「あつ森」博物館は恐竜の最新学説に則った展示をしている? かはくの研究員に聞いてみた

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「あつまれ どうぶつの森」、通称・あつ森がニンテンドースイッチ向けソフトの売り上げで歴代トップになるなど、空前のヒットとなっている。あつ森は釣りをしたり化石を掘ったり、自分のペースで「無人島」での生活が楽しめることが魅力のゲームだが、見どころのひとつはなんといっても「博物館」だ。

博物館は、ゲーム上でつかまえたムシやサカナ、化石などを展示できるスポットだが、前作からかなりバージョンアップされ、建物の雰囲気から展示まで驚くほど本物の博物館そっくりに作られている。

なかでも「化石」の展示ゾーンは、東京・上野にある国立科学博物館を思わせるところが多く、ファンの間でも大きく話題となっている。というわけで今回は、あつ森の博物館を、実際に国立科学博物館、通称・かはくに勤める研究者と職員の方々に解説してもらい、その様子を前編・後編に分けてお届けする。
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60人分働いている博物館の館長・フータ


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―――こちらが「あつまれ どうぶつの森」の博物館のエントランスです。館長はフクロウのフータで、毎日化石を掘り出して彼に寄贈することができます。

對比地孝亘(以下、對比地):いいなぁ、理想の生活ですね。毎日化石を掘って暮らせるのか。

木村由莉(以下、木村):いい生活ですね。移住したい(笑)。

―――ただ、この博物館はフータがひとりで管理しています。

田中庸照(以下、田中):かはくは、1分類群につき研究者がひとりですね……。

木村:全部あわせると研究者は約60名ですよ。かはくは日本の博物館としてはすごく多い方ですけども。

對比地:フータ死ぬよ。過労死するよ。

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特に貴重な古代生物の化石はどれ?


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――では、化石の展示室は全部で3つあるんですが、まずは「廊下」の部屋を見ていければと思います。ここの展示は古代生物が中心ですね。

田中:床が、かはく地球館1Fの「系統広場」にそっくりですね。

木村:そしてこれ、床の系統が左右で脊椎動物(脊椎・背骨のある生き物)と無脊椎動物(脊椎・背骨がない生き物)で分かれていますね。

新しい生き物は手前に、後の方に出てくる生き物はちゃんと奥に置かれていて、系統法を忠実に反映しています。
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――なるほど、ただ並べられているだけじゃなくて、置く場所にも意味があったんですね! そしてそれを一瞬で見抜けるのもすごいです……! ちなみに、この中でかはくでも見られる化石はあるんでしょうか?

田中:見られるというより、ダンクルオステウスの頭はうちのですね。かはくの地球館B2Fに、まさに同じものがありますよ。
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※「おうちで体験! かはくVR」より引用(C)VR革新機構

對比地:それから、ユーステノプテロンも同じ地球館に展示しているので見られますよ。
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※「おうちで体験! かはくVR」より引用(C)VR革新機構

このアカントステガは、かはくにあったらめちゃめちゃ嬉しい化石ですけど、残念ながらうちにはないです。
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――アカントステガというのは、貴重な化石なんでしょうか?

對比地:かなり貴重ですよ。世界でグリーンランドでしか見つかっていないし、僕もほしいな。うらやましい。

田中:買ったらいくらするんでしょうね。

――そうなんですね! 今までアカントステガを掘り当てても何も思わなかったんですが、これから見つけたら大事にするようにします!

ゲームで説明されない「ガラスカバーの標本」は一体なに?


――この「廊下」には、ガラスのカバーがかけられている標本と、そのまま展示されている化石が混ざっています。カバーがかかっている標本は博物館が勝手に展示してくれるもので、ゲーム上では一切説明がないんですが、これは一体何なのでしょうか?
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對比地:(手前にあるガラスカバーがかかった標本は)現代でも生きている生き物で、化石ではない生き物ですね。

木村:うんうん。そうだと思います。

田中:見ていると、キノコ・クラゲ・菌類など、今も生きている生物ですね。

對比地:奥にあるイカなどもそうですね。ケースをかぶせてあるものは、今もまだ生きているので、化石と区別されていますね。

――なるほど、ガラスのカバーで絶滅したかどうかの区別をつけてあるんですね!

