『半沢直樹』大和田の「恩返しです」をパクり「大事なのは感謝と恩返しだ」と半沢 名言まで奪い合う3話
イラスト/ゆいざえもん

一撃、二撃、三撃、四撃……息つく間もなく進んだ「半沢直樹」3話

資金力(電脳雑技集団、東京中央銀行)対 知恵(スパイラル、東京セントラル証券)の勝負。日曜劇場『半沢直樹』(毎週日曜 よる9時〜 TBS系)第3話(8月2日放送)は、「ここからが本当の勝負です」と半沢直樹(堺雅人)が古来からの(剣道の?)戦法(仕掛ける相手の隙をつく)で一撃、二撃、三撃、四撃……間髪入れずに東京中央銀行と電脳雑技団に闘いを挑んでいく。ドラマは隙なく、密。
スピーディーに一撃、二撃……と息つく間もなく進行し、視聴率は23.2%(ビデオリサーチ調べ 関東地区)と上昇した。

前作から今回までの間に、堺雅人が大河ドラマ「真田丸」(NHK 16年)を挟んだからか、「水戸黄門」テイストよりも戦国時代劇テイストが強まってきたような気もしないでない。半沢が瀬名(尾上松也)と剣道の試合をするところはじつに雄々しい。そして、東京中央銀行に立ち向かう様も、大阪夏の陣、冬の陣に向かう真田幸村のように見えた。ちなみに音楽は「半沢直樹」も「真田丸」も服部隆之。

「ひるまずおそれず責め続けていれば、電脳銀行連合軍に隙が生まれるでしょう」(半沢)
「剣道で言うと、一足一刀の間合いをとって、平常心で敵をみつめ、危剣体の一致を伴い最後の一撃を与える」(森山)

半沢の計画は、スパイラルを裏切ったフォックスの株をスパイラルが買うことで2社に手を組ませること。
フォックスが投資失敗で巨額損失という情報をネットニュースにリーク。それによってフォックスの株が下がったところを購入し、ピンチの郷田(戸次重幸)を丸め込む。

そこまでは順調だった。が、そこへ、監視委員会がセントラル証券にやって来た。陣頭指揮は、あの黒崎(片岡愛之助)。金融庁から異動して、やたら長い肩書の「証券取引等監視委員会事務局証券検査課統括検査官」になっていた。
文字数が、あの長い『SPEC〜警視庁公安部公安第五課未詳事件特別対策係事件簿〜』と同じ23文字!(SPEC〜抜いて警視庁から数えています)

「(うわ、黒崎)来たーー」という堺雅人の顔。「直樹」呼ばわりの黒崎。セントラルに検査が入ったニュースが出て、スパイラルの株が下がりだす。「相当めちゃくちゃ激しくやばいぞ」と「全部すべてまるっとスリっとゴリっとエブリシングお見通しだ! 」( by TRICK山田奈緒子)みたいな言い方する半沢。

見られたらヤバい営業低処分になるフォックス買収計画と経営状況報告書を半沢はクラウドの「秘密の隠し部屋」に移動する。第2回では、東京中央銀行の買収計画を盗んだ半沢だったが、今回は隠す側に。
もはや勧善懲悪ではなく、ただ勝つために、半沢も悪に手を染めているように思えるのだがそれでいいのかという疑問を感じる間もなくドラマはどんどん進む。

「隠し部屋」はスパイラルの優秀なプログラマー・高坂(吉沢亮)の作った“鉄壁のシステム”であったが、黒崎はわりとやすやすと突破していく。黒崎も来たーー! と嬉しかったが、高坂の登場も、来たーー! だった。

高坂は、2020年1月に放送された「半沢直樹II エピソードゼロ 『狙われた半沢直樹のパスワード』」の主人公。スパイラルでプログラマーをやっていて、セントラル証券のシステムリニューアルを担当することに。

その流れで、何者かが半沢のパスワードを盗もうとした事件を解決する。
エピソードゼロの終わりのほうでは、セントラルの若手・浜村(今田美桜)といい感じになっていて、今回も二人はLINEでやりとりして、会社が大変なことになったとき、浜村に「なんだあ、直電してよ」言う馴れ馴れしい関係になっていた。

