ペニーワイズがビビらせ倒す ネトフリ『IT/イット THE END “それ”が見えたら、終わり。』

夏の終わりにぴったりな今作『IT/イット』

夏といえばホラー、お化け屋敷、怖い話……というのは、もう完全に風物詩になっている。しかし「夏のどのタイミングか」によって、それに合うホラーも違ってくるように思う。梅雨明けすぐ、さあ海や山に行って遊ぶぞという時期ならば、無軌道な若者が出かけていった先で惨殺されるような作品の方が盛り上がるだろう。
お盆の時期なら、じっとりした怪談の方がマッチしているかもしれない。

で、季節は巡ってもう9月、楽しかった夏休み(今年はまあ、例年通りのスケジュールじゃなかった人も多いと思うけど)も終わっちゃって、暑いは暑いけど暦の上ではもう残暑扱い……。そんな時期に見るのは、やっぱりちょっと青春の終わりというか、一夏の冒険もおしまいというか、そんな作品が合うだろう。そんな気分にぴったりなのが、先日Netflixにて配信開始となった『IT/イット THE END “それ”が見えたら、終わり。』である

ピエロ姿の悪魔ペニーワイズが半ばネットミーム化しているので、『IT/イット』シリーズのことはなんとなく知っているという人も多いはず。原作はスティーブン・キング。1990年にTV映画として初代『IT』が作られ、さらにそのリメイクとして2017年に『IT/イット "それ"が見えたら、終わり。』が公開。『IT/イット THE END』はリメイク版の続編かつ完結編として、2019年に公開された作品だ。

というわけで、『IT/イット』シリーズは前後編となっている。物語は1989年と27年後の2016年を描いており、主人公ビルと仲間たちの少年時代と中年にさしかかってからの時期が題材となる。

ペニーワイズは一度やっつけても27年おきに復活する

ビルは弟ジョージーを不可解な事故で失い、その原因を探ることに熱心な少年。そんな彼は仲のいい友人たちと地元のメイン州デリーで「ルーザーズ・クラブ」というチームを作って遊んでいた。
地元のいじめっ子とトラブルになったり、内気で太めな転校生を仲間にしたり、いじめられっ子の少女と淡いロマンスがあったりしつつ、デリーで多発する行方不明事件の裏側を探るルーザーズ。

その真相には、人の恐怖と心の弱さにつけこむピエロ姿の悪魔"ペニーワイズ"が絡んでいた。少年たちは恐怖に震えながらも、ペニーワイズに立ち向かう……というのが第1作『IT/イット』の内容である。

第1作で「一度やっつけてもペニーワイズは27年おきに復活し、恐らくまた人々を襲う」というのは示唆されていた。この、27年後の二度目の事件を描いたのが『IT/イット THE END』だ。かつてのルーザーズも今ではすっかり中年の入り口に立ち、仕事に私生活にトラブル続き。ペニーワイズとその事件のこともすっかり忘れていた。

そんな中、デリーでペニーワイズに関する調査を続けていたルーザーズの一人マイクは、27年後にあたる現在に謎の事件がまたしても発生していることを知り、ルーザーズにもう一度集まるよう連絡を取る。

というわけで、『THE END』は同窓会のようなスタートを切る。子供の頃の仲良しグループがもう一度地元に集まり、中華料理を食べながら昔の思い出話に興じる。細かいことはいまいちよく覚えてないけど、なんか昔いろいろと怖い目にも遭ったような……。なんせ27年前のことだから、ところどころ記憶も抜け落ちている。
この、「昔のことをよく覚えていない」というあるあるネタ自体が、『THE END』のコアになるアイデアだ。

ペニーワイズに勝つための最大の武器とは?

成長して街を出たルーザーズは、子供の頃のこと、とりわけペニーワイズ事件に関することをよく覚えていない。ずっとデリーで事件を調査してきたマイクによれば、それ自体がペニーワイズの影響によるものであり、偶然ではないという。

そしてペニーワイズを完全に倒すためには、この抜け落ちた子供の頃の記憶を彼ら全員が思い出し、そのキーとなるアイテムを持ちよらねばならない。というわけで、ルーザーズのメンバーは自らの過去を自分でこじ開け、忘れていたことを無理やり思い出すことになる。

同窓会で顔を合わせた同級生の名前が思い出せない。友達同士で集まった時の思い出話で、言っていることが食い違う。こういったことは、誰しも一度は経験があると思う。このとっつきやすいポイントをフックに、ペニーワイズはルーザーズのメンバーの忘れたい過去をこれでもかと弄り、つつきまわし、ビビらせ倒す。中年にさしかかった彼らは、自らの子供時代のトラウマに向き合い、そして自分の手でケリをつけなくてはならないのだ。

ペニーワイズがビビらせ倒す ネトフリ『IT/イット THE END “それ”が見えたら、終わり。』

そもそも、リメイク第1作の『IT/イット』自体が、ノスタルジーを刺激するような映画だった。ホラー映画ではあるけれど、同じキングが原作の『スタンド・バイ・ミー』や、『グーニーズ』といった子供たちが主役の80年代映画の匂いが濃い。

「世界最悪の髪型」マレットヘアやニュー・キッズ・オン・ザ・ブロック、『グレムリン』や『ビートルジュース』のポスターなど、劇中に登場する細かい要素もあの時代のアイテムばかり。
このあたりは、『ストレンジャー・シングス』や『バンブルビー』などに見られる80年代回顧/リバイバルのトレンドに沿っているようにも見える。

しかし、『IT/イット THE END』のメッセージはもうちょっと異なる。キラキラした80年代の子供時代に対して、ルーザーズのメンバーは決別しなくてはならないのだ。なんせペニーワイズは人間の恐怖心につけこむ。何が起こったかわかっている過去に浸り、先行きがサッパリわからない現在に対してビビっていると、それだけでペニーワイズに負けてしまうのである。ペニーワイズに勝つための最大の武器は、過去を乗り越え未来にビビらない強いハートなのだ。

という映画なので、夏の終わりにしみじみ見るホラーとしては案外うってつけ。リリカルな青春ホラーとその終わりを二部作で描くというアイデアが、残暑にしっかりハマるはず。特に主人公たちと同じくらいの年代の人間が、自分たちの子供時代を思い出しながら見るにはぴったりの内容である。2本通して見るとなかなか長いけど、それだけの時間をかける価値はあるはずだ。
(しげる)

配信情報

Netflix
『IT/イット THE END “それ”が見えたら、終わり。』
2019年/2時間49分
出演:ジェシカ・チャスティン、ジェームズ・マカヴォイ、ビル・ヘイダー、ほか
配信ページ:https://www.netflix.com/title/81081050
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