『エール』第18週「戦場の歌」 87回〈10月13日(火) 放送 作・演出:吉田照幸〉

森山直太朗、歌う
冒頭『おはよう日本』で高瀬耕造アナが、10月7日に亡くなった作曲・筒美京平の名をあげ、「偉大な名曲は時代を越えて歌い継がれていきます」と悼んだ。【前話レビュー】裕一、インパールへ 「インパール作戦と朝ドラ」
この日の『エール』は、偉大な作曲家のひとり・古関裕而をモデルにした裕一(窪田正孝)の作った曲「ビルマ派遣軍の歌」を、彼を音楽の道に導いた恩師・藤堂先生(森山直太朗)が歌った。森山直太朗はシンガーソングライターなので、その歌はとりわけ染みた。
「古山さんの音楽は国民を戦いに駆り立てる音楽だ」
偶然にも、藤堂先生が、裕一が慰問で訪れたインパールにいた。前線のやや後方、補給路の警備と物資の中継をしている部隊の隊長をしているという。裕一は、藤堂先生に会いに行きたいが、音(二階堂ふみ)と華(根本真陽)のことを思い浮かべるとカラダが動かなくなる。三人で撮った写真を見つめる裕一。カラダが動くなくなるのは、ラングーンにはサソリやカビが出てきても戦争の気配が見えないなか、やっぱり戦争は近くで起こっていて、それが地獄のようであることは画家の中井(小松和重)から聞いているからか。大事な妻子を残して死ぬかもしれないと思うと、やはりためらわれるのか。
自主的に前線に戻ると言う中井に、裕一も慰問に行きたいがカラダが動かないと告白すると、中井はささやく。
「古山さんの音楽は国民を戦いに駆り立てる音楽だ。そのことが良心の呵責を覚えていませんか」
「自分の作った音楽がトゲになっていませんか」
「もしトゲを抜きたくて自分の行いが正しいと思いたくて戦場に行くならおやめなさい。戦場に意味を求めても何もありません」
なんだかすごいことを言う中井。図星をつかれたからか、裕一は意地になり、慰問にすぐ行くと腹を決める。
中井が「戦場にあるのは生きるか死ぬか、ただそれだけです」と言うのは、音楽が応援になるなどという意味はそこにはないのだと突きつけているのだろう。
多くの人を応援したいが、身近な家族をまず大事に考える。
と思うのは、ラングーンと平行して、福島の裕一の実家が描かれているから。病床のまさ(菊池桃子)と裕一の弟・浩二(佐久本宝)が語り合う場面はしみじみした愛情があった。
浩二はまだ独り身。だから家事もできる。音や華のためにお菓子を作り、喜ばせる。

そこに幽霊。唐沢寿明も幽霊化
家族が大事という話で、まさは亡くなった夫・三郎(唐沢寿明)を思い出す。彼はあの世で、安隆(光石研)と将棋をさしている。関内家がキリスト信仰をめぐって特高に目をつけられているにもかかわらず、安隆と三郎という異教徒が同じ格好で同じ場所で仲良くしている。
トランペット、ギター、ドラム
ありったけの楽器を持って藤堂のいる戦地へ向かった裕一。藤堂の部隊には、トランペット、ギター、ドラムを弾ける人物がいた。あとはボーカルがいれば。裕一は藤堂に歌ってほしいと頼む。「おれ? 歌?」と照れながらも、兵士を応援するために決意して、みごとな歌声を披露するのだった。そりゃあ森山直太朗だもの。史実によるとーー
すてきな演奏、すてきな歌だったが、前線の後方とはいえ、音楽が流れていたら敵がやってこないんだろうかと思ったが、恒例『鐘よ鳴り響け 古関裕而自伝』によると、ラングールには30人ほどの軍楽隊がいて、軍を慰問するのみならず、ビルマ住民のために演奏会を開いていたそうで、戦場に音楽はなくてはならないものだったことがわかる。古関は「ビルマ派遣軍の歌」以外にも部隊歌を作ったそうで、でも「ビルマ派遣軍の歌」以外の譜面は残っていない。
古関がインパールにいたとき、ペストが流行していて、ペストとコレラの予防注射をしたそうだ。だが、デング熱にかかってしまった。いろいろ大変だったようだ。
「エール」でのインパールのターンの撮影は、コロナ禍で撮影が一時中断し、ようやく再開してから行われたと聞く。ペストとかコレラとかデング熱とか伝染病が、コロナ禍以降、すこしだけ身近に感じられるので、このターンの放送が2カ月ズレたことも悪い話ではないようにも思う。
(木俣冬)
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主な登場人物
古山裕一…幼少期 石田星空/成長後 窪田正孝 主人公。天才的な才能のある作曲家。モデルは古関裕而。関内音→古山音 …幼少期 清水香帆/成長後 二階堂ふみ 裕一の妻。モデルは小山金子。
古山華…根本真陽 古山家の長女。
田ノ上梅…森七菜 音の妹。文学賞を受賞して作家になり、故郷で創作活動を行うことにする。
田ノ上五郎…岡部大(ハナコ) 裕一の弟子になることを諦めて、梅の婚約者になる。
関内吟…松井玲奈 音の姉。夫の仕事の都合で東京在住。
関内智彦…奥野瑛太 吟の夫。軍人。
廿日市誉…古田新太 コロンブスレコードの音楽ディレクター。
杉山あかね…加弥乃 廿日市の秘書。
小山田耕三…志村けん 日本作曲界の重鎮。モデルは山田耕筰。
木枯正人…野田洋次郎 「影を慕ひて」などのヒット作を持つ人気作曲家。コロンブスから他社に移籍。モデルは古賀政男。
梶取保…野間口徹 喫茶店バンブーのマスター。
梶取恵…仲里依紗 保の妻。謎の過去を持つ。
佐藤久志…山崎育三郎 裕一の幼馴染。議員の息子。東京帝国音楽大学出身。あだ名はプリンス。モデルは伊藤久男。
村野鉄男…中村蒼 裕一の幼馴染。新聞記者を辞めて作詞家を目指しながらおでん屋をやっている。モデルは野村俊夫。
藤丸…井上希美 下駄屋の娘だが、藤丸という芸名で「船頭可愛や」を歌う。
御手洗清太郎…古川雄大 ドイツ留学経験のある、音の歌の先生。 「先生」と呼ばれることを嫌い「ミュージックティチャー」と呼べと言う。それは過去、学校の先生からトランスジェンダーに対する偏見を受けたからだった。

番組情報
連続テレビ小説「エール」◯NHK総合 月~土 朝8時~、再放送 午後0時45分~
◯BSプレミアム 月~土 あさ7時30分~、再放送 午後11時~
◯土曜は一週間の振り返り
原案:林宏司 ※7週より原案クレジットに
脚本:清水友佳子 嶋田うれ葉 吉田照幸
演出:吉田照幸ほか
音楽:瀬川英二
キャスト: 窪田正孝 二階堂ふみ 唐沢寿明 菊池桃子 ほか
語り: 津田健次郎
主題歌:GReeeeN「星影のエール」
制作統括:土屋勝裕 尾崎裕和
【85話レビュー】歌は力になるのか 裕一に感じる盲信することの怖さ
【84話レビュー】窪田正孝だからできる戦時下に絶え間なく逡巡が湧きながら歩き続ける難役
【83話レビュー】一貫して裕一の優しさを演じる窪田正孝の演技の妙