『半沢直樹』大和田の「恩返しです」をパクり「大事なのは感謝と恩返しだ」と半沢 名言まで奪い合う3話
第4話は8月9日放送。画像は番組サイトより

エピソードゼロのときより高坂の勤務しているオフィスが広くなり、社員も多くなっていたが、時間経過が相変わらずよくわからない。スパイラル、今、瀬名の共同経営者も辞めて、ピンチ中じゃなかったか。

とにもかくにも、黒崎 VS 高坂。息もつかせぬスピーディーなテンポと緊張感、いつものチャ〜ラララ〜♪の劇伴で描かれる、半沢の隠し部屋のパスワード「zansin」をめぐる攻防。ぎりぎり高坂が証拠を消去できた。


吉沢亮、若武者のような清冽な表情で、この大事な局面を演じきった。キーボードカチャカチャ場面では、アーケードゲーム業界の若者たちを描いた青春群像劇「TOKYOHEAD〜トウキョウヘッド〜」(15年)で最強ゲーマーのひとり・柏ジェフリー役を演じたときの吉沢を思い出した。あのときはキーボードではないがゲームボタンを連打していた。

勝つためにはなんでもやる、まったくおそろしい男・半沢直樹

執念深い黒崎が社長室に紙の書類があると踏み、シュレッダーから書類の残骸を見つけたが、森山(賀来賢人)の働きで、郷田がスパイラルと組むために情報をセントラルに報告したものだと言い、ことなきを得る。

黒崎と半沢の顔がギリギリまで近づけてのやりとりは、コロナ禍以前の撮影なのだろうか。かなりの密であった。

こうしてスパイラルとフォックスが合併する発表が大々的に行われ、そこにはAmazonと並ぶ電子商取引企業コペルニクスを巻き込んで、さらにIT界の超大物・マイクロデバイスのジョン・ハワードが3億ドル融資すると発表すると、たちまち株価が急上昇。
これで半沢の勝ちかと思ったら――

東京中央銀行が500億円の追加融資をすることを決めたと、いつものお役立ち・渡真利(及川光博)情報が入る。そこに至るには、三笠(古田新太)が丁寧に頭を下げて大和田(香川照之)も味方に引き込んだ。「おまえ(半沢)の負けー」と伊佐山(市川猿之助)は大満足。

猿之助は「ONE PIECE」を歌舞伎化して話題になった「スーパー歌舞伎II ワンピース」でルフィーを演じた。「海賊王に俺はなる!」と麦わらの一味と共に底抜けに明るかった猿之助が「半沢直樹」では悪の一味づくりに一生懸命。同じ仲間でもえらい違いである。パワーだけはルフィー級。

銀行が本気出したら、証券会社は敵わない。でも半沢は古来の戦法――「相手の隙を突く」でまだまだ闘う気で、監視委員会の調査跡を観察してヒントを探すと「電脳電設」という会社の存在に気づく。そこは、電脳雑技集団の金庫番・玉置(今井朋彦)が鍵を握っていそうで……。これまで物静かにしていた玉置。文学座の名優・今井朋彦が演じている時点で、このまま物静かなままではいないであろうと予想はできた。

隙のない話運びで一気にここまで見てしまった。そもそも、セントラルが電脳雑技集団と契約することになったこと自体が何者かの仕掛けたことだったのか……。次週第4話はスパイラル編のクライマックスらしい。

それにしても、半沢直樹、これまで「倍返しだ」と言い続けてきたにもかかわらず、森山を「大事なのは感謝と恩返しだ」と諭す。
え〜、これ、大和田が第1話で言った「恩返しです」のパクリでは。名言まで奪い合う。なんて壮絶な闘いなのか。やってることは悪行なのに「恩返し」という言葉で美談に塗り替えていく。おそろしい世界。

半沢は渡真利にも「バレたらお前の首が飛ぶ」と同期を思いやっているようなことを言ったかと思えば、「なんでお前なんかに」と言ったりして、あげたりさげたり調子がいい。勝つためにはなんでもやる。まったくおそろしい男である。
(木俣冬)

※最新話のレビューを更新しましたら、ツイッターでお知らせします。お見逃しないよう、ぜひフォローしてくださいね

番組情報

日曜劇場『半沢直樹』
毎週日曜よる9:00〜9:54
番組サイト:https://www.tbs.co.jp/hanzawa_naoki/