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研究者が欲しくなる翼竜は?



――次は「恐竜の広場」の方を見ていきます!
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對比地:ここの左端のまとめ方は、系統が近いというわけではなく、水の中にいた生き物をまとめているようですね。

木村:逆に右端の方は、哺乳類に続く生き物をまとめていますね。
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――ここのまとめ方にも、ひとつひとつちゃんと意味があるんですね。

木村:あ、水の中の生き物にフタバサウルスの化石を入れてあるのはいいな〜。
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博物館の場合、研究者が実際に化石を発見する現場に立ち会うことってなかなかできなくて、地元の方や化石のアマチュアの方が発見して、ご連絡をもらって調査が始まるということが多いんですよ。

フタバサウルスも、当時高校生だったスズキさんという方が発見して発掘が始まったものなんですけど、そういう風に「寄贈から研究へ繋がっていく」っていうコンセプトが、あつ森の世界にもちゃんと取り入れてあるのがいいですね。

――フタバサウルスも実際かはくにあるんでしょうか?

田中:フタバスズキリュウという名前で、日本館の3階にありますね(※即答)。

――こちらのアーケロンの方もあるんでしょうか?

田中:そっちは地球館のB2Fです(※即答)。
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――かはくって本当にすごいですね!(即答できるのもすごい……)こちらのケツァルコアトルスの方はどうでしょうか?
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對比地:ケツァルコアトルスの大型の種は基本的に上腕骨しか発見されていなくて、全身は見つかっていないんです。もしこんな風に全身の化石が見つかったら、えらい騒ぎになりますね。というより、この全身の化石は僕もほしい。

田中:これはさすがにお金がいくらあっても足りないですよ!(笑)

對比地:そうだよね(笑)。

――全身の化石がない恐竜は、どう復元するんでしょうか?

對比地:バラバラに出ているものを、組み合わせて作りますね。このケツァルコアトルスもそうですが、他の生物もかなり正確に全身を復元してあると思います。

――なるほど。全身が見つかっていない恐竜でも、それぞれ丁寧に調べて全身で展示してくれてあるんですね!

恐竜はどういう基準で選ばれているの?



――この部屋にも床に系統が描かれているんですが、こちらについてはどうでしょうか?

對比地:かなり調べられて、正確に再現されていると思いますよ。ひとつだけ細かいことを言うとするとケツァルコアルトスなど翼竜の方に伸びる系統の線は、もう少し手前に出してほしかったですね。でもこの博物館の館長はフクロウだし、鳥の考える進化の仮説は僕らと違うのかもしれません……。
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――確かにこの系統図はフクロウが作ったものですもんね。それから、この部屋にある恐竜やほかの生物は、どういう基準で選ばれているものなんでしょうか?

對比地:それぞれの分類の「代表選手」を選んでいるんだと思います。恐竜の多様な分類群を網羅しているようで、かなりちゃんとしていますね。
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あと、昔から知られているメジャーな恐竜が入っているのと、おそらくスピノサウルスはいま流行りなので展示されているんだと思います。

――スピノサウルスっていま流行りなんですか?
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對比地:スピノサウルスは、数年前に「4足に近いんじゃないか」という新しい論文が出たんですね。かはくでも2016年の特別展ではこの説に合わせた復元をしています。

それから、その1〜2年前くらいにも「肉食恐竜のなかで、スピノサウルスは変わった姿勢なんじゃないか」という研究成果が出されて話題になりました。だからその影響でここの展示に入れたんだろうと思いますね。

恐竜の姿勢は正しいの?


