなりの時間もかかります。

水野:その点は実際の育種と似ていると思いますね。積極的な花の農家さんって、新しい花が出てこないか実験するための”遊びの場所”を持っているんです。

そこからめずらしい花が出たら拾って、さらに栽培して……実際の花農家さんもやってます。

――まさに私たちがあつ森でやっていることと同じですね。知らない間に私たちは花農家になっていたんですね……。
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水野:実際の農家さんは、花の色だけじゃなくて草丈や花の数など、もっと色々な性質を見ていますが、広大な花畑と時間が必要という点は似ていますね。

――何世代もかけ合わせないと出てこない花の色も多いんですが、これも実際と同じでしょうか?

水野:同じですね。遺伝ってそもそも、表に出てくる形質と、出てこない形質があるんです。これは顕性と潜性と呼ばれますが(※以前は優性・劣性と呼ばれていたが現在は表現が変更)、隠れていた潜性の色が2-3代目でやっと出てくるということはあります。

――なるほど、かなり忠実に再現されているんですね。それから、島の外からめずらしい花を持ってきて、自分の島でかけ合わせることもあります。
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水野:これも実際と同じですね。花も、野生種とかけ合わせることがあるんですよ。

たとえば、ある花がどうしても病気に弱くて、その病気に強い遺伝子がどうしても見つからない時に、もう一度野生種に立ち返ってかけ合わせたりするんですね。

なので、かはくの植物園では今すぐ我々の生活に必要のない野生種でも、種や株などの状態で膨大に保管しているんです。

――私たちの見えないところで、たくさんの植物が保存・保管されているんですね。

水野:そうですね。何に使えるかはわからないけど、もしかしたらいつかすごく必要になる植物種や遺伝子が眠っているかもしれませんから。

――なるほど、とても面白いです! ではラストに、あつ森で水野さんならこうしたいなと思うところをお聞きしてもいいですか?

水野:青いキクを入れたいですね! 遺伝子組み換えで作られた青いキクって今までに2回論文が出ていて、1回目は紫がかかった青色なんですが、2回目はキレイな青い色なんですよ。

せっかく青いバラがあるので、青いキクも入れたいなと思いますね。

――確かに、今のあつ森には紫のキクならありますが、青のキクはないですね。

水野:かはくの植物園でも、過去に青いキクを標本で展示したことがあります。
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所有:農研機構

――なるほど、お話を聞いていると知らないことがたくさんあり、本物の青いバラや青いキクも実際に見てみたくなりました。普段知らない花の世界を知ることができて、とても面白かったです! ありがとうございました!

もっと花の色や生物について知りたくなった人は、5月18日(月)より開園中のかはくの筑波実験植物園がおすすめです! 園内では、全部で3000種の植物について学ぶことができるほか、水野さん含む実際の研究者から直接説明を聞く機会もあります。普段知らない花の世界を、ぜひ楽しんでみてください!
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【インタビュー】「あつ森」博物館は恐竜の最新学説に則った展示をしている?/前編
【インタビュー】かはく研究員も就職したい『あつ森』博物館の魅力/後編

筑波実験植物園


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「世界の生態区」と「生命を支える多様性区」の2つに分けられ、約3,000種の植物が展示されています。「植物の多様性を知り、守り、伝える」ことを使命とし、日本に生育する代表的な植物をはじめ、世界の熱帯や乾燥地に生育する植物などを系統保存し、公開しています。

開園時間:9時~16時30分(企画展等の場合、延長することもあります)
休園日:月曜、祝日・休日の翌日、年末年始
入園料:一般・大学生 320円 高校生以下及び65歳以上無料
HP:http://www.tbg.kahaku.go.jp/(最新の情報はHPをご確認ください)

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