
新型コロナ感染拡大の影響で、各テレビ局はドラマの撮影や番組の収録が行えず、過去の番組の再放送や再編集版、傑作選などが多く放送されている。
TBS日曜劇場で2018年10月〜12月にオンエアされた「中学聖日記」が再放送中だ。
良い母親になれない女は孤立するしかないのか、教師と母親血まみれの会話劇8話
晶「切り捨てたいんですよね。過去を捨てて、全部切り捨てて、新しい場所で新しい自分になれると思っている。でも、それって幻想ですよね。僕なら、過去をなかったことにはしない、できない。起きたこと全部大切だから、忘れません」
晶(岡田健史)が再び目の前に現れたことで、聖(有村架純)の気持ちは大きく揺れていく。晶を忘れるために同僚の野上(渡辺大)と付き合おうとした聖。しかし、聖が一番会いたい人は晶だということを、野上はわかっていた。
その一方で、娘の彩乃(石田凛音)と引き離された母親の美和(村川絵梨)は荒れていた。逆恨みをして、聖の過去について誇張した噂を流す。美和の様子を知った彩乃に「そんなお母さん、大嫌い」と言われ、美和はますます孤立していった。
清廉潔白を求められる「教師」と「母親」
聖と美和は、過去に後ろめたいことがある者同士だ。二人は、教師と母親という、世間から清廉潔白な理想像を求められる役割を背負ってもいる。しかし、その役割を求められたときに、彼女たちは失敗をしてしまう。
母親・愛子(夏川結衣)とわかり合えず、るな(小野莉奈)と別れた晶は、また聖を訪ねてきた。でも、それは前回のように「聖ちゃんに会いたいから」ではない。離れ離れになった父親からの手紙を偶然受け取ってしまった晶は、教え子として、それにどう対応したらいいか恩師である聖に相談したかったのだ。
聖「いま、問題が起きてるの。3年前の、黒岩(晶)くんとのことが原因で。正直困ってる。私には、先生をやるってことしかない。黒岩くんに言われた通り教師に向いてないのかもしれないけど、でもこれしかない。だから、もう私に関わらないで。来ないで」
過去の淫行事件が噂になっていて、焦っていたのか。良い先生になりたいと言っていたはずなのに、聖は晶を教え子として迎えることができない。
晶「岩崎(るな)とは別れました。
美和もまた、学習発表会のための衣装作りという母親として求められた役割をまっとうすることができなかった。おばあちゃんに作ってもらうからいらない、と言われて捨て鉢になる美和。
美和「どうせやっても無駄! 作ったところで着てもらえないし、彩乃はもう戻ってこない。何やっても、なんにも変わらない」
聖「だとしても、努力すべきだと思います。いまの状況を変える努力を」
美和「自分はどうなのよ。ただ逃げているだけじゃないの」
二人の言葉がそれぞれブーメランになってお互いに刺さり合い、血まみれになっているかのようなシーンだった。良い先生になりたい。良い母親になりたい。でも、二人ともその上辺をなぞることしかできていない。

→Amazonでチェックする
私たちは母親の社会的孤立に感動してしまう
先に一歩を踏み出したのは、美和だった。学習発表会の日、美和は作りかけの衣装を持って彩乃に会いに来た。
美和「お母さん、ちょっと留守にするね。がんばって、仕事と家見つける。また彩乃と暮らせるように。元気で、良い子でね」
彩乃「お母さんは……。お母さんはだらしなくて嘘つきだから会うなって。でも、大好きだから。絶対迎えに来て」
野上や千鶴(友近)、昔の恋人である勝太郎(町田啓太)、そして彩乃にまで守られているように見えた聖を、誰にも守られていない美和が羨み妬むのは仕方ない。道を誤った母親が、誰の支援も受けられないまま、心を入れ替えてこどもの前から消える。それを感動シーンとして描かれると、(つい感動してはしまうけれど……)母親の社会的孤立問題の根深さを考えてしまう。
男と酒に依存していた美和のような女性が、たった一人でこどものために突然気持ちを入れ替えてがんばるのはかなり難しいはず。だって、いままで何度も失敗してきた。
美和の存在は、聖にとっては救いだっただろう。人を導く教師として、晶に向き合うことはできなかった。でも、美和は聖の言葉で自分を変えることを決意できたのだから。
晶は「先生の授業が好きでした」と言っていた。そうやって晶たちに教えていた頃に感じていた「人に何かを教え導くことの尊さ」を、聖は美和を通して思い出したのではないか。だから、聖は「あの噂は本当です」と母親たちの前で告白し、過去に向き合うことを決められた。やっぱり、聖と美和は鏡のようにお互いを映し、共鳴し合っていた。
「ん?」と違和感を覚えることが大切なドラマ
るなの「美味しい! 美味しいものってたいがい限定。なんでだろうね」という台詞からは、晶との関係が期間限定だと悟っていることがうかがえて切なかった。
愛子の「先生は、なんにも失っていないんですね」という台詞は、聖との別れ際に勝太郎が吐いた「全部失くせばいい」という呪いを思い出す。
そんなハッとする台詞が多かった8話。
上布「君は、そのお母さんに守られてるんだよ?」
「たしかに」と思ってしまいそうになる。でも、お金を払ってくれている親に感謝することと、親の願いを叶えるように生きることは別の話だ。上布の話しぶりは「誰の金で飯を食えてると思ってるんだ!」とキレる経済的DV親に近いものに聞こえた。他者を押さえつけようと必死になればなるほど、その言葉や行為は暴力的になってしまう。
これは希望的観測なのだが、母親を孤立させることも、上布の経済的DVのような発言も、見る側に「えっ、これいいのかな?」と思わせたくて描いているのではないだろうか。これに感動していいのかな? これに「そうだそうだ」と共感していいのかな? そんな風に自分の価値観と向き合いながらドラマを見てほしいのでは。
だって、そもそも「教師と中学生の恋愛」だって「えっ、それいいのかな? 自分だったら許せるのかな?」と考えずには見られない題材だ。
原口(吉田羊)と交際している勝太郎が、いまだに聖に近況報告をするのも「ん?」と思う。るなは「絶対別れない」と言っていたのに、晶は「岩崎とは別れた」と言っているのも「ん?」と思う。(それから、母親たちが旧時代的なPTA像そのままに描かれていたことや、先生たちが大人げなく聖を無視したこと、野上が勝手に聖の将来を決めようとしていたことなども……。
聖が晶のもとに走るという大きな流れがあった。いままでは晶が聖を自転車で追いかけていたのに、その立場がようやく反対になった。それですべてが上手くまとまっていくように見えたが、立ち止まって考えるとずいぶん小さな違和感を残した8話だった。
その違和感たちが火種となり、9話以降で爆発を起こしていく。聖と晶を乗せた船は、夜の海へと出港していった。3年間止まっていた二人の時間が、やっと動き出した。
(むらたえりか)
オンエア情報
TBS「中学聖日記 特別編」
5月25日(月)深夜 23:56〜0:55
5月26日(火)深夜 23:56〜0:55
5月27日(水)深夜 23:56〜0:55
5月29日(金)深夜 0:20〜1:20
6月1日(月)深夜 23:56〜0:55
6月2日(火)深夜 23:56〜0:55
6月3日(水)深夜 23:56〜0:55
6月5日(金)深夜 0:20〜1:20
6月8日(月)深夜 23:56〜0:55
6月9日(火)深夜 23:56〜0:55
6月10日(水)深夜 23:56〜0:55
【一覧】「中学聖日記」1〜11話 レビュー