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――個人的にこの部屋で一番気になっているのが、このディノニクスという恐竜。これはなぜこんな姿勢なんでしょうか?

對比地:これは話すとめちゃくちゃ長くなるな(笑)。実は、今までは恐竜って「結構ノロノロ歩いてたよねー」「でっかい爬虫類みたいなだけだよねー」って思われていたんですよ。でも、このディノニクスという恐竜はかなり俊敏に動ける体をしていたので「獲物に飛びかかって、大きな足のツメで仕留めていたんじゃないか」という仮説が立てられたんですね。

つまり、それまで恐竜はノロマだと思われていたけど、ディノニクスが発見されたことで、鳥の祖先になったような一部の恐竜は「すばしっこく能力の高いハンターだったのではないか」という仮説が立ったんです。それで、アメリカのイェール大学の博物館でもこういう飛びかかるような姿のディノニクスの復元が展示されたり、かはくでも恐竜博でまさにこのような姿勢の復元をしたんですよ。僕の好きな恐竜です。

――なるほど! 恐竜を展示するときの姿勢も、忠実に学説に沿っているんですね。

對比地:そうですね、かなり調べられていると思います。ただ、ひとつだけ気になるのはトリケラトプスの腕の形かな。
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見かけだけかもしれませんが、この博物館のトリケラトプスは、ワニのように手が這いつくばって展示されているようにみえるんですね。
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トリケラトプスは、昔から「這いつくばっていたのか、下にまっすぐ手足が伸びていたのか」という議論がありました。ただ、かはくの標本を元に研究された日本人の方が「まっすぐ伸びていたのではないか」というので、今かはくのトリケラトプスは下に手足が伸びる復元になっているんです。

なのでこのトリケラトプスは、昔からある仮説のひとつではあるけど、今はあまり支持されていない説ですね。

――なるほど、逆にこれだけある恐竜の中でトリケラトプス以外が最新の学説に沿っていることも驚きですね。そしてこのゲーム画面を一瞬見ただけで学説との違いを見抜く研究者さんもさすがです……! どんな姿勢で飾られるのか考えながら化石を集めるのも楽しそうですね!

Tレックスとトリケラトプス


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――それから、トリケラトプスというと、ここでTレックスと向かい合って闘っているように見えるんですけど、これも学説的には正しい展示なのでしょうか?

對比地:Tレックスがトリケラトプスを食べていたという証拠はあります。トリケラトプスの骨に、Tレックスらしき噛み跡があったりするんです。

Tレックスがいた時代は大型の恐竜がかなり少なくなってきているので、デカい物を食べていたとするとトリケラトプスとか、あと他に少ししかいないな……というのがあって。

要は、2つとも同じ時代に同じ場所で見つかる恐竜の代表選手で「肉食」と「植物食」なのでよく合わせて展示されるんですね。襲っていたのか、闘っていたのかはともかく、少なくともTレックスはトリケラトプスを食べてはいたという。

田中:かはくにも同じ展示がありますね。しかも、上から見られるように階段を設置しているところも同じなので、参考にしてもらっているのかもしれません。

――ますますかはくに行きたくなりますね。
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※「おうちで体験! かはくVR」より引用(C)VR革新機構

<後半は哺乳類の化石が登場。木村先生が「この博物館で一番すごいと思った」化石もご紹介!>

■まいしろ
社会の荒波から逃げ回ってる意識低めのエンタメ系マーケターです。音楽の分析記事・エンタメ業界のことをよく書きます。

Twitter:https://twitter.com/_maishilo_
note:https://note.mu/maishilo

国立科学博物館 VRについて


国立科学博物館では、現在バーチャル体験コンテンツ「おうちで体験! かはくVR」を公開中。館内にいるような3DビューとVR 映像を自宅で楽しめる。今回紹介した展示をVRで楽しめるほか、研究者が自身の研究内容や、かはくの展示の面白いポイントを伝えるYouTube「【国立科学博物館公式】 かはくチャンネル」も公開されている。

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