第14週「弟子がやって来た!」 66回〈9月14日 (月) 放送 作・嶋田うれ葉 演出:松園武大〉

祝・放送再開!
コロナ禍で撮影が中断し、6月末から2カ月ほど放送も中断し、1話から再放送されていた『エール』がついに再開。『おはよう日本 関東版』でも高瀬耕造アナが「おかえりなさいエール、いよいよ再開です」と感無量。涙にむせぶ目を腕でこする仕草を『エール』に切り替わる瞬間に滑り込ませるタイミングもさすが。
こんなふうに朝ドラを愛するアナウンサーの言動に喜びながら、朝ドラを観る。ひさしぶりに日本の朝を実感。やっぱり朝ドラが毎日朝8時に放送されていることが日本の朝の風景なのである。
再放送には登場人物による解説副音声が付加されていたので、今日もつい副音声をつけてしまった。通常の副音声は視覚障碍者のための解説になっている。これまで気にしていなかったが、毎朝、副音声で説明してくれている副音声の存在(声・山崎健太郎)に気づけたことが休止中の収穫だった。

これまでの振り返り
1〜65回までが2度繰り返されたわけで、十分、1〜65回までは理解できたと思うが、念のためこれまでを140文字程度で振り返っておく。福島で生まれた古山裕一(窪田正孝)は引っ込み思案な少年期、音楽と出会って変わっていく。
音楽を通して音(二階堂ふみ)と結婚、東京に出てきて作曲家となる。
学んできた西洋音楽と日本の歌謡曲の違いに最初は悩んだものの「船頭可愛や」がヒット。ようやく作曲家としての道も拓けてきた。(135文字)
岡部大に注目
作曲家として徐々に(そこそこ)売れてきた裕一のもとに、弟子入りを熱望して田ノ上五郎(岡部大/ハナコ)が訪ねて来た。「得てして純朴な人間は思い込んだら諦めが悪いのは世の常で」(ナレーション 津田健次郎)と言われてしまう五郎は水戸の雑穀店に奉公していた苦労人。裕一に断られても何度も何度もやってくる。身寄りもなく奉公先から逃げてきて住む家がない五郎は、ついに異臭を放つまでに……。たえかねて家に入れ、風呂を貸し、裕一はもう一度、五郎の話を聞く。
風呂で歌っている「船頭可愛や」の歌声は普通だが、大好きだという「船頭可愛や」「福島行進曲」「阪神タイガースの歌」を譜面に起こしたものは正確で、裕一は五郎の耳の良さに驚かされる。
五郎を演じている岡部大は『キングオブコント2018』(TBS系)のチャンピオンだったお笑いトリオ・ハナコの一員。ついこの間まで『私の家政夫ナギサさん』(TBS)に出演していた“サスペンダー坊主”。終盤、薫(高橋メアリージュン)に好かれるおいしい展開になっていた。
「ナギサさん」が人気だったからそのままスライドするように朝ドラに岡部大が出演することで、いい流れができたといえるだろう。この日の『あさイチ』のゲストも岡部だった。
こんなにフィーチャーされて……と思ったら、どうやら梅(森七菜)と深く関わっていきそうらしい。
岡部大が森七菜とキスシーン!?
親に奉公に出されて天涯孤独の五郎にほだされた裕一が住み込みの弟子にしようと思ったとき、梅が権威ある文学賞・文藝の友新人賞をとって作家になるべく上京してきた。姉の家は「息が詰まる」と音を頼ってきた梅。本格的に小説家の道を歩もうとしている。そんな若い娘と五郎がひとつ屋根の下に暮らしたら何が起こるかわからないと、キスシーンを想像して、打ち消す裕一と音。これは妄想だったけれど、もしかして梅のお相手が岡部になる可能性も……。
現在若手の女性俳優、期待の星である森七菜の相手役にスイーツ映画のような爽やかイケメンではない、お笑い系から相手役を選ぶとしたら、なかなか意欲的だと思うし、現代的である。ほら、女優がお笑い芸人と結婚することも多いから。しかも岡部は実直そうで、坊主頭も清潔感があって、「恐縮です」のセリフも好感度高い。
親に奉公に出され苦労してきた青年が裕一の歌に救われたという美談を切実に演じたうえ、妄想キスシーンも真顔で、お笑い芸人枠といってもちゃかすのではなく、真面目さを押し出していく。笑わせようとするのではなく真面目にやることでくすりとさせるという、喜劇俳優誕生の予感。
久志が普通に居座っている
さてこちらイケメン枠。食卓からちょっとだけ引いて、もぐもぐご飯を食べている久志(山崎育三郎)。五郎に「付き人かなにですか?」と聞かれ、軽く憤慨する。でもそこは久志、あくまで余裕の顔で、きら〜んとした身振りで「コロンブスレコードの期待の大型新人スター歌手」と自己紹介。こんな彼も再開前のこれからの見どころを紹介する映像では、戦争になると、ちゃらっとばかりもしていられなそうな雰囲気だった。これからの久志の進む道も気になる。
再開第1回めは軽妙なホームドラマふうで始まったが、これから戦時に入っていくと雰囲気ががらりと変わるのか、どうなる、『エール』。
それにしても、音と梅が「幽霊のお父さんに会った?」と、出ていったお父さんに久々に会った? という話をするように普通に幽霊に会った話をしているのが面白かった。幽霊も朝ドラも普通がいい。
(木俣冬)
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主な登場人物
古山裕一…幼少期 石田星空/成長後 窪田正孝 主人公。天才的な才能のある作曲家。モデルは古関裕而。関内音→古山音 …幼少期 清水香帆/成長後 二階堂ふみ 裕一の妻。モデルは小山金子。
古山華…田中乃愛 古山家長女。
関内梅…森七菜 音の妹。文学賞を受賞して作家になる。
田ノ上五郎…岡部大(ハナコ) 裕一の弟子
廿日市誉…古田新太 コロンブスレコードの音楽ディレクター。
杉山あかね…加弥乃 廿日市の秘書。
木枯正人…野田洋次郎 「影を慕ひて」などのヒット作を持つ人気作曲家。コロンブスから他社に移籍。モデルは古賀政男。
梶取保…野間口徹 喫茶店バンブーのマスター。
梶取恵…仲里依紗 保の妻。謎の過去を持つ。
佐藤久志…山崎育三郎 裕一の幼馴染。議員の息子。東京帝国音楽大学出身。あだ名はプリンス。
村野鉄男…中村蒼 裕一の幼馴染。新聞記者を辞めて作詞家を目指しながらおでん屋をやっている。モデルは野村俊夫。
藤丸…井上希美 下駄屋の娘だが、藤丸という芸名で「船頭可愛や」を歌う。
御手洗清太郎…古川雄大 ドイツ留学経験のある、音の歌の先生。 「先生」と呼ばれることを嫌い「ミュージックティチャー」と呼べと言う。それは過去、学校の先生からトランスジェンダーに対する偏見を受けたからだった。
番組情報
連続テレビ小説「エール」◯NHK総合 月~土 朝8時~、再放送 午後0時45分~
◯BSプレミアム 月~土 あさ7時30分~、再放送 午後11時~
◯土曜は一週間の振り返り
原案:林宏司 ※7週より原案クレジットに
脚本:清水友佳子 嶋田うれ葉 吉田照幸
演出:吉田照幸ほか
音楽:瀬川英二
キャスト: 窪田正孝 二階堂ふみ 唐沢寿明 菊池桃子 ほか
語り: 津田健次郎
主題歌:GReeeeN「星影のエール」
制作統括:土屋勝裕 尾崎裕和