『半沢直樹』 伊佐山(市川猿之助)は「おめえ」「てめえ」 金融業界って魑魅魍魎の巣窟なんですね 2話
イラスト/ゆいざえもん

緩急自在、いろんな演技がお見事「半沢直樹」

日曜劇場『半沢直樹』(毎週日曜 よる9時〜 TBS系)は第2話(7月26日放送)も快調。金融ミステリーの様相を呈してきたかのようだった。視聴率は22.1%(ビデオリサーチ調べ 関東地区)。


買収の危機に瀕する、若きITのカリスマ瀬名(尾上松也)の会社スパイラルを救うため、半沢直樹(堺雅人)が大活躍。そもそもこの問題は、半沢が出向しているセントラル証券の大口契約を親会社の東京中央銀行が理不尽に奪おうとしたことから始まったものである。

「やられたらやり返せ、倍返しだ!」と燃える半沢。スパイラルのホワイトナイトーー救世主について調べる。ホワイトナイトとは、“敵対的買収を仕掛けられた対象会社を、買収者に対抗して、友好的に買収または合併する会社のこと。白馬の騎士になぞらえて、このように呼ばれる。 ”と野村證券証券用語解説集に書いてあった。男の世界と思っていた株の世界に「白馬の騎士」なんてロマンティックなネーミングがあるとは。

そのホワイトナイトは、瀬名がその著書をバイブルにしているITのカリスマ・フォックスの郷田(戸次重幸)。スパイラルの出入りの太洋証券の広重(山崎銀之丞)がフォックスと合併し新株を発行しようと提案するが、半沢は、フォックスはこの頃業績が悪いことと主要取引先が東京中央銀行である情報を掴んで訝しむ。

金融会社じゃなくて探偵会社をやったほうが儲かるはず

明朝8時、市場が開く前にスパイラルとフォックスの契約が結ばれる。それまでに、この契約が罠ではないか半沢は急ぎ探りはじめる。

このとき役に立つのが、いつもの渡真利(及川光博)
涙ぐましいほど半沢に尽くしまくっている。そして、第1話で半沢を裏切って銀行に戻った三木(角田晃広/東京03)。親会社に戻れたものの、伊佐山(市川猿之助)に雑用させられていた三木は、半沢の人たらしテク(三木は営業マンとして力があると言う)にすっかり半沢の味方になってしまったのか、それとも、雑に扱われ過ぎたからか、復讐心メラメラ。じつに鮮やかに、伊佐山の所持していた買収計画の資料を盗撮して半沢に送るのであった。

さらに「半沢直樹スピンオフ企画 『狙われた半沢直樹のパスワード』」出ていたセントラルの若手社員・浜村瞳(今田美桜)も半沢ファンという設定だからか、陰謀の裏付けになる瞬間の写真を撮って、メールしてくる。

セキュリティーが難攻不落と言われていたにもかかわらずかなりアナログかつ単純に陰謀を暴いていくところは初回のメール案件と同じツッコミどころである。「松の廊下」ってなんだったんだ。そこを突破するところを見たかった。

とはいえ、なんでみんなこんなに有能なのか! 金融会社じゃなくて探偵会社をやったほうが儲かるのではとおすすめしたい。半沢探偵事務所。

ミステリーでもあるし、企業スパイ大作戦みたいでもある。だからこそエンタメとして楽しめるのであろう。
それにしても、大手の銀行はこんなにも騙し騙され、他者を陥れて、のし上がっていくものなのだろうか。伊佐山は「おめえ」「てめえ」「じゃねえ」と演出らしいが、べらんめえ調過ぎで、柄が悪過ぎる。

一方、伊佐山演じる猿之助の従兄弟の中車こと、香川照之演じる大和田は、久々に会った半沢に静かにやや上品めに語りかけ、最後にクワッと激しさを見せる。緩急自在である。

いろんな演技がある。東京03の角田はお茶を豪快にこぼす動きが見事だった。

古田新太の顔が怖い

今回最も笑ったのは、悪行がバレた広重と彼をグイグイ責める半沢。広重を演じている山崎銀之丞は、つかこうへいの名作のひとつ「熱海殺人事件」でドSの部長刑事・木村伝兵衛を超ハイテンションで演じていた俳優である。毒のある色気で人気だった。その俳優相手に凄みを効かせ優位に立つ堺雅人、腹抱えて笑ってしまうほどすごかった。

ちなみに、三木とともに東京中央銀行に戻り、佐山にペコペコしている諸田を演じている池田成志も木村伝兵衛をやっている。そんな怪優の先輩たちの胸を借り、バッタバッタとなぎ倒していく(あくまでそういう役柄で)堺雅人。彼はおそらく、香川、猿之助、山崎、池田の出してくる激しい圧を受けて自身をふるい立たせているのではないだろうか。
逆に山崎と池田がへなへな演技をしているところも本当におもしろい。

古田新太演じる副頭取・三笠は初回からチクチクチクチク、ノックしていたペンを早くもバキッと折ってしまうほどお怒り。その顔がまたこわい。

金融業界って魑魅魍魎の巣窟なんですね……。

吉沢亮、片岡愛之助の登場で濃密度アップの来週

そんななかに入ると若いわりに貫禄あるように見える尾上松也がかわいく見えてしまうのである。設定的にも次々騙されてかわいそうなのだ。初回は、一緒に会社を立ち上げた加納(井上芳雄)清田(加藤啓)に裏切られ、今回は、尊敬していた郷田に。広重は諸田と同じく、絶対、裏切りそうな顔をしていたが、郷田は感じのいい人に見えたのに……。まあそれはそれで怪しかったけれど。

カネの亡者たちに囲まれ、亡父の万年筆をお守りにものづくりの大切さを知っている孤立無援の瀬名と、親会社に睨まれまくりながら、企業や人々の幸福を第一に考え、一歩も引かない半沢とがどこか重なる。半沢も頑張っているが、これは新世代の話でもあるんだなと思う。というか、半沢は次世代のためにも己の信念を曲げずに闘う姿を見せないといけないのだろう。

瀬名の友人でもあるセントラルの若手・森山(賀来賢人)は学生時代に瀬名からもらった万年筆をずっと使っていたことで、瀬名の信頼を得る。
賀来賢人は、大ヒット上映中の映画「今日から俺は!!」をはじめとする福田雄一作品では顔芸を頑張っている俳優だが、先輩俳優たちとは顔芝居で勝負しても歯が立たないと踏んでいるのか、「半沢直樹」ではすっとさわやかな表情に終始している(顔芝居といっても堺や香川たちは全身で芝居してその圧が顔に集約されているのであって、厳密にいえば顔芝居ではない。そしてその全身芝居は長年の鍛錬の賜物なのでそうそうに会得できるものではない)。

『半沢直樹』 伊佐山(市川猿之助)は「おめえ」「てめえ」 金融業界って魑魅魍魎の巣窟なんですね 2話
第3話は8月2日放送。画像は番組サイトより

来週はスピンオフ企画では主役だったスパイラルのプログラマー高坂(吉沢亮)が登場。賀来賢人と並んで、若い世代がどんな活躍をするか楽しみでもあるし、オトナ世代からは、金融庁! の黒崎(片岡愛之助)も登場ということで、またまた濃密になりそう。

「わたくしどもは全身全霊をかけて、御行と電脳雑技集団連合軍を叩きのめすつもりです。ご覚悟を」って頭取(北大路欣也)に凄む半沢。時代劇みたい。「松の廊下」というワードも時代劇。時代劇と株と金融ミステリーとサラリーマンものとITと若者の青春群像と……といろんな要素が混ざっているから視聴者層も幅広いのだろう。それにしてもやっぱり気になる時代設定……。
(木俣冬)

番組情報

日曜劇場『半沢直樹』
毎週日曜よる9:00〜9:54

番組サイト:https://www.tbs.co.jp/hanzawa_naoki